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― 邸宅 ―
[ニルスの職は、村に古来より伝わる物品を保管し、研究する学者であった。
本来の住まいとは別に用意されている館が、彼の職場である。
冷たい潮風を凌ぐ為、一際厚く作られた扉が、コンコンと微かな音を立てたのは、いつもの如く仕事場へと赴く準備をしている最中のことであった。]
――……おや、これは……珍しいお客人だな。
生憎、茶を振る舞う時間もないのだが……一体、どういうご用件かな?
[ニルスの問い掛けに応じるように、扉の向こうの警備員は、手の中の書を広げて見せる。
中に書かれている文章に目を走らせながらニルスは、ほぅ、と感嘆の声を漏らした。]
[百年前の騒動の際の資料には、手を付けたことがある。しかし、それに関しての研究は一向に捗ってはいなかった。
自らがその容疑者として名を挙げられるということはつまり、紐解けずにある謎へと近づくということに他ならない。学者としての探究心が、胸の内に灯る。
まるで冒険に出る子供のような心持ちで、ニルスは口許に微かな笑みを浮かべた。]
長老の星詠みであれば、仕方がない。
まあ、元より断る理由などはないが。
……暫く、待っていてくれたまえ。
折角の御招待なんだ、身だしなみには気を遣わなければね。
[そう言ってニルスは一度、宅の扉を閉めた。
仕事に向かうよりも幾分か仕立ての良い服に着替え、新しい眼鏡拭きを卸し、窓を厳重に閉じ、カーテンを引く。
そうして真っ暗になった宅を出る手にはやはり、卸したばかりだと一目で分かる鞄があった。]
[この男は、村の漁師。名をマティアス。
物静かな男の人生は、数日前――
村の娘と二人で出かけ
一人きりで帰ってきたことから大きく変わった]
[一人海辺から帰ってきた男は酷い怪我を負っていた。
事故か、事件か。
問い詰める村のものたち。
だが、男は何があったのか黙秘した。
簡単な治療が終わり、出血が止まれば尋問が始まれど。
男はそれに応えることはしなかった]
[だが、そんな日々にも終わりがやってくる]
[出ろ、といわれるままに出て、何も見えぬままに屋敷へとつれてこられた。
手は後ろで縛られたまま]
― 屋敷入り口 ―
[引っ張られるままに屋敷につれてこられる]
ここは……どこですかぁいねぇ
[警備員に屋敷だといわれて首を傾げる。
恩赦? とやらの類かと思ったがどうもそうではないらしい]
― 自宅 ―
[昔からこの村と取引のあった遊牧民の一人。
年老いて、皆についていくことが厳しくなったからと、この村に居着いたのは何年前だったか。
大昔の人狼の話も、取引のあった自体から聞かされていた]
ま、呼ばれたんなら、いくだけさね。
[長老からの使いの言葉に、あごひげを触りながらあっさりと返す。
集まる場所は、村はずれの大きな屋敷だといい置いて、他に告げる場所があると去っていく使いを見送り]
[昔々、から始まる話だった。
それは、長い冬の間の暇つぶしで語られる話でもあり、教訓のようにももちいられる、昔話]
人狼、ねぇ……
[口の中で転がすように呟きながら、年老い筋ばった手で荷物をまとめる。
数日分の着替えと、煙草。
くたびれた皮の荷物袋に詰め込んで、戸締りをすます]
さぁ、て。
いきますか。
[ゆっくりと、村はずれの屋敷へと歩き出した**]
[村は、収穫祭に向けた準備でどこかざわめいている。
その華やぎと関係のないように、女は常の如く、
窓辺でこしらえものの布地を手にしていた。
窓辺の女は、窓の外とは無縁のようで…否。
女の手が縫っているのは、収穫祭で用いられる飾り布。
そう、混じれずとも女もまた、収穫祭を待っている。
混じれないのは、ひとえに不自由な足の所為。]
[かたん][ふぁさ り]
[不意に風が吹き抜けた。
村の向こうにある、海からの風であっただろうか。
女の髪に、一瞬潮の香を残して風は過ぎ去っていく。
秋も深まろうというこの時期の風は、ひやりと冷たい。
それでも女は出来るだけ窓を開いていた。
白いカーテンが、ふんわりと宙に踊る。
それを細い指で押さえつけ、窓を少し閉める。
……と、もうひとつの音が扉に鳴った]
[コン] [コン]
なに?
[問いかけてこしらえものをサイドテーブルに置き、
代わりに飴色の杖を手に取る。
ゆっくりと杖を鳴らしながら、片足を引いて歩いた。
随分昔に右の足に怪我を負ってから、女は杖なしでは歩けない]
長老さまの星詠みで。…そう。
来いと、いうのね。
[女は村に生まれて村に育った。
だから抗っても無駄だということを知っている。
静かに睫を伏せて、ほそい息を落とした]
[男の家に、使いがやってきた]
[ひとこと、ふたこと。
会話を交わし――否。
使いの言葉に耳を傾け、頷くばかりで、男から発せられる言葉は無かった]
[何故ならその男は、”声”を失っているのだから――]
分かったわ。少し待って。
[かたりと杖を鳴らし、迎えを待たせて部屋へと戻る。
出掛けるために衣服を少し整え、
大きな帽子を長い髪の上に被ってリボンを結ぶ。
開いていた窓をきちんと閉めて、飾り布に少し視線を落とした]
間に合わないわ…。
[随分出来ていたのが、少し悔しい。
形はもう整って、あとは刺繍を施すばかりというのに。
だからそれも畳んで、荷物の中に一緒に入れた。
ふと思いついて、鏡台の前に置いた小物も仕舞う。
荷物は、そこそこの大きさになった]
[使いに連れられて屋敷に向かう道中、男の手は無意識に自分の喉に伸びていた]
[そこには、古い傷跡があった。病で失った声の残骸が]
[幸い耳は聞こえる為、日常生活に不便は無い。己の意思は、ペンで伝えれば良いだけの話]
…………。
[声にならずに男の口から漏れたのは、果たして嘆きか、それとも――]**
お願い。
[荷物を迎えの男へ差し出す。
杖をつく女が荷物を抱え歩くのは、少しどころでなく困難だ。
予測はされていたのだろう。
迎えに否やはなく、女は彼へ荷物を持たせたまま歩き出した。
女はもうひとつ、それとは別の荷物を持っている]
おかしなものじゃないわ。
[家の扉を閉ざしたあと、ドアノブにそれを括り付ける。
時折訪ねてきては、女のこしらえものを持っていってくれる人。
その人へと、暫く不在にする旨のメッセージを添えて、
様々な布のこしらえものを、扉に置いていく。
その人は、呼ばれていなければいい。
女は風に帽子を押さえて、不安に顔を*曇らせた*]
[お伽噺なんて子供のもの。
伝承なんて古臭いもの。
そんな価値観の中で育ったが故に、]
……へぇ。
[娘はひどく冷めた顔で、その宣告を受け取った**]
─ 作業場 ─
[冬に備えての仕事が増える時期。
忙しそうに仕事の準備をする。
その時作業場に現れたのは使いの男。
使いの男から声がかかれば、
手紙を受け取り中身を確認する。]
まーったく、今忙しい時期だってのに…。
長老の御伽噺に付き合う程暇じゃないっての。
[溜息をつけば困った表情でブツクサと、それでも使いの男に一応の了解を得てから家へ荷物を*取りに帰った*]
― アトリエ ―
[父は絵を描く以外に脳の無い人間だ。
物心ついた時から、母は居なかった。逃げたのだと叔母に聞いた。
だから彼が物心つく頃には、家庭の仕事はすべて彼の役割となっていた。
父一人、子一人。
毎日がこうやって続いていくものだと思っていた。
この日、アトリエに弁当を届けた彼は、父の邪魔にならぬように、床に落ちた物を片づけていた。
戸を叩く音に、父は目を向けない。
絵を描いている時はそういうものだと知る息子は、彼の代わりに、自分への客とは知らず、戸へ向かった]
星詠みで、……そうですか。
[警備員が広げた書には、村に伝わる話が書いてあった。
否、その当事者なのだと、書いてあった。
しばらく書面に目を落としていた彼は、振り返る。
アトリエの中、父の言葉は無い。筆の走る音だけが聞こえてくる。
嘆息すると、窺うように警備員を見た]
お断りする事は、……出来ないのでしょう。
ならば僕は、行きます。
父に手紙を書いて、食事を作り置きしたら、向かいます。
何せ父は何もできませんし、描いているものを考えれば女性を招くのも、いけません。
[大きめの鍋に具沢山のスープを作り、パンを机の上に置く。
幾ら人を呼べないとはいえ、そこまで多くのものを作る時間があるわけでもない。
数日分で良いのだ。
そうして用意を整えた後、彼は手紙に文字を連ねる。
スープを温めて食べる事、下手なものに触らない事、パンが足りなくなったらあの家に買いに行くこと。菜園のトマトは自由に食べて良い事。
最後に、自分は星詠みにより外れの屋敷に行く事。
机に置くと、漸く自分の外出の準備を始める。
小さなバッグにそれは収まった。
アトリエを覗くも、声をかけることはない。
音を立てずに戸を閉めて、いってきますと口の中で呟いた]
[屋敷へ向かう道すがら、誰が呼ばれているのだろうと考える。
誰が呼ばれていても、それは嫌な想像にしか繋がらず、顔を歪める]
――お伽噺だろう。
[何も起きない、と。
願うように、小さな声を落とした**]
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