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[――はらり、舞い落ちたひとひら。
点々と木洩れ日の彩る並木道に、みどりいろ。
吹き抜けるようにさらり、風が頬を擽る。]
夏かしら。
[零れた、ことばは何処へともなく飛んでって
あたしはひとり、街を歩く。
あったかいような
なつかしいような
あなたの好きな夏。
あなたの好きな空。
きっと、今だって]
ふふっ。
[ひとりで笑って、きっと変。
それでもどこか嬉しくて、蒸れた袖をたくしあげて
ひとりでに、ぎゅうっと背伸びして
ひとりでに、足を鳴らす。
規則正しく躍る足は、楽しげに
てんてんと、木洩れ日の街を歩いてゆく。
反対に駆け抜ける風はうっすらと
渚の潮風そっくりで。]*
[ちゃぷん、と小さな水音が響く。
音の源は足元のたらい。
一杯に張った水に足を浸して一休み]
……ぅぁっちぃねぇ……。
まあ、それでこそではあるが……。
[ぱたぱた、手にした団扇で風を起こす。
そんな風に一休みできるのも、今の内だけ。
休憩が終われば、町内の夏祭り関係の経理事務との戦いが待っている。
それでも今は、と。
酒屋の若旦那は、麦茶片手にささやかな涼を貪る事に専心する。**]
[── 夏特有の強い日差しが頭上から差し込む。
飼い猫を抱えたまま家の玄関を出て、なだらかに下る坂の上から海を見遣った]
……今日も暑くなりそうだねぇ。
[視線の先にあるのは海傍にある古ぼけた灯台。
それを見詰めるウミの目は優しげだ]
さぁ、今日も様子を見に行こうか。
[抱えた飼い猫を数度撫でた後、一度家の中へと戻る。
ややあって、身支度を整えたウミが飼い猫と共にゆっくりと坂を下り始めた*]
[ぱしゃん、と音を立てて足をたらいから引き上げる。
跳ねる飛沫に目を細めつつ、傍らに置いた手拭で足を拭いて、下駄を突っかけた]
さーてと。
[手拭は畳んで懐にいれ、帯にはスマホと財布を挟んで]
ちょいと、情報収集いってくるわー。
[羽織を肩に引っ掛けつつ、奥に向かって声をかける]
[ちなみに情報収集=子供たちのたまり場である駄菓子屋に行く、である。
一応は、夏祭りの出店に何を出すかのリサーチも兼ねているのだが。
わりと真剣に、子供と遊んでいる姿はしょっちゅう目撃されていた]
「て、ちょっと、若ーっ!?」
なーんかあったら、メールしろー。
[後ろからの呼びかけもどこ吹く風と受け流し。
からころり、下駄を鳴らして歩き出す。*]
[並木道を抜けた先、ガラス張りのビル。
六階の出版社へとエレベーターに乗って
行き交う人波に、飲まれないように
都会はいつだって、ふとすれば溺れてしまいそう。
案内のベルが甲高い音で到着を告げれば、担当さんのデスクを探す。]
お願いします
[見つけては、抱えた封筒を渡して。
なんでもない話をしては少しだけ、喧騒を忘れられるよう。
そんなのもすぐだけど。終わればぺこりと頭を下げて、また同じ道のりを辿ってゆく。*]
やぁ、おはようさん。
[街の人と顔を合わせる度に挨拶をして、時折雑談を挟みながら坂を下っていく。
年のこともありその歩みはとてもゆっくりとしたものだったが、覚束無いものではなかった]
あぁ、灯台を見に。
わしの日課だからねぇ。
[今日も行くのかと問われて、柔和な笑みを浮かべながらウミは頷く。
とは言え、最近では長距離を歩くのが辛いため、灯台が良く見える丘まで下りて、そこから眺めるのが専らとなっていた]
海守。
[街の人と別れて足元に声をかければ、ゆらりと尾を揺らす飼い猫がウミへと視線を向ける。
行くよ、と言うように視線を投げかければ、歩き始めたウミに合わせて飼い猫もまたその隣を歩き始めた。
連れ合いを亡くしてから飼い始めたこの猫は、自由に歩き回ることもあるが、大抵はウミの傍から離れずその後をついて行く*]
[からんころん、と下駄が鳴る。
如何なる時も和装で通す酒屋の若旦那は、近所ではちょっとした名物扱いだ]
お、朝顔。
[賑やかな歩みがふと、止まる。
視線の先には色とりどり、揺れる朝顔の鉢植えが並んでいる]
今年も見事に咲いたねぇ……祭りに出すの?
[朝顔を世話する花屋の主人に声をかけ、交わすのは世間話。
内容が、祭りのそれへと偏るのは今は已む無しか]
ウチ?
あー、これから相談するとこ。
奉納のあれこれもあるしねぇ。
[酒屋はどうするのか、という問いに軽く返してけらりと笑う]
取りあえずは、祭りの賑やかしの意見も取り入れんとねぇ。
予算だけ気にして安いもん並べりゃいいってもんじゃあないし。
[数を捌くために質を落とすのはやりたくない、と。
そんな矜持をさらりと語ってから、花屋の前を離れて歩き出し]
……はい?
[目の前をてんてん、てんてん、と過っていったもの──直立二足歩行をしている真白の兎の姿に。
思わず、呆けた声を上げて瞬いた]
……あっれー?
俺、疲れてる?
[呆けている間に、白の影は消えて。
店の者が聞いたら、んなわけない、と総突っ込みが入りそうな呟きが、口からもれた。*]
[さらさら、水の流れる音だけが聞こえる川辺。
堤防沿いの道から降りてきた少女は、周囲を見回すと安堵の表情を浮かべた]
……やっぱり。
この時間なら人居ないと思ってたんだ。
[平日ならば通勤通学などで一定数の通行があるが、休日はそうでもない。
特に今の時期は耳を擽る涼やかな音とは対照的な日差しを避けたい人も多いだろう]
近くにおうちも無いし、散歩する人とかはもっと朝とか夕方とか涼しい時間選ぶだろし。
此処なら声張り上げても大丈夫だよね。
ま、もし怒られたら声出し控えて走り込みに切り替えればいっか。
[言いつつ目星をつけていたらしい木陰に荷物を置いて陣取り。
軽くため息をついた後にストレッチを始め]
ってか熱中症とか怖いから本当はカラオケ行きたいとこだけど、もう今月お小遣いやばいしなぁ。
なんでうちの学校日曜は生徒入れてくんないんだろ…ってか皆自主練どうしてんだろ。
[なんてぼやきを交えながらも準備運動を終え、発声練習に入った**]
…ふぁ…
[ふいに眠気を覚えて、並木道を逸れた小路へと。
用事は済んだけど、お日様は頭のてっぺんに。家路につくにはもったいなくて
ふらり、気ままに足を運べば、見慣れた児童公園。構わず足を踏み入れて、近くのベンチへ。
子どもたちの騒ぐ声に耳を傾けながら、あたしの姿も見えたようで
とてとてと、こちらへ駆け寄るのがみえて]
こんにちは。
[色付き始めた肌色の、半袖シャツの少年達にあいさつをする。
日陰の下のママさん達にもぺこり、お辞儀して]
「こんにちは、蒼井さん。今日は原稿?」
そうなんです、締切で
[気心知れた他愛ない話。
ちょっとは、有名にもなるかもしれない。
子どもも旦那もいないひとり働きの女が、こんな時間にひとり、しょっちゅう公園に現れては。*]
[首を傾げていたのは短い時間。
からころり、下駄を鳴らして歩いて行く。
目指すのは、子供たちの集まる場所で]
おー、今日も賑やか、善哉々々、ってか。
[児童公園の賑わいに目を細め、ふらりとそちらに歩みを向ける]
よーっす、今日も元気だなあ。
あ、デュエル? わりぃ、デッキ持ってきとらんかったわ。
[下駄の音に気付いて駆け寄って来た子供らに、カードゲームの対戦を挑まれ苦笑い。
元々、事務仕事前の息抜きも兼ねたそぞろ歩き、遊び道具の準備は忘れていた]
[とてとて駆け回る子ども達を遠目に、世間話に耳を傾け。
顔ぶれはもうほとんど覚えてしまった子ども達の話に、笑ったり驚いたり。
あなたはどうなの?なんて、あたしの話にも興味があるようだけど]
さぁ、どうでしょう
[そうやってあたしが首を傾げるのを見ては、ほんのちょっぴり呆れ顔されて。
世間的には考えるような歳ごろだろうけど
どうにも、ぴんとこなくて
照りつける日なたに少し、眩しさを覚えて
ふと、視線を彷徨わせれば。]
[徹頭徹尾、夏だ。
夏だから、くそ暑い。
もうすぐ夏休みだとか、休暇制度も無い自営業にはかんけーないんだっつーの、暑いんだよこんちくしょー!]
はい、出来上がり。
[浴衣姿のじょしこーせーに、仕上げの紅を差し、涼しげに微笑みかけながら、俺は内心悪態ついてたわけさ]
[俺は化粧師だ。まあ、いわゆる、めーくあっぷあーてぃすとだな、なーんて一応かっこつけてはいるが、要は美容師に毛が生えた程度のもんだ。
仕事場もお袋がやってる美容室で、稼ぎなんざ小遣い程度。
祭りの時は、踊りに出るとか浴衣に合わせて化粧したいとかっていう若い娘やらのおかげで、ちょっと潤うけどな]
はい、次は、美穂ちゃんだね。
うん、ピンク系?君にはオレンジ系の方が似合うと思うよ。
絶対ピンク?彼氏の好きな色なのか、そうか、じゃあちょっと肌色調整しようね。
[女の化粧に口出す男とかろくなもんじゃねーぞ、やめとけー...と、言ってやる筋合いも無し]
[チリン、と扉の鈴が鳴った]
『ガムラさーん、速達でえす』
[ガムラじゃねえ、ンガムラだよ、と突っ込み入れるのは10年前、中学と同時に卒業した。もともと漢字で書けば『我邑』だ。
先祖代々『ンガムラ』と読むんだっつーのは親父のこだわりだったが、とっくにおっ死んだしな。
そも呼びにくいんで、クラスメートなんかみんな「ムラ」って愛称でしか呼びゃしねえ、意味ねえっての]
はい、ご苦労様。
[印鑑押して受け取った速達は俺宛だった。
誰だよ?俺に急ぎの用がある奴なんて...]
.........あ、ああ、ごめんごめん。
ちょっと下地塗るから目を閉じてね。
[俺はその手紙を、封を開けること無く着物の懐に捩じ込んだ**]
よっこい せ、と…。
[年を取るにつれて自由が利かなくなった身体を動かし、丘の上 ── 展望台のベンチに座る。
その膝上に飼い猫が乗り丸くなるのを待ってから、ウミは灯台へと視線を向けた]
……お前さんも年を取ったのぅ。
[かつては真っ白だったその壁も、今では雨風はもとより潮風にも晒され錆なども目立ち始めている。
灯台を去ったのは10年程前のこと。
もう遠い過去のようにも思えた]
[波音を聞くには場所も耳も遠く、聞こえてくるのは周囲の車や人の声が辛うじて。
ただただ海の景色を視界に捉えていたウミの異変に気付いたのは、膝上で丸まる飼い猫の方だった。
一瞬途切れた周囲の音に飼い猫はピクリと耳を動かし、僅かばかり首を持ち上げる]
…………?
[ウミもまた、刹那に見えたものにゆっくりと瞬きを繰り返した。
遠いはずの海岸線が目の前に広がっていたのだ]
…気のせい、かのぅ。
[首を傾げ呟いた言葉に、飼い猫が「なぁう」と小さく声を返す。
気のせいではない、と言いたげだった飼い猫の意思は、ウミには伝わらず終い*]
あ、あ、あー、あー。
[堤防を降りた川辺は人影は無いが、遠くに子供の遊ぶ声や車の走る音などが聞こえてくるから一人でもそれ程寂しくはない。
だが、すぐ木陰に入ったから強い日差しを直接受けることは無いが暑いことには変わりなく。
凍らせてきたペットボトルのお茶を飲んで適度に水分補給兼休憩をしながら、音程と抑揚を付けた発声を繰り返していたのだが]
…ん?
[ふと、誰かの声が聞こえた様な気がして、練習を止めて周囲を見回した]
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