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[手持ち豚さんなのでのんびり文庫本読んでた。
手を貸してといわれてはつねの方を向いて]
――。
[口を開き、何か言う前にゆうきが返事する。
無表情に目を瞑り、何となく機を失って、息を吐く]
弾けるよ。
[何でも、とまでは言わなかったが、笑みを浮かべ]
何を夢見てるの?
[言いながら、ケースの中から愛用のヴァイオリンを取り出す]
しかし残念ながらここからじゃ届かないんだな。
夢はいろいろあるわ。
人間になる夢、マスターが笑ってくれる夢。
ハツネが幸せになる夢。ルリちゃんが院長先生と結婚する夢。
空を飛ぶ夢でもいいわね。
「『夢路より』ですって。弾ける?」
レンがモニタから視線を外し、悪戯っ子のような笑みを浮かべながら訊ねて来た。
「もちろん。でもハツネが弾けるなら私が弾く必要はないんじゃないのか」
「いいじゃない、たまにはこういうのも」
それだけ言うと、レンは椅子に深く腰掛けて瞳を閉じた。
パソコンに音楽聴かせるなんて初めてだよ。
[くすくす笑いながらコンピュータ室へ戻る。
窓の外を見ると、いつの間にか吹雪はおさまっていた。
冷却ファンの音だけが、室内に低く響いている]
今日は、オトハさんの幸せを祈って弾くとしますか。
[楽譜を思い出し、その通りに演奏をする。
離れた蝶から、もう一つの旋律が響いていることにも気付かず。
場合によっては間違えたフリをすることも出来たけれど、今回ばかりは機械的に正確に]
[目の前のルリを心配そうに見ながら、聞こえた微かな息遣いに顔を上げた。
音を漏らした張本人を見て軽く目で笑って、ポケコンを操作してメモリを取り出した]
壱乃宮さん、これ、ワクチン。
もし、ハツネちゃんに使うなら持ってって。
[読んでいた本すら閉じて所在なさげな姿。
その目の前へワクチンプログラムを移したメモリを投げた]
[終演後、コンピュータに向かって、丁寧に頭を下げた]
――で?
[何も変化のないモニタを渋い顔で見つめる]
[座ったまま、顔色を変えずにゆうきを見上げる]
……ん。
[微妙な表情でユウキの言葉を聞き、それでもメモリは受け取る。
どっこいせ、とか言いながらじじむさく立ち上がった]
[ぺたんぺたんとスリッパ鳴らして部屋を出る]
……さむー。
[白い息を吐きながら、
はつねの後を追うように弦楽の聞こえる部屋へ]
キーボードを叩きながら、レンは冷静に言う。
「イヴの子がヴァイオリンと相性がいいのは、博士がヴァイオリンを好きだったからだと思うわ。ロボットの第六感も捨てたもんじゃないのよ?」
「で?」
「ヴァイオリンの音色が一つの鍵」
レンは、楽しそうな笑みを浮かべた。
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