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[音が消えた直後、急に世界がぐるりと回る]
ぅ、わ!?
[視界が回る不快感に思わず声を上げ、瞳を瞑った。それからしばし後、ゆっくりと瞳を開けるとそこには]
………戻って、来た?
[立っていたのは駅前公園の中。目の前には一部が壊れた子供の像がある]
終わった、かぁ……。
何か、長かったような、短かったような。
…どっと疲れた。
[言って大きく息を吐いた]
皆大丈夫か?
[傍に居た者達に声をかける。狭間に居た者以外にも居たかも知れないけれど、無事が確認出来たなら安堵の息を漏らした]
……あっ、あんのクソ兎殴るの忘れたっ。
[「ワスレモノ探し」以外の遣り残しを思い出し、ぐっと拳を握った。おそらくはもう目にすることは無いのだろう。あの兎がまたヘマをしない限りは]
ま、一段落した、ってことなんだな。
大事にならなかったんなら良いか。
[色々あって疲れたのもあり、そう言って切り上げることにする。それぞれの無事を確認したなら解散して、自分は公園傍の道端へと向かった]
あー、やっぱあった。
[そこにあったのは飛ばされる前まで持っていた乾物屋の袋。10年前に飛んだ時には既に手に持っていなかったから、落としたのはここしかあり得なかった]
そんじゃ家帰りますかね。
[自分の「ワスレモノ」がなんだったのかは分からず終い。けれど確認してみたいことはあったから、そのまま家路を急いだ。その後、買い物をして来なかったことで妹に批判されるのはまた別の*話*]
『ワスレモノ、みつけた?』
[声が聞こえる。]
みつけた。大切な、ワスレモノ。
[自分の答えに、返事の代わりに時計の音が響いて、]
─ 後日のこと ─
「菊ちゃんってさ、少し変わったよね。」
[休日。
友人と二人で歩いていたら、不意にこう言われた。]
「何が変わったとか、うまくは言えないんだけど。
前よりも今の菊ちゃんの方が、らしい気がする。」
[そういって笑う友人に、自分ではよく解らなくて首を傾げてはみたけれど。
友達の楽しそうな笑顔に悪い気はしなくて、こちらも笑顔になった。
話題は他愛のないものに移行しながら、目的の場所へと歩を進めて。]
「あ、ねぇ、ここじゃない?
ギャラリー刻って書いてある。
…楽しみだね、写真。
葉書くれた人…六花さん、だっけ。」
[友人の言葉に頷くと、嬉しそうに笑いながら二人一緒にギャラリーの扉を*くぐった。*]
[自分を呼ぶ息子の声に、目を開ける。]
うん。だいじょうぶだよー。ごめんね。
[壊れた像の建つ、池の前。
ぼーっとしていた自分の手を引く小さな手をそっと握って、]
ねえ、ひろくんは、みーちゃんのこと、すき?
[しゃがんで、目線をあわせて訊く。
返ってきたのは、]
そっかぁ。おかあさんも、みーちゃんも、ひろくんも、それから、おとうさんもだいすきだよー。
みーちゃん、かえってきてくれたらいいねー。
[かえろっか。
荷物を拾い、あいている方の手で小さな手を握る。
帰ったら、彼女に電話をしよう。
何を伝えようか。頭の中で整理する。
元はといえば、自分にも原因があるのだ。
少しずつでいい。彼女が自分を許せるように。
細い肩に、誰にも気づかせないように担いだ荷物を受け取れるように。]
やねよーりーたーかーいこいのーぼーりー
[スキップしながら歌う息子の声。
それが、幼い頃のみーちゃんの声に重なり、
ポーンと、どこかで鐘の音を聞いた気がした**]
―風音荘―
あーもしもし?オレだけど。
……うん、いやわかってるって。
成績?……今はいいじゃん。
[こちらに戻ってから、まず最初にしたことは実家への電話。
すかさず繰り出されるお決まりの文句を受け流そうとし]
はいわかった、わかったってば。うん。
……それでさ、送ってほしいものがあるんだけど。
[逆に説教を受ける羽目になってしまい、本題に入れたのは<<07>>分後だったけれど、さておき]
[それから少しして、それは届いた]
おー懐かし。
捨てられてなくてよかった。
[目を細める。
もう覗くこともなくなった幼い頃の“たからばこ”の中にでも埋もれていたのだろう。
塗装はすっかりはげてしまっている]
……さて、と。
[向こうで手に入れた“欠片”――鍵は、昔のまま綺麗な銀色で、比べてみればちぐはぐにも思えた。
けれど鍵穴に差し込めば、たしかにぴたりと嵌った。
そのままゆっくりと、右に回して]
[かちり、と音がして、蓋が開いた。
同時に流れ出すのは、幾度も聞いた曲のメロディライン]
あーそうだ。コレだった。
[あの空間から戻った後、音楽プレイヤーは元通りになっていた。
タイトルの分からないあの曲は、何度確認しても見当たらなかった。
とは言え、耳にはしっかり残ってしまっているが]
……と、あった。
[その箱の底から、紙を引っ張り出した]
[そこには「またあそぼうね」という言葉と、すっかり忘れていた初めての友達の名前。
まだきちんと字を習う前だから、鏡文字になっていたり大きく歪んだりはしているけれど、確かに読めた。
傍には親が書いたのだろう、新しい住所と連絡先も書かれている]
せっかく貰ったのに、鍵なくしちまうんだもんなー。
[大切にするつもりでポケットの中に入れて、何処かに落としてしまって。
連絡が出来なくなったと随分嘆いたことすら、ついこの間まで忘れてしまっていた]
……あれ、つーかこの住所って。
[それからもう一度見返したところで、気付く。
記された住所が、よく知る街の名前であることに]
もしかして、こっから近い……?
[顔を上げて、窓の外を見る。
その耳にあの音色が届いた、気がした**]
[あの不思議な体験から、自分を取り巻く状況は随分変わった。
まず、家族。
父や兄達が母のことを話すようになった。
母の実家に家族全員で出向き、祖父たちとも話し合うようになった。
先はどうなるか分からないけれど、また一緒に暮らせるように、頑張っている。
母に、忘れてしまっていたことを謝りも、した。
母はぎゅっと、あの別れた日と同じように抱きしめてくれて。
二人で泣いて、笑った。]
─ 自宅 ─
……あー……ったく。
[色々と超越した事態が終わった後。
見合い話攻勢に一段落つけたら、何だか妙にぐったりとして。
紫煙を燻らせつつ、窓辺でぼんやり、としていた]
……『約束』……『約束』……かぁ。
[もう少しで届きそうなそれへの道は未だ開かず。
少しだけイライラしていたら、ドアをノックする音と、「兄さん入るよ」という声がして]
んー? 構わんけど、どした、慎哉……って、なんだその箱。
[入ってきた弟の抱えた古びた段ボール箱に、瞬き一つ]
「蔵の整理してたら、出てきたんだよ。
兄さんの、昔の教科書とか色々。
勝手に処分できないな、と思ったから、帰って来てる内に見てもらおうかと思って」
ん、そっか、悪ぃな。
「……次。いつ帰って来るか、わかんないもんねぇ」
それ、いうなよ。
仕方ねぇだろ、そーゆー世界なんだから。
[苦笑しながら言うと、弟は大げさなため息をついて、部屋から出て行く。
その姿がドアの向こうに消えると、置いていかれた箱を開く]
うっわ、懐かし……つか、俺こんなん取っといたのねー……。
[古びた教科書やら、ノート。
そんなものを一つずつ手に取り、ぱらぱらと捲る。
実用性など既に全くないそれらは、けれど。
大事な欠片のように、今は思えていた]
……て、これ、日記?
うわ、こんなのつけてたのね俺……。
[段ボール箱の、一番下に入っていた日記帳。
茶化すような声を上げながら──開くのは、一瞬、躊躇った。
それでも、もしかしたら、と。
記された日付に、仄かな期待と不安を寄せつつ──ぱらぱらとページを捲り、そして]
……あれ、なんだこれ。
[途中から、何も記されていない日記帳は。
空白の数ページを経た後、奇妙なページに行き当たった。
日付と、一行だけ。
予定のように記された文の上に、大きく×が書かれたページ]
……『はると、神社で一緒に描く』……って。
[×の下の文字に、瞬き、一つ。
それが意味するものが何か、すぐにはわからなくて。
わかった瞬間──色鉛筆と菊子にもらったレポート用紙の入ったままの鞄を引っ掴んで、駆け出していた]
─ 海岸神社・跡 ─
[昔、絵描きに通った神社は、今はただ、綺麗に整地された空間が広がるのみで。
人影もなく、しん……と静まり返っていた]
……ほーんと、当時の俺ってば。
どんだけ、ガキだったんだか。
[ぽつり、呟く。
絵を描くのが好きだったいとこ。
向こうは海を描くのが得意で、こっちは空を描くのが得意で。
一緒に絵を描いても、互いに互いのその部分に文句を言い合っていた。
そんなやりあいの後──それじゃあ一度、一緒に描いてみよう、と。
そんな提案をいとこがして、それに乗っかって。
いとこの誕生日に、一緒に海と空を描こう、と『約束』した──けれど]
あいつは、心臓の疾患で転院して、それに間に合わなくて。
……それが、悔しかったんだよ、なぁ。
[それから、自分自身。
落ち着きないとか、すぐに思ったことを口にするとかはそのまま、だけど。
前よりも、視界が広がった気がする。
それと。]
聞いてくださいよ、貢さん。
お見合い、断れなかったって言うんですよ。
そりゃ、一度は引き受けましたけど。
[以前とは心境が変わったと言っても、切欠は説明できるわけもなくて。
期間限定の柏餅を買う為足繁く通っている内、すっかり話し相手になってもらった人に愚痴った。]
[言い出したのは向こうなのに、と。
そんな、子供っぽい憤り。
その頃は、いとこが難病で苦しんでるなんて知らなくて。
一方的に、すっぽかされた『約束』を記憶から消した。
そのことを、いとこがどう思っているか、なんて気づく余裕は当然の如くなく、そして]
……それから、2年してから……か。
[手術をするも、術後経過が芳しくなかったいとこは、転院して2年後にこの世を去った。
その時、初めていなくなった理由を聞かされて、それで]
思えば、あんな突発的に医者になる、それも心臓外科医とか言い出して。
よくもまあ、色々通ったよなぁ……。
[家族も驚いたし、当然の如く、高校の担任も進路指導部もひっくり返った。
けれど、理由は言わずに押し通して──今に、至る]
ま……俺が医者になったところで、あいつを助けられるわけじゃなかったけど。
[それでも、通したかったのは、きっと。
何も知らず、何も出来なかった事。
その悔しさを越えて、何かしたい、と思ったから]
……なー、はる。
[その場に座り込み、引っ張り出すのは色鉛筆とレポート用紙]
お前、『約束』守れないと怒る、とか言ってたけど。
……でもって、確かに怒ったけど。
[手に取るのは、深い蒼の一本。
白の上に、線が引かれる]
むしろ、怒ったのは。
……お前が、ちゃんと言わなかったから……なんだからなー?
[届かない呼びかけをしながら、蒼を、波を、白の上に写し取る]
っとに、さ。
……ばかやろが。
[でも、と。
ここで一度、言葉を切って]
……ごめん、な。
[小さく呟く。
蒼が踊る、その上に、青が踊る。
一緒に、ではないし、日付も違う、けれど。
ずっと描かずにいた、『海岸神社からの海』を描く事で。
忘れていた『約束』は果たされる]
─ 後日 ─
[ある程度の調合を終え、店番をするその最中。暇を潰すように捲るのは、古めかしいノートのページ。それを見ながら別のノートに新たな文字を書き連ねていた。書き記すのは、いくつもの系図のようなもの]
あそこん家って同じ症状発症するんだな…。
てことはこれとこれが併発する可能性もあって…。
[祖父が書き残した治療歴のノート、それを紐解き読み込めば、様々なことが見えてくるようになった。これまでの治療歴とこれからの治療歴、それらを合わせれば、この先どんな病にかかり易いかも見えてくる。祖父が培って来たものと、自分が大学で学んだことを融合させた結果だった]
───ふー、ちょっと休憩っと。
……あれに巻き込まれなきゃ、こんなのがあるなんて知らなかったよなぁ。
[傍に積んだノートの山。それを見つめながら小さく呟く。蔵から引っ張り出してきた祖父の治療歴ノート。祖父が死んで以来、片付けたそれを開こうとしたことは無かった。単なる祖父の遺品で、読む必要がないと思っていたからだ。けれど10年前に飛ばされたあの時、祖父の書斎でそれを目にし、戻って来てから確認して。読み込むことでそれが如何に重要なのかを初めて知った]
でもなぁ、これが「ワスレモノ」って感じはしないんだよな。
そもそも知らなかったことなんだし。
[あの時見つけられなかった「ワスレモノ」は未だ見つからないまま。祖父が遺したはずの、自分宛の封筒すら見つけることが出来なかった。あの封筒が仕舞われた小箱は一体どこにあるのだろうか]
…まぁ、考えても分からないことは分からない、か。
これがあるって分かっただけでもめっけもんだろ。
[「ワスレモノ」は見つけられずとも、大切なものは見つけた。これから先、自分が店を続けるために必要なものが]
──あ、こら。
そっちに入るなっつってるだろー?
[座ったまま伸びをした時、母屋と繋がる廊下から飼い猫が店の方まで入って来る。猫がそのまま扉を開け放していた作業場へ入って行こうとしたため、慌ててその身体を拾い上げた]
お前の毛が入るとダメだから進入禁止、OK?
[言いながら作業場の扉を閉め、畳に座って猫を膝に乗せる。頭から背中にかけて撫でてやると、大人しく胡坐の上に猫は丸まった]
ナツメは向こうで大人しくしてるのに、ツユクサお前は何でいっつもこっちに来るかね?
営業妨害は勘弁してくれよ。
[カウンターに肘をついて手に顎を乗せながら、胡坐の上に陣取る猫を見下ろす。猫は不満そうな態でぱたりと一度尻尾を揺らした]
[猫がこちらに来る理由がなんなのかは理解している。2匹共通でお気に入りらしい場所があるのだが、いつもそこをナツメが陣取り、ツユクサが負けて追い払われてしまうのだ。猫達のお気に入りの場所は、窓際に置かれたクロスのかけられた小箱の上。いつからそれがあるのかは覚えていない]
喧嘩しちまうなら、あれ取っ払っちまった方が良いかなぁ。
[その言葉に、膝の上の猫が不満げに、にー、と鳴き声を*上げていた*]
まあ。
顔合わせだけすれば断って良いっていわれたし…
そもそも相手の方から断られることもあるん、ですけど。
[見合い自体、したくないと思うようになった。
それは何故かわからないけれど、和馬の顔が浮かんで慌てて顔を横に振って。
結局押し切られた見合いの席で、向かいあわせに座った人の顔を見て。
驚きに目を丸くしたかどうかは、その場に居合わせた人しか*知らないこと。*]
いいね。俺も行ってみたかったし。
いや、でもそれは。
[付き合わせるのは自分だしとかあれこれ言いながら、ゆっくりと薄灰色の灯台を降りた]
ああ、向こうの人達も無事に会えたみたいだな。
後は……。
[狭間からの声に耳を傾け頷いて。
風の吹いてくる方、今は水平線の向こうに視線を走らせると]
これで還れるかな。
[響く鐘の音は12回。
その間に六花と顔を見合わせられたかどうか。グルリと世界が回り始める]
……おい、ウサ公。
お前も忘れ物してくなよ。
[揺れるような感覚に目を瞑る前、チラリと見えた兎に左手を伸ばす。
飛び出したナニカは銀の光の尾を曳いて、本来の持ち主、兎の元へ。
フゥと息を吐き瞼を閉じた]
[カチカチと左手の腕時計が時を刻む。
秒針も短針も長針も。いつものように動き出す]
……ただいま。
[目を閉じたままでの呟き声は風がヒュルリとどこかへ運ぶ。
見つけた「忘れ物」をしっかり持って「現在(いま)」を歩くために。
瞼を上げて、次の一歩を踏み出した**]
― 後日/ギャラリー 刻 ―
いらっしゃい――… あ、菊子ちゃん!
[扉の音に振り返れば、弾んだ声が菊子を迎える。]
来てくれたんだ。ありがとー。
お茶も出すから、ゆっくりして行って ね。
あれから幾つか写真も追加したの。 ……ふふ。ウサギの写真だよ。普通のロップイヤーだけれど。
[声弾ませてお茶を淹れながら、視線はふと菊子に向く。友達とふたり、並んだ背。
固い声で名乗ってくれた出会いの日より、何だか少し大人びたように見えた。**]
[>>46金色の光など知らないという言葉に首をかしげて、>>100二人がうさぎに力を押し付けられたという話を聞く。
ふと、この空間にいる飛鳥の声を拾ってくれた人がいたことを思い出す。
ならば力を押し付けられたのは二人だけではなくて、他にもいたのだろうか思考を巡らす。
>>101チカと佑樹に加えて、時計屋さんも探してみたらどうだろうと提案しかけ――>>102]
無事でよかった。
[合流できたことを喜びあい、情報交換にいそしむ。
>>106歩き回って、あちら、にいる人をみかけても干渉することはかなわず、時折浮かぶ幻はたわいのない日常の風景。
ワスレモノ、が彼女にまつわるものであるという以上の情報はみつけられなかった。]
― 更に後日/青海亭 ―
チカノちゃんー!来たよー。
…あ、おばさん。お久しぶりです。
[青海亭の入り口を潜り、案内された席につく。
チカノやチカノの母親と二言三言挨拶を交わし、お勧めを聞いて注文を幾つか。
そうして、省吾へと向き直った。]
今日もお疲れ様でした。
……個展ももう直ぐ終わりです、ね。
何だか、色々なことが一度に駆け抜けたような心地。
[あれから、少し慌しかった。
みんなの無事を確認しに奔走して。ほっと安堵するもつかの間、勝手なウサギに対しての盛大な愚痴大会に参加したり。ほんの少し来客の増えた「刻」に日々通い、接客に明け暮れたり。]
この間も言ったけど、今日はわたしがご馳走します。
色々なお礼なんですから。
[じゃんじゃん飲んじゃって良いです!と、相変わらず重い荷物をぽんと叩いた。
「刻」を離れれば、自分の周りは何も変わらない。今も、街の小さな会社でキーボードを叩く日々。
けれど、灯台で燈した新しい夢の欠片は静かに自分に息づいていた。**]
[今は引退して店を閉め、散歩とガーデニングで日々を送っている職人だったが、店も道具もそのままの姿で残されていて、時折、どうしても他では直せなかったという古い時計の修理を無償で引き受けている]
[人通りの絶えた昼下がりや、明るい月の夜に、慌て者の二足歩行の兎が店に駆け込んで行く姿を見た、という者も、たまには居たかもしれない…**]
―雷電堂―
ちわ。
今大丈夫っすかね?
[あの一件の後。
人の少ない時間帯を選んで、入り浸るようになった場所があった。
最初は買い物のついでに少し話す程度だったのが、いつからか話すことの方がメインになっていた。
時には猫を構いなどしつつ、いつも他愛ない話から始めて、けれど最終的には]
そーだ、さっきお菊サンが……
[先輩の名前を口にする時、傍目には分かる表情の変化も、本人にはまだ自覚はない**]
― 青海亭 ―
お邪魔します。
[客なのに、そんな言葉を出してしまったのは、六花が店の人達と親しそうにしていたからか。
家に戻れる限りは自炊の癖があったので、この店に入るのは初めてのことだった]
ああ、お疲れ様。
予想外も多くて大変だったと思うけど。
ファンも増えたようだし、良かったな。
[必然的にギャラリーの客も増えていた。
商談に直接結びつくかどうかは問題でない。そうした縁の広がりの方が大切になる店だ]
じゃ、まずは今日一日に、乾杯。
─ とある日のこと ─
そりゃーまぁ、一度受けたのはなかなか断れないもんだよ。
見合いなら尚更。
[愚痴を零す話し相手>>150に茶を用意しながら肩を竦める。あの日以来、柏餅のために来店する若いお客さまは、いつの間にか常連のようになっていた]
ひとまず会っておいでよ。
断るのはそれからでも良いんだし。
親父さんの面子もあるだろうしさ。
一回会った後なら「性格が合わない」って言って断るのも可能だしね。
[家族を大切に思う彼女のこと、こう言っておけば少しは素直に受けるようになるだろうか]
(この様子じゃあ相手の見合い写真見てないんだろうなぁ)
[くつくつと笑いそうになるのを柏餅を口に含むことで隠す。突然頭を横に振る仕草>>159も、一つのことを暗示しているように思えて可笑しくなった]
そらお茶、飲んで落ち着く。
[用意したお茶を差し出して相手の気持ちを落ち着かせようとする]
(当日が楽しみだなー)
[心の中で呟いて、自分もお茶を口にして。その日は何も言わず彼女を店から送り出した]
[そんなやり取りをした後。
見合いの当日、自分は気が乗らなそうな彼女をいつもの笑みで*出迎えたのだった*]
―― 後日談 ――
元気してた?
[久々にかける電話は相手に緊張を伝えてしまっただろうか。
友人の夢はいつしか自分の夢になって、同じ夢をおいかけていけると思っていた。
けれど、家庭環境の複雑だった彼女は同じ夢をたどることはできず、後ろめたさを抱え込んでしまった心は、自分から連絡をとるということに臆病になってしまった。]
ん、ちょっと懐かしくなっちゃって。
[彼女からも連絡がくることもなく、自然と遠ざかってしまった。
今ならば慣れない異国で大変だっただろうと、そんな風にも思えるけれど。
置き去りにしてしまったのは自分の心、そして、確かめることをしなかった彼女の――。
一緒にみつけられるだろうか、ワスレモノ、を**]
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