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[街を奔る無数の蛇の集団や、有翼人と街の賞金稼ぎの衝突、熱孕む屋上庭園の在ったビル跡、そのどれも人の目を引くには充分な物だろうか?
街に精通する『情報屋』なら、容易く掌握出来る類の情報だろう。]
[周囲の、食餌した者の、影響。
其れは具わる能力ではない。
対象の脳の摂取による影響は、あの隔離され汚染したとされた『檻』の中で、一つずつ遺体を喰べる中で裡に育まれたもの。
一人きりで鎖された中、もの想いする―――ただそれだけの、心であり能力ではない。]
『あれ』呼ばわり?
[ぽつり、投げかけ。]
死にたい訳じゃない。
疑問に対する答えが欲しい。
[延々と続く実験環境であるが故に狂気が常態であった。だが、やがて裡に正気を育んだ。生きる為が故に常日頃意識は活性化する事はしない。]
[「炉」の温度が更に高まり、男の髪が気流で逆巻く。
赤い徴は研究施設の刻印。細かな意匠。
包み込んでいた手がゆると上下に動けば>>39、男の両手から炭化した皮が落ちる。]
この世界で、
もしも生きる意味があるなら。
[額をちりちりと焦がそうとする熱。
「押し潰す圧」の意志は容易く察せられ、
けれども、受け入れながら男の意識は身を引き受け流された。凹みの容から、片方の出っ張りを後ろへ押し出し、滑らかな斜辺で「圧」を流すように。]
[両手が崩れる前に、火脹れだらけの手は離された。
ざらつく声や、息遣いは、掠れて甘ささえ感じさせ、
妙齢の少女なら幾らか心をときめかせもした事だろう。]
レーメフトとなら生きたいけど、
死にたい訳じゃない。
誰かの代わりに殺されたい訳でもない。
[生贄の苦痛長引かぬよう生贄の少女を殺そうと無意識の選択をしても居たけれど。]
誰かの為に、
命を棄てるなら、
生きようだなんてしてない。
[綺麗な死に方や、呆気ない終わりを受け入れる過去は既に歩んではいなかった。喩え、もがき苦しもうと、幾つもの遺体とその思い出を犠牲にはしきれなかった。
喩え彼等の想いが、男の意識と記憶を混乱させようとも。]
[周囲の殺意ある視線に抗する為にか、
軽業師から僅かに距離を取り、ぱらぱらと炭化した皮膚と肉落ちる手を緩くあげる。]
まだ、思い出にはなれない。
[喩え、永劫荒れ地をゆこうと。*]
[―――その瞬間。]
[男を横殴りの衝撃が襲う。
誰かが、爆弾を仕掛けたのだろう。
崩れていたビルの横が吹き飛び、男の身体が瓦礫と共に、吹っ飛んだ。
軽業師が如何なったか定かではないが、
男と分断された形であるのは間違いない。
爆縮を行えば、ビルが内側へ倒壊した筈だが、それが無かったのは、その計算が出来る者が居なかったからか。]
…―――…はっ、
[空気の塊を肺から押し出す。
腹部が重く熱い。口元から溢れるのは血液だろう。
音が聞こえる。喜び、歓声、興奮の]
うぅ……―――〜〜〜〜〜〜
[皮が再生し切っていない血濡れの指先を、側頭部から片頬にかけて押し当てた。もう片方の手が、ぬめりと這う何かに触れる。躊躇わず、掴んだ。―――…蛇だ。]
[「前頭葉のみ」を灼き潰そうとした意志までは察せられてはいなかった。恐らくは、「思い出」に反応した結果だろうか。]
[もし――――、]
[あの時、其れを知っていれば、行動は変わっただろうか?命ある侭、意思無きものとなることへの―――。]
[音は、聞こえなかった。
瓦礫が「崩れる音」も、何もかも―――。
インパクトの瞬間以外は。
異能の血は辺りに撒かれている。]
[粉塵の中の様子は、光がなければ窺い知れない。]
[ひゅ] [ライフルを構える住人の胸に、鉄棒が生えた。]
[ひゅ] [起爆装置を持つ男の頭を、鉄棒が貫いた。]
[ひゅ] [少年少女の身体が纏めて何処かのビル壁に、鉄棒で縫い付けられた。]
[ぐちゃり] [何かの咀嚼音が一つ]
[ひゅ] [安全装置に指が掛かりきりの少年の胸部を]
[ひゅ] [ククリナイフを構える男の首を]
[ひゅ] [マシンガンを乱射し始めた老人の胸を]
[音と、感情の源へ、
次々と指の太さ程の鉄棒が飛んでゆく。]
[蛇を咀嚼する音が響く。
粉塵の中、両足を踏ん張らせ立ち上がり、
口元から蛇の身を躍らせている。
他の蛇の群れが、この殺し合いに巻き込まれたかどうかまで、男が今意識を向ける事はない。]
[片手をゆるゆると上に掲げ、ひゅっと降ろした。]
[男の頭上に浮かんでいた、大小様々な瓦礫達が、
まだ命ある者達を、骨砕きながら薙ぎ払う。
阿鼻叫喚、血臭が合歓の匂いを掻き消していた。]
[ビクン、ビクン、と身を躍らせる蛇は、まるで男の口から生えた舌のようだ。其れを丹念に噛み砕いては、嚥下し続ける。]
[肋骨が折れ、内臓が潰れていた。皮膚や筋肉ごと骨を掴み、元の位置に戻そうとする。その間、蛇を強く噛み締めていた。]
[―――其れ>>74は、
『檻』に居た時と然程変わらぬ環境でもあることか。]
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