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― 森の中 ―
[そこに入り込んだのは偶然だった。
『仕事』の途中、想定外のトラブルに見舞われ、納期に間に合うかが怪しくなり。
ならば、と地図上での最短ルートを取った。
それが、今いる森を突っ切るルートだった……のだが]
…………いや、さすがにここまでとは思わんかった。
[入り込んだ森は思いの外深く。
進む道は曖昧、戻る道も既にわからない。
この状況をどうするか、と。
思い悩む時間はあまり残されてはいないようだった]
……ぉ?
[ぽつり、ぽつりと落ちてくるしずく。
それが何を意味するか察した瞬間に取った行動は]
やべ、荷が濡れる……!
[運んでいたものを雨から守るため、雨宿りできる場所を探して走り出す事。**]
[とりあえず走れる所を前へ前へと駆けて行くと、鮮やかな色が視界を掠める。
それは、段々とその数を増やして]
……リコリス……だっけ?
[小さく呟き、木立の間を抜けて。
開けた空間に出た瞬間に飛び込んできた光景に、思わず足を止めた]
……なんだ、これ。
[口を突いたのは、こんな呟き。
目に入ったのは、一面の緋色。
咲き乱れる緋色の華の間には道らしきものが一筋見え、その先には森の中にはいささかどころかかなり不釣り合いな屋敷が見えた]
…………ぁー…………いや、背に腹は代えられんわ。
[このままずぶ濡れになるのはいただけない、と割り切って。
緋色の中を駆け抜け、重たい雰囲気の扉の前に立った]
あー……すみません、何方かいらっしゃいますかー?
[どんどん、と叩きながら呼びかけると、応ずるように扉は開いた。
扉の向こうはやや広めのエントランスホール。
その奥の階段の前には、黒いドレスを纏った小柄な人影が佇んていた]
突然申し訳ない……見ての通りの旅の者なのですが。
雨が止むまで、軒先をお貸し願えませんか?
[呼吸整え向けた問いかけ。
それに返るのは感情の感じられない淡々とした声。>>#3]
え? あーと……。
[言われた意味を把握し損ねていると、いつの間に現れたのかメイドと思しき女性がタオルを差し出してきた。
二階に客室が用意してあるから、自由に使って休んでいい、との言葉は予想外で]
あー……ありがとうございます。
[一瞬、疑うという概念が綺麗にすっ飛んでいた。**]
[借りたタオルで滴を拭いつつ、視線が向くのは佇む娘。
最初の出迎えの後は全く口を開く気配もない]
…………。
[ふと、思い返すのは雨の中を駆けた時に聞こえた声。>>#0
走る事に集中していたから、そちらに意識を割かれる事はなかったのだが]
(……似てたよなー)
[先の呼びかけと、その声と。
それらはどこか、似ていたような気がしていた。*]
っは。
[荒い息を吐いて木に背中を預ける。
既に何人か俯せて動かなくなっていた。
一か八かで森に駆け込んだ背後では悲鳴が響いていた。
楽観できる要素はどこにもない。
雨と何かに濡れた顔を俯けた]
ー 玄関前 ー
すみません。
どなたかいらっしゃいますか。
[辿り着いた屋敷の扉を叩くと、黒衣の娘が出てきてくれた。
淡々とした歓迎の言葉に戸惑いながら頭を下げる]
はい。雨の間だけでも置いていただけたらありがたいです。
大した持ち合わせはありませんが。
[時が至るまで、という言葉はそう自己解釈して滞在させてもらうことにした。
対価は不要と言われれば、安堵と不安が半々になる]
……お。
[水滴を拭いつつ、荷の状態も確かめないとなー、なんて考えていた所に増える気配>>10]
雨宿りのお仲間さん……ってとこかね。
[小声でぽつり、呟いた後。
新たな来訪者がこちらに気づけば、どーも、と軽い調子で手を振った。**]
[落ちた呟きと重さを感じる吐息の意は知れず、瞬き一つ。
それでもそこを追及する事はなく]
ああ、まあ、そんなとこ。
近道しようとしたら、雨に降られちまってねぇ……。
雨が止むまではまあ、よろしゅうに。
[笑みと共に向けられた言葉>>12に、軽い口調でこう返して]
……さて、とりあえず、部屋お借りしますかね。
このまま風邪ひくわけにもいかんし。
[『荷』の確認もしなければならないから、とは内心のみの呟き。
ともあれ、男は場にいる者たちに一礼すると、階段を上がって二階へと。*]
[階段を上がって二階へ。
上がった直後に控えていたらしいメイドにこちらへ、と声をかけられた。
訝りながらもついて行けば、部屋の一つに案内される。
必要なものがあればなんなりとお申し付けください、との言葉に着替えを頼んだら、既に用意しております、と返された]
いや待て、どんだけ。
[至れり尽くせりなんだとの言葉は飲み込む。
雨宿りが出来たのは幸運だったと思うが、本当にそうか、という疑問がちらりと過った]
とはいえ、今更かねぇ。
[そんなぼやくような呟きの後、部屋へと入り。
備え付けの浴室で身体を温めた後、最初に取り掛かるのは『荷』の確認。**]
[着替えも用意してあるので使うようにとメイドに告げられ、了承する。
貴人の屋敷では滞在時の衣装を指定されることもあるので、それと同じ様に受け取った]
あの。この後でも誰か予定にない人がいらっしゃったら、お教えいただけませんか。
はぐれてしまった仲間かもしれませんので。
[願い出れば淡々と受け入れられて、感謝しながら案内された部屋に入った]
[濡れた服を脱げば、下から現れる白い肌。
その所々に残る傷痕は、戦地を知る者にこそ馴染み深いだろうものもあった]
可能性は低い。分かっている。
でも。
[湯の用意までされていた事には戸惑ったが、汚れた身でいるのも失礼になるだろう。
湯気に包まれながら、苦く呟いた**]
[『荷』の無事を確認した後。
さて、どうしたもんか、と思ったものの、このままじっとしているのも落ち着かなかった]
……ちょっと歩き回るのは、アリかねぇ。
[そう思う理由は好奇心半分警戒半分。
何かあった時にすぐに動けないのはヤバイ、という思考から。
根拠なしの直感だが、それに従って生きてきた過去があるから従う事に躊躇いはなく]
んじゃ、ちょっといってみますかっと。
[軽い口調で呟いて客室を出ると、宛てなくゆるりと歩き出した。**]
[森に足を運んだのはたまたま、ではなく。
この森の中に不思議な屋敷があるという噂を確かめに。
水面下でひっそりと広まっている噂だから興味を惹かれてやってきた。
なにかの、メシの種になるかもしれないし、と。
そしたら森の中、雨に降られて道に迷うという羽目に陥っているわけだが]
どっか雨宿りしたいなあ。
[つぶやきを一つ。
溜息とともに落とした時、視界を遮っていた木々が開けて。
緋色の華が視界一面に広がり、その中に。
古びた屋敷が、見えた]
噂の屋敷かどうかはともかく、雨宿りさせてもらおう……
[幾度か瞬きを繰り返して、見間違いでないことを確認した後。
屋敷の扉を叩く]
すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー。
[声を張り上げれば、静かに扉が開き。
その奥にメイドと黒衣の娘がいるのが見えた]
― 二階個室 ―
[メイドに案内してもらった客室に入り、着替えやら湯やらがすでに用意していると知らされる。
至れり尽くせりにぽかんとしている間にメイドは立ち去り。
やれやれと濡れた帽子を脱いで溜息を一つ]
ここがあの噂の屋敷なのかねえ……
[ぐるりと客室内を見回していると、くしゃみを一回。
ふる、と体を震わせて、とりあえずは好意に甘えておこうと備え付けの浴室を借りて体を温める。
一息ついて着替えた後、屋敷の中の確認するために、廊下へと出ていく**]
[着替えとして用意されていたのは装飾過多の薄布ではなく、貴人と行き遭っても失礼にならないだろう上質なワンピースだった]
これなら大丈夫。
[手足を動かして呟き、乱れを整える。
室内を巡ったあと、ゆっくりと扉を押して部屋を出た]
[上に行くか下に行くかの二択は、コイントスの結果、上。
階段を上り切った先、別れている廊下の一方に行こうとしたらどこからともなく現れたメイドに阻まれた]
え? この先は主氏のプライベートスペース?
ぁー……そりゃ、失礼を。
[さすがにそう言われては踏み込む事もできず。
ならば、と踵を返して向かった反対側には小さな扉]
……こっちは、入ってもいいって事……かね。
[小さく呟き、扉を押し開け。
直後、目に入った光景に呆然とした]
は? 総ガラス張りの部屋?
[なんの冗談だ、と言いたくなるような光景が、そこにあった。
上を見れば降りしきる雨が、周囲を見回せばその雨に濡れる透明な壁がはっきりと見えた]
展望室……とか、そんな感じかね……。
いやはや、とんでもねーな。
[何をどうすればこんなものが建てられるんだ、という突っ込みは飲み込んで。
代わりに大きく息を吐くと、しばし、降りしきる雨に見入る]
……こりゃ、そうは止まねぇなー……。
[注目していたのは、主にそこ。*]
[客間の広さと数、廊下の長さに吐息を零す。
エントランスには今も黒衣の娘が佇んでいる様子。
予定している客人があるなら邪魔になるだろうかと足を止め迷っていると、メイドが一人スッと寄ってきてなにか用事かと尋ねられた]
いえ。人心地つけさせていただきましたが、座って過ごすのも落ち着かなくて。
広いお屋敷ですね。
[メイドは表情一つ変えず、気分転換を望むなら1階には室内庭園があり、3階には展望室があると教えてくれた]
そうですか。
では上にお邪魔させていただきます。
[どうせなら外の確認も出来る方にと、頭を下げて階段を上った]
……お?
[聞こえた声と人の気配に振り返れば、そこには先にエントランスで挨拶を交わした姿。>>29]
おや、そちらもお散歩ですかと。
[ガラスの向こうを見つめる横顔に、駆ける声は軽いもの。*]
ま、確かに落ち着かんねぇ。
[苦笑と共に向けられた頷き>>31に、こちらも似たような表情を覗かせて]
ああ、こりゃ、しばらく止みそうにない。
……屋根のある所に入れてもらえただけマシではあるけど、ね。
[ただ、その場所が妙に胡散臭いというかなんというかなのが問題なのだが、そこはわざわざ口にはしない。
不安帯びたようなため息に、それを煽るような事は避けた]
ま、なるようにしかならんでしょ、この状況は。
雨やみまでは動けないんだし、今はのんびり……っと。
[のんびりしたもん勝ち、と言いかけて。
ふと思い出したある事に、言葉が途切れた]
ぁー……一応、名乗っといた方がいいかね。
俺は、アルマウェル。
雨止みまで、よろしゅうに。
[そこから、相変わらず軽いままで繋げたのは名前だけの自己紹介。**]
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