[転送の力が塔へと働いたのを感じ取り]
…おやおや。大広間の水晶からおでましか。
[淡く輝く紫水晶のピアスに触れて塔の中の様子を再びサーチする。
水晶からの転送先を感じ取ると、ぱちんっ、と指を鳴らしてその付近の明かりを灯してやる。
灯した明かりは途中で二手に分かれている。
一つは通路の奥へ。もう一つは上の階へと続く階段へ。]
…どっちへ行くも来るも自由さね。
[それだけつぶやくと、視線を千里眼の水晶に戻し、再び館の様子を見物。]
[いつもの仕草。指をぱちん、と鳴らして扉を開いて。ノックの声の主を迎えるのは暖炉の灯った温かな部屋と魔女と小さな少女と、腕利きの料理人もまだそこにいるだろうか。]
…やあ、いらっしゃいヒナ先生。
すまないねぇ。触れたもんを無差別に転送するような魔法をかけおってあの弟子は…そういうのには普通キーワードを設定しておくもんだよまったく…いや、弟子への文句は気にしないでおくれ。
とりあえずは茶でもどうだい?
[階段を昇って息が上がってるであろうヒナに烏龍茶を勧めた。]
王子様か。
アンの王子様候補ならいるのかねぇ。
[鉛白の魔法使いをちらりと見た。]
それ以外はまぁ、見ての通りさ。
それにしても、こんなところまで付いてくるとは可愛らしいぴよちゃんじゃないか。
途中不安定だったようだが、やはりこれは使い魔ってところかねぇ。
[ヒナについてきたヒヨコを見て感心したように笑う。]
…すまないねぇ。
どうにかしてくれと言われても、どうこうできる代物じゃないのさ。
どうしてもと言うならコントロールを極めな。そして普段その力を出さないようにすればいい。
どうこうできる物ならば、西の国に魔女の塔なんて呼ばれる物は存在しなかっただろうよ…
[それまで悠然としていた魔女は珍しく、悲しげに目を伏せた。それも誰かが気付くかもわからないほんの一瞬の事だったが。]
…猫か。
ふむ。そりゃあ困ったねぇ。
[再び悠然として、烏龍茶を一口。]
[烏龍茶を再び啜って。]
制御の術がわからない、か。確かにそうだろうねぇ。
全てをいっぺんには出来ないだろう。
まずはヒヨコを使いこなすところから始めたらどうだい?
そうさねぇ…この携帯電話を探させるとか。
[すっ…と取り出したのは橋から落ちたが水の中への落下は免れたらしきヒナの携帯電話。泥にはまみれているが、正常に作動しているようだ。]
川の周辺の気配を探ってる時に見つけて私の使い魔にとって来させたものさね。確かヒナさんのだろう?
[ぱちん、と指を鳴らすと携帯電話がその手から消えた。]
なぁに、ヒナ先生が選ばなかったほうの道の先にいるアンの所に送っただけさね。
[今度はスーツのポケットから小さなシトリンを取り出してぱちん、と指を鳴らせばコップ大の水晶球に。
シトリンの水晶球はヒヨコの動きを追ったものを映し出しているようだ。]
…そのぴよちゃんに取りに行かせてみるかい?
まぁ、取りに行かせなかったとしても後でアンに返してもらえばいいだけだから無理にとは言わないが。
[ヒナに微笑むと、今度はテーブルの上の千里眼の水晶に触れる。他の者とは少し変わった力を追って映し出されたのは大樹。]
……永い時を隠れて暮らすのは、寂しいもんだよ。
声を聞いてくれるのがいるんだ。抱え込まない方がいい。
[それだけつぶやくと、千里眼の水晶は再び大広間を映し出す*]
ちらし寿司。いいねぇ。
ガモンさんや、頼んだよ。
[ついでに弟子の様子も…と喉まで出掛かったが言うまでもなさそうだと感じ、鉛白の魔法使いをそのまま見送る。
ぱちん、と指を鳴らしてキッチン方面へ続く通路の明かりを灯してやって。]
イースターエッグとはこれまた手の込んだものを…。
潜在能力は相当のようさね。
…にしても、不安定すぎるねぇ。どっちに行くんだか。魔法使い方向に行くなら相当なモンだが。もし人間方向に行くなら今夜限りでぱったり力がなくなるパターンかねぇ?
[ヒナを見上げて首傾げている小さなヒヨコを見て]
…そしたらこの慕ってくれてる『ぴよちゃん』がちと可哀相な気がするがね。
あっはっは。そうさね。鮮魚はお魚さんだ。
ルリちゃんは物知りだねぇ。偉い偉い。
[しばらくにこやかに笑っていたが]
…ルリちゃん。
ルリちゃんはどこから来て、どうして迷っていたんだい?
それがわからんと日が昇った後に返してやる場所がさっぱりさね。
[今頃探しているであろう迷い子の親の事を思い、優しくも真剣な表情で。]
[ぽつりぽつりと語り出したヒナに静かに耳を傾け。]
…そうかい。お母様の血筋かね。
絵本の話と思うのも無理はない。それが普通さね。
…しかしヒナ先生は創作かと思ってた話の写真と同じ場所に来ちまった。ふぅん、この塔と屋敷と…。
[その時部屋から出て行く小さなヒヨコをちらりと見送り。
ヒナのコップに烏龍茶を注いでやる。]
[ここまで来た道のりを話すルリに少し悩んだが、ふと何かを思いついたような仕草をするとルリの頭をなでてやった。]
黒い人はそうさねぇ…。
…赤い月の晩なんて過去に数えきれないほどたくさんあったさね。弟子に館を任せてからは初めてのような気がするが…。
今まで明けなかった夜はないよ。
赤い月の夜は不安定な夜。
…まぁ、大雑把にはそういうことさね。
よく打ち明けたね…勇気ある黒の魔法使いよ。支えるあの子らも。
[水晶を見てにこり、と微笑んだ。]
ふふ・・・空はそう簡単には飛べないよ。
みっちり修行でもするかい?
[いたずらっぽい笑みを浮かべる。]
そういやぁ黒を感じ取りやすい力の質ってのも赤い月の晩には現れやすいという話もちらほら聞いたことがあったかねぇ…
[そう言ってちらり、と見るのは。]
黒。そうさねぇ…。
紫もいれば鉛白もいるし黒もいるだろうさ。
…ふむ。あの子にはあとでオニキスでも贈ってやるかね。
[わざとピントをずらしたようにそれだけ言うと、二つの水晶球の光景どちらを見るか思案し。]
…どちらからも目が離せないねぇ。
[やはりただ笑うだけ。]