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[苦悩するクレストを眺めながら、あのときレイヨと何か話していたらしい様子を思い返す。
そのレイヨが離れていくさいに尋ねられたことに、遊戯室と短く返しはしたから、居間にレイヨがいなくとも気にはせず。
クレストの口が形作る言葉に、ゆるりと瞳を細めた。
年老いても、視力は退えず。
文字は読めなくとも、唇の形は読める]
――どうして、謝るのか……
[さてさて、と呟いたところで。
果物ナイフを手にしたウルスラが居間へと来る姿を見て、一つ瞬いた]
[二人の怪訝な様子にも構うことなく、女は調理場をあとにする。
そのまま抜き身のナイフを手に、居間に姿を現した。
杖をつき、揺り椅子の老人をゆっくり目指す。
ヴァルテリの前に至れば、女は漸く口を開いた]
……ねえ。
何故ころしたの?
ひとだからころしたの?
アイノはひとだわ。ひとだったわ。
ひとを殺したあなたは……どちらなの……?
[女の手はそれと分かるほどに震えていて、
けれど銀の切っ先は真っ直ぐに老人へと向けられた]
― 遊戯室 ―
[聞けても聞けなくても、遊戯室に辿り着くのは程なく。
寝かされたアイノの傍に足を進めて]
ねぇ、アイノ。
…死んだら夢は覚めたかな。
ごめんね、僕が――人狼、なんだ。
[小さく落とす嘘を一つ]
……そう、ですか。
[シンプルな答えに、シンプルにうなずき返す。
死んでしまった、その事に対しても反応は薄かった。
決してその事を理解していないわけではない]
こんな夢、早く、終わればいいのに。
[それを現実と、認めていないだけだ。
首を傾けて、生きている人達へと視線を流した]
[ゆらり、揺り椅子が揺れる。
震える手でナイフを持つ姿は、今朝方の少女に重なり]
……何故、か。
[ひとだった、と断言するウルスラの問いかけにゆっくりとあごひげを撫でる。
銀色のきらめきを向けられていても逃げる事はせず]
ナイフを向けられたから、かの。
[どちらなのか、との問いには小さな吐息を落し。
ウルスラを座ったまま見上げて]
どちらか、たしかめたいかい。
ならば――そのナイフを、つきたてられるのかね?
[震える手の娘を見つめたまま。
怖れる様子もなく、問い返す。
人を手に掛けた後悔も見せぬまま、悠然と]
[ニルスの言葉にゆるりと頭を傾げる。
それから、嗚呼、と呟いて]
扉が、壊れていましたでしょう?
あれは昨日からではなかったと気がして。
何か参考になるものが無いかと、
わたくしなりに調べておりました。
何も、わかりませんでしたけれど…、
っウルスラ様、
[居間を目指して歩いていく彼女を見て
伸ばした手指の先が、
ニルスの服の裾に不安げに触れた]
[震える女は、背後の人の気配に気付くことはない。
ただ揺り椅子の老人を見つめて、唇から漏れる呼吸も乱れている。
それでもナイフを離すことはせず、老人の言葉を耳にした]
……そうしてひとを、みんなころすの?
ドロテアやマティアスみたいに、みんなころすの?
確かめるなんて──… …っ
[言葉と同時に、また涙が零れる。
ゆっくりとナイフを持つ腕を振り上げた。
そうして銀の刃を老人へ向け振り下ろす。
力ないそれは、老人の手にも容易く止められるかと思われるほど]
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