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[豚の如く肥えた男の悲鳴。
どうやら命までは取られなかったようだ]
――これも、神の与えし試練ですわ。
[胸に右手を当て、視線で空の一点を振り仰ぎながら呟く。
右手の甲には浄化の力持つ有翼人の証――紋章の如き複雑な痣が浮かんでいる。
その痣が視線を集めたなら、その間に下手人は闇に紛れているだろうか]
『天使様!』『お救いを――』
[既に豚男も下手人も信者らの意識にないと気付き、うっすらと唇の端を上げる。
混乱の中で更に被害者は増えていくが、天使に跪く人々の眼には映らぬようだ]
ええ、尊き娘の命は捧げられましたわ。
でも、儀式はこんなにも血で汚れてしまった――
[ばっと風を切る音を立て立ち上がる。
その左手には弓、右手には矢。
右手の聖痕が浄化の光を放つ]
――だから失敗! 失敗ッ!!
救いなんかありませーんッ!!
[頭垂れる人々に向けて矢を放つ。
右手の四本が尽きれば祭壇を蹴り舞い上がった]
馬鹿な鳥……?
[ひく、と唇の端を痙攣させ]
黙んなさいよ、人喰いデブ!
ブクブク太ってるから矢も避けらんないのよ!
[少年の体型を口汚く揶揄する。
番えた矢を血塗れの口に向け、右手を放した]
るっさいわね、低脳地上人!
[程度の低い言い争いをしつつ、次の矢を手にしたが]
――――なっ!?
[目の前で、少年の体が変化していく。
己と対成すような、赤き瞳持つ黒き異形。
地上にも「ただのヒト」は少ないとは聞いていたが、目の前の鈍そうな少年が――]
ただのデブじゃなくてバケモノだったのね……。
[翼人以外の異形など、人間以下の醜い生物としか映らない。
おまけに無機物の矢まで喰い出す姿に、舌打ちし後退する]
黙るのはそっちっ――
[相手の動きは予想外に素早かった。
そして油断していたせいだろう、後方で揉み合う人間に気付かず踵を引っ掛ける。
逃げ遅れた足を手が掠め、ほつれ一つないスカートが引き裂かれた]
何すんのよぉっ!!
[右脛に鈍い痛み。そちらに意識が移る前に、化け物の顔へ向け弓を引く。
既に態勢は逃げに入っており、当てるよりは牽制の意味で一撃を放った]
[化け物が尚も腕を振るってくるなら、次の一撃を仕掛けようかと――完全に意識をそちらへ向けていた一瞬。
衝撃が思わぬ所から来た]
あがっ――!?
[左の脇腹を抉るように。
硝子と鉄線を寄り合わせた歪な槍が、激突し通り過ぎた]
痛、あ、痛ああああぁぁっ!?
[バランスを崩し、無様に翼をばたつかせる]
お、落ち、落ちる訳には――!!
[敵の眼前だから、ではなく、有翼人の矜持として。
白き衣装が赤く染まっていくが、激痛を堪え飛行を安定させようとする]
/*
小物くせぇwww
まあ今回はこっそり序盤落ち目標なので。
どの程度粘るかな……。
死亡フラグ禁止だから、ピンチになりつつ戦い続けるのはいいんだよね。
くあっ……
[どうにか化け物の手が届かない高さで飛行を安定させる。
跳躍されたり、飛び道具があればそうもいかぬだろうが。
何より、最も警戒すべき相手は――]
誰っ!?
有翼人様を傷付けたのはどこのどいつよっ!!
[脇腹の出血が酷いが、手で押さえては武器が使えない。
呼吸を乱しつつも、先程までの余裕が消えた表情で群衆を見回す]
――そこかっ!!
[視線の先には見覚えある姿、目を覆った男が槍らしきものを形成していた。
素早く弓を引き、額を狙って矢を放つ]
知るか。
でもきっと、地上人の汚染肉よりかはマシだわ――!
[コンクリートと硝子を固めた棒状の武器。
こちらの矢よりも発射はやや早かったか。
貫通力は低そうだが、まともに受ければ骨も内臓も一溜まりもなかろう]
――――っ!!
[左手の弓を体の前方へ。今はその強度を信じるしかない。
そして同時に、全力で翼を前方へ叩く。
体は逆に、大きく後退を開始する。
そして激突の瞬間、その身は弓もろとも後方へぶっ飛ばされた]
[体を仰け反らすようにして、棒槍を受け流しつつその下方へ回る。
受け止めた衝撃で胸が軋み、咳き込みながら翼を下に落ちる。
意識は一瞬飛んでいたか――しかしそれも、咆哮により引き戻される]
なんなのよ、あの力……無茶苦茶……
[浮き上がる大小の瓦礫に半ば呆然と。
それでも、そのままではされるがままだと、痛みを押して再び羽ばたく]
ナメんじゃ、ないわよ……!
[身を捻り、左側へ回り込む形で避けようと、右の翼で大きく宙を打つ。
多少の瓦礫がぶつかるのは耐えるしかないと、そう判断した、が]
あ、
[悲鳴は小さかった。
風切り羽根の付け根辺りに、それは抵抗もなく突き刺さった]
ああああああああ――っ!!
[絶叫が響く。
紅い羽根を数枚散らして、弾かれたように高く高く飛び上がり、それっきりその場を去った**]
/*
多分あれだよ。
相手をなめくさってる上に痛み耐性がないから、本来以上に喰らってるように見えるんだ。
まあやられ役意識が強過ぎたのでそこは申し訳ありません。次は調整する。
―ビル街 屋上庭園―
[無我夢中で飛び続ける。
最初は混乱で、次には憤怒で傷の痛みは忘れていた。
それでも疲労が限界に近付けば、何処かに足を下ろすしかない]
――っく……。
[崩れ掛けたビルの上層、庭園の如き場所に、たたらを踏みながら舞い降りた。>>68
下層から至るには危険なその場所は、何処か有翼人の住まう天空の園を思わせる。
そこに先客があることなど、今は思い至らない]
あの野郎……。
[矢を、或いは硝子や鉄の破片を引き抜き、衣服の裾を千切って止血する。
改めて見れば致命傷となるようなものではないが、問題はそこではなかった]
よくも、あたしの翼を……!
[翼を汚され傷付けられることは、有翼人にとって最大の不名誉である。
もし仮に空を飛ぶ力を失ったなら、それは永遠に天上へ帰れず、地上を這いずり生きる事を意味した。
堕ちた有翼人は、地上人以上の蔑みを受けることになるのだ]
許さない……。
殺してやる……絶対、殺してやる……!
[呼吸も荒く庭園を彷徨い、身を落ち着ける場所を探した。
自身に囁く声を聞いたのはその時か]
――だれ、ですって?
[思いも掛けぬ人の声にはっと息を呑むも、一瞬。
鋭く問い返す声に、普段の甲高さは鳴りをひそめていた。
左手に弓を握る。まだ構えはしないが、いつでもそうする用意で]
悪いけど、あんたのお相手する気はないわ。
あたしちょっと、虫の居所が悪いの。
[庭木に身を隠しつつ、声のした方を伺う]
――うるさいわね。
[吐き捨てるように答えたが、声には余り力はない。
相手から手出しのないことに、内心安堵もする]
面倒な相手に絡まれたのよ。
地上にあんな化け物がいるなんて。
[気を付けるべきはせいぜい銃器くらいだろうと思っていたのだが]
それも、同時に二匹も……。
ここまで化け物の坩堝だとは思わなかったわ。
[男の忠告に耳を貸さずこの有り様なのは、恥ずべきことであった。
ぎり、と奥歯を噛む音で答え、顔を俯ける。
翼のことに触れられれば、思わず痛みの元を指で触れながら]
こいつは……異能者にやられた。
物に手を触れず飛ばしてきたのよ。
[そいつの顔を思い出せば、再び怒りと屈辱が沸いた。
それを素直に口にしたは、眼前の男が満足に動けぬと見て取ったから]
あの目隠し野郎……。
あいつだけは絶対に殺す。
[浄化、とは言わずに吐き捨てた]
――いいわ。やりなさい。
既に一度傷を受けた身――
奴に報いを受けさせるためなら、汚れくらい。
[そうして、男の元へ歩を進め――]
[その足音が聞こえた時、既に翼は力を取り戻していたか]
――来たわね、化け物。
[その声に揶揄いの響きは無く、調子は低く昏い。
半目の視線が鋭く少年を見据え]
あんたの相手してやる暇はないんだけど――。
[包丁を持つ側の腕を狙い、弓を引く。
そうしている内、足場は崩落を始めた。
この程度の脆い煉瓦なら、容易く砕き穴穿つ程度の威力はある]
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