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― 屋敷 居間 ―
[ここで待て、といわれたから、言われるままにソファにこしかけた。簡素な服に包帯だらけの男は、おそるおそるといったありさまだった。沈み込む柔らかさのソファが怖いのだろうか。
今も腕の縄は結ばれたまま。
目を隠す頭も包帯も取れず、瞼も強く閉じたまま。光は戻るのかそれすらも男にはよくわからない。こんな手では瞼に触れることすらままならない
落ち着かない]
―― ……ろして、くれれば、いいの、に
[星読みなどまどろっこしいことなどせず。
そう人のいない居間で呟いた。
遠くで、誰かが風呂を使っている。タイルが水に叩かれる音がいやに*響いた*]
[屋敷の中に入ると、既に見知った顔がいくつか。彼はこれから起こる事を憂い、目を伏せた]
[この村に移り住んでから10年ほどになるだろうか――。声の無い自分を奇異な目で見る人もほとんどおらず、良くしてくれた。故に、伝達手段の乏しさに歯がゆい思いもしたものだが]
………っ。
[その村に、人狼が現れると言うのだ。嘘だ、と叫ぶ事が出来たらどんなに良いだろう]
……ッ!
[ほとんど同時に屋敷に辿り着いた包帯だらけの男(>>39)を見て、彼は息を飲んだ]
………ガ……ッ……?
[マティアス?と声をかけるが、しかし喉の奥から漏れたのは声にならない声だった]
[マティアスとは歳も近く、村に来たばかりの頃はよく遊んだりもした間柄だった]
[数日前に酷い怪我をして帰って来た、という話は聞いたが、それ以来その姿を見る事は無く、ずっと心配していたのだが――…]
[まさか、まさか、こんなにも酷い有様だったとは]
[彼はマティアスに手を伸ばしかけ――かぶりを振った。
目を塞がれ、拘束され、酷く怯えている彼に、声を失った自分が何が出来るだろうか]
[悔しげに、悲しげに、顔をゆがめ――彼はそっとマティアスの傍から離れた。喉の奥から漏れる自分のうめき声は、きっと、余計に怖がらせてしまうだろうから]**
[そして自分が居間に通された直後に、誰かが来る気配]
[声ならぬ音を耳にする。聞き慣れている。
つい、よく見知った彼が出すその音を>>41]
クレス、ト?
[会うのは数日ぶりになるだろうか。
目が見えない。距離感が解らない。だから、手を伸ばされていても、まるで無頓着に反応できやしない]
ごめ、ん…… ごめん……
なんで…、お前が、 …… ごめ、ん……
[こうなる前だったら、Moi!と声をかけ、ふざけた時侯の挨拶などもしたが、今はまるで、何かにおびえるように背中を丸めてソファで小さくなる。
その謝罪の声も、やがて小さく、クシャクシャになっていった]
/*
どうも、ほいほいされてだんぼるでもいもいしているおやまです
表情のある子はいろいろむずいんで、
いっそ目がねえやつにしました
ハゲに引かれたのはいつものことですが、ここはぐっとがまんだ
あいつは目力がある…!
/*
時代はどのあたりなんだろう、と思いつつ。
*/
『身体の一部に欠損がありながらも生きている人は、神の加護を受けている証であり、災いを退ける力がある』――…
僕が生まれ育ったのは、そんな伝承のある小さな地方都市でした。
都市とは言っても名前ばかりで、集落の規模はさほど大きくはないのですが。
その人たちは大切に扱われる一方で、村に災いが降りかかった際には、生きたまま供物となる運命を背負っていました。彼らの持つ加護によって災いが鎮まると、そう考えられていたのです。
――それは、領主の子として生を受けた僕も、決して例外ではありません。
15回目の誕生日を迎える少し前、僕は喉を患いました。
大きな病院で手術を受けなければ余命幾ばくも無いと宣告され、馬車でも数日はかかる距離にあるという大都市の病院に移りました。
幸い発見が早く、一命は取り留めたものの――
その代償として、僕は声を失いました。
伝承を知る両親は、さぞ嘆いた事でしょう。
病から救われたというのに、生き供物となってしまったのですから。
両親は、領民にその真実を伏せました。
回復に時間が必要だと偽り、海沿いにあるこの村に僕を預けたのです。
しばらくは、両親からの手紙も仕送りの荷物も届いていました。
ですが数年前、それがぱたりと途絶えたのです。
送った手紙への返事もありません。
何かあったのではないか――。
日に日に不安は募ります。
ですが、それを知る術のない僕には、ただただ、手紙を待ち続けるしかありませんでした。
やがて、僕は知りました。
村を訪れた行商人の口から、その噂を。
僕の故郷が、人狼によって滅ぼされたと、言う事を。
[屋敷の中にはいったころには、まだクレストやマティアスはおらず。
先に来ているニルスと顔をあわせ]
もい。星詠みで、おまえさんもか。
[供儀も来ているとしれば、吐息を零し]
部屋はいくつかあるだろ。
[そういって一部屋、自室としておいた。
荷物を置いたあとは居間へとやってきて――]
こらまた、面倒なやつらばっかり……
[声をなくしたクレストが居間を出て行くのと入れ違いに入り。
小さく呟くマティアスをみながらやれやれと肩をすくめた]
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