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…
[蛇使いの眼には、お守りと称して渡された菓子に
被りを振ったドロテアの仕草が「不必要」を告げた
のではなく、――自分が皆をひととき守るから、と
そう告げたように見えた。
しかし、ヘイノを野暮呼ばわりもする気になれず]
預かりものか。
…きさまの分も、残るといいな。
[そう、素っ気なく言葉を添えた。]
[集められた面々の、互いを見る眼が変わるのを感じる。
村を、互いを守るための、まなざし――]
…好い村だ。
あたしは、だいすきだよ。
必ず滅ぼさねばならぬ。
にんげんに。…文明に滅ぼされる*前に*
[告げられる、長老の言葉。
男は見えぬ手を自分の掌に落とした。
開いたその上に、今乗るのは空気だけ]
…敵……――
――、味方、
[ふたり。
そして、ふたり。
開いた手の指を、にほん、曲げる]
……望まれたりか。
[呟きはごく微かに。視線はすぐに逸らして、再び炎へと向けられる。炎に照らされる真紅のコートは、赤と黒の火の粉が混じり合っているように映し出され]
……。
[話しかけられるか何かするまでは、そのまま口を噤んでいるだろうか*]
ああ、繰り言のような問いをかける、
そんな時間は過去のものとなったのだな。
[互いが、互いを見る眼が変わる。
痛ましくとも、嘆かわしくとも、先を繋ぐため。
漸くこの地に根づいた流浪の蛇遣いは、焔の裡を
覗くように俯いていた顎をようやく持ち上げる。]
討つべき輩は、ふたり。
抗する力は、さんにん。
…それ以外の者は…
それと知られず盾になる、ということだろうかな。
あたしも暫し、考えるときをいただこう。
…白髪頭。
合議のしきたりが必要なら、教えてくれ。
[見交わす面々を自らは見ぬよう、天を仰いだ。
見れば見知る人々の姿に、惑わされそうになる。
皆の気配を、戸惑いを、決意を感じながら――
常から見ぬマティアスは、もっとより多くを
感じているのだろうかと、束の間意識に*上らせた*]
…――狼を、連れて来て、
危害を加えそうにない者…とか
[ぽつり、俯いたまま零したのは
つたないなりの方法の導入だが]
…――いや、何でも無い
[言いかけた言葉を ごつりとした首の中を通し
臓腑へと落としこみ、蛇遣いへと顔を向ける]
…――、
[それから其処に並ぶ面々へと見えぬ視線の顔を向け流す。
緊迫した空気は風というほどの流れは持たず
ただ、ピリピリと 男の肌を傷めつける]
…知られず盾…か…
死した後判る者にだけ、知れる…――
[言葉は、ぽつりぽつりと低く。
断片的に零し俯くと、4と9の並ぶ数字が揺れた*]
いつ。
[視線を漂わせると、アルマウェルと一瞬目が合った気がしたが、すぐに俯き焔の辺りを見つめる]
もう?
[女は、長老の顔を見ることが出来ないまま問う。
胸に抱くような形になっていた菓子の包み。
それを握る手に力が入った**]
[外の騒がしい空気に瞼は揺れます。
脳裏隙間から見える赤いオーロラは、記憶が持つ色とかけ離れ。不吉といわれようと、それを美しいと思う瞳はここにあり]
吉兆があれば凶兆もございましょうね。
何を不思議がることありましょう。
[目には赤、耳には人ならざる獣の鳴き声。目覚めた胸裏ににじむものは常と変らず。大義そうに体を起こすと、向かうべき処へ足は迷わず。テントに集う者たちに遅参を詫び、一通りの語りを耳にすると]
私には…あるべきものが浮かぶだけですのに。それなら動物達は私たちがいるから
いつも凶事にさらされておりますね。
[静かに目を閉じる。交わされる会話に言葉をはさむこともなく]
いいえ。不吉を望むものではございませんもの。私はまだこちらに入れて頂いたばかりの新参者。長老様が望まれるように。私は御意に従います。
[この村に住み着いたのは少なくとも比較的遅い時期。このような重い会議で強く意見を述ぶる程の立場でもないでしょう。周囲の不安を否定するかの如くは疑問を持つ者もいたことでしょうが、ふぅ、と一息]
ドロテア様。何の業無きといえども御身はお健やかなこと。供犠はよい結果を導ければよろしいですわね。お力になれずに申し訳ありませんが。
[しゃらん。髪飾りが音を立てる。小さく頭を下げ、僅かに開いた伏し目がちな目を周囲に向けまた静かに*]
どうぞ。お続けになって。
なるほど、……、わかった。
[供儀がドロテアである理由も、
そしてドロテアに狼使いの可能性がないことも。
変えぬ表情は憐れみも慰めも娘には送らない。]
狼使いは二人。
抗う力が三人。 ……か。
死せる者を視る、というのは――
[生者を視る者で判断つかぬ折には――その先が自ずと脳裏に浮かんだか、言葉はその続きを紡ぐことはなく。]
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