[来訪者が立ち去った後、部屋の中は静寂に包まれ。
からくりの鳥は扉の前でじっとしていた。
その静寂が破られたのは、メイドが報せをもたらした時]
「あ……ああ」
「……そん、な」
[掠れた声が零れ、部屋に引きこもっていた人物が動き出す。
黒服を着こみ、更に分厚いマントで顔を隠した人物は、マントの裾をずりずりと引きずりながら三階へと向かう。
あとに残された鳥は、こて、と首を傾いでその背を見送った]
[ちょうど、廊下には人影のない頃合い。
もっとも、誰かいたとしても黒衣の視界には入らない子だろうが。
這うように三階へと上がった黒衣は、主の寝室へ。
娘の亡骸は、寝台の上。
胸を開かれ<鼓動の源を失いつつも、その表情は柔らかく]
「……っ!!!!!!」
「ああ……あああああっ!」
「殺された、殺させた…………殺してあげなきゃいけなかったのに……!!!!!」
[上がるのは、恐らくは当事者以外には意味不明の叫び]
「ああ……始まった、始めてしまった……」
「殺さなきゃ、殺さなきゃ……」
[絶叫の後、繰り返されるのは物騒な内容の呟きのみ。**]
[廊下で交わされる言葉は、どれほど届いているのか。
物騒な呟きを繰り返していた黒衣は突然、扉の方を振り返った]
「……ころさなきゃ、ころさなきゃ」
「ぜんぶ」
「ころさなきゃ」
「そして……」
[続いた言葉は、音にはならず。
黒衣は部屋の外へ向けて動き出し。
扉の前が塞がっていると見て取ると、あああああ! と奇声を発しつつ、それまでとは打って変わった勢いで走り出した。*]
[前しか見ていなかった黒衣は、仕掛けられた足払い>>45に対応できず、その場に転がる。
それと前後して伸ばされた手>>44は、ふわりと翻るマントを掴んでいた。
黒衣は相変わらず奇声を上げながら床の上を転がり、弾みでマントの留め具が外れて黒が大きく翻る。
先ほどまで引き被られていたマントの下から現れたのは、お世辞にも血色がいいとは言えない若い男の顔。
その顔かたちは、どことなく黒衣の娘と似ていた]
「…………じゃま、しない、で」
「ころさないと、ころさないと……!」
[息を弾ませながらそう言った男は半ば這うようにしつつ、階段へと向かう。*]
[向けられた問い>>49に、男はひとつ、瞬く]
「……みんな。ころして」
「こんど、こそ」
「おわり、に……!」
[叫ぶように言い放った所に伸ばされる手。>>47
それから逃れるように身をよじったものの、その先には床はなかった]
「あ、」
[結果的に、頭から突っ込む、という事はなかったものの。
黒衣は勢いよく、階段を転げ落ち――踊り場で、動きを止めた。*]
[近づく気配を感じつつ、男には既に動く力はなかった。
ただ、軽やかな挙動で近づく気配>>53に虚ろな視線を向けるだけで]
「…………」
[口を開き、何か言うより先に突き込まれる刃。
声は溢れるあかに呑まれて音にならない]
(……ああ)
(……ごめんね、ドロテア)
(……きみを『鬼』より先に殺してあげられなくて)
[そんな事を内に浮かべつつ。
黒衣の意識は、闇へと沈んだ。**]