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ねぇダーリン。
[久方ぶりに声を掛け──自らの呼びかけにぷっと噴き出す]
ハニーの方がいいかしら。はにー。
[足どりは軽く、リズミカルに階段を上る]
ねぇハニー。
私が、廃棄処分されなかったのは何でだろうね。他のみんなみたいに。
──私が、生きることを願うものが居たから?
ルリやライデンみたいな、優しい人が居たの。
[カナメから返ってきた答えに、複雑な笑み]
[たどり着いたのは、一つの機械のある部屋]
使い方くらい知っているわ。
[カナメの声にむくれながら、表面に指を走らせる]
原理は知っているけれど、不思議ね。
[浮かび上がるのは、舞台の上で朗々と歌い上げるライデンの姿]
本当に怪人なのね。
[演目は”オペラ座の怪人”]
[何かのタイマーなのか、長い時が過ぎたのか、立体映像は、大空を羽ばたく鳥の姿を映し出していた]
とり。
ミナツが描いていた──レンが見たがっていた景色。
[呆然と見つめる]
これは過去。
誰かにとってとても大切なもの?
大切だから、それが失われると悲しくて、死にたくなる?
私には……世界が美しく見えるのは。積み重ねた過去はないから……なのかな。
津島要の記憶より、いま目が覚めてからのことのことの方がつよい。
いつか──ここに在るだけの思い出だけでは、生きていけなくなるのかな。
[胸元に手をやり、かさりという手応えを感じた]
?
[出てきたのは1通の封筒]
プレーチェが、獏に──アンからの手紙。
東海林 杏。
[ユウキの呟いていた名前を思い出し、震える指で封を開ける]
『杏へ
おはよう。
きみがこの手紙を読んでいるということは、私は隣にいないのだろう』
[手紙はそんな書き出しから始まっていた]
[時折乱れがあるけれど、意志の強そうなしっかりとした文字で、杏が現代の医療技術では治癒できない病であること、未来に希望を託して冷凍睡眠に入ったことが記されていた]
『きみが健やかで幸せであるように。
父より』
[読み終えて、反射的に手紙を握りつぶそうとしたけれど、首を横に振り、ゆっくりと封筒に*戻した*]
きっと。誰かが生きて欲しいと願ったり、自分が生きたいと思う人が、ゴールドスリープについたんだ……。
そんな人を食べた……んだね。
[くぅとお腹が鳴った]
あぁ……お腹すいた……。
ねぇハニー。
アンもプレーチェも生きたかったろうに、私は食べたの。私が生きるためには、必要だったの。
たぶん……彼女たちが生きていたなら、私は壊れていたと思う。それはどうしようもない。
だけど、死を望む気持ちが分からない。
過去ってそんなに素晴らしいものなのかしら……。
私は食べられるし、2人も向こう側に行けるから、めでたしめでたし、でいいのかしら。
私は悪くない?
ハニーは甘いね……。
──獏ならなんて言うんだろう。な。
難しいこと。言うのかな。
[そのままぼんやりと、立体映像を眺めている。]
[縁日の情景や、圧倒的な迫力を持つ舞台が映し出されている*]
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