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[制服のポケットの中で何かが擦れる音がする。
指先を差し込めば、固く薄い感触があって、──手触りから、近藤から貰った飴玉の包み紙だと知れた。
睫毛の先が震えて、視線を動かせば、村瀬から受け取った彼のスケッチブックが見えて]
……………、
[処刑を行った直後は、何時も身体が重い。
萎えそうになる脚を内心で叱咤しつつ、一歩一歩、それを置いてある座席へと近づいた]
……もう少し、……もう少しだけ、………、
き、……っと。 あと少しで、終わるから……。
[たどり着き、裏表紙に掌を添えて、細く小さく呟く]
魂を狩っている間は、成長もするしちゃんと大人にもなれるって彼は言ってた。
もっとも、もうひとつの代償で黄泉還る前の記憶も少しずつなくなっていくとも言ってたけど。
だからなのかな、その夜を境に彼は病院から消えてしまったの。
わたし宛の書置きだけ残して、ね。
[ふう、とため息を吐いて]
すごく長くて退屈な話、よね。
でもこれ、必要な話なのよ。
須藤先生が黄泉還りなら、もしかしたらあの日わたしの前から消えた初恋の人と、同一人物なのかもって思ったから。
…顔もだけど、雰囲気も似てたんだもの。
ふっ
はははははははははははははははははははははっ
[突如笑い出すと、誰に聞かせるでもなく声を出す]
なぁ……
どっちが幸せだと思うー?
このまま、帰れるかもわかんねーまま恐怖を味わい続けるのとー
なにが起こったかわかんねーうちに一瞬で終わんのと。
俺もうわかんねーよ…
わかんねーよ!
でも、結局聞きそびれちゃった。
もしそうなら、ちゃんとわたしの想いも伝えなきゃいけなかった、のに。
[初恋の人と同一人物であってもなくても、須藤先生のことは好きだったけど。]
結局、わたしは好きな人に二度も置いてかれちゃったみたいね。
…ふふっ。
良かった…。
[村瀬の返事を聞いて、安堵する。
もしかしたら、支えてほしかったのは自分だったのかもしれない。
よしよし、と彼女の頭を優しく撫でで、出来るだけ櫻木から離れた位置へと連れて行くだろう**]
それから、かな。
おばけとか、オカルトとかそういうの全然だめになってて。
退院してからもずっと、あの時彼と食べていた菫の花の砂糖漬けを持ち歩くようになったの。
わたしは彼のこと、忘れたかったのかな。忘れたくなかったのかな。
…ちょっと、今でもわからないの。
[わなわなとふるえる拳を窓ガラスに打ち付け、窓に映る自分の顔を見つめる。
櫻木がダメ…だということはすでに察知していた]
[皆から離れた所でただぼんやりと成り行きを見守っていた。
話にも入らず、ただ興味なさげにぼんやりと―――
そして幾度か繰り返したように投票が終わり須藤が隣の車両へと歩みを進める。
座り込む小鳥遊が視界の端に移るもただ真っ直ぐに頽れる櫻木を見つめ]
あーあ、ナオちゃん死んじゃったよぉ?
シンヤのだぁいじなナオちゃん…殺されちゃった
くふふ、あははは、はははははははは…
出てこなきゃ殺されることもなかったのにねぇ?
ナオちゃんを鬼に差し出したのは…ここにいるお前らだよ。
[櫻木の亡骸に近づきながら皆の顔を見渡す。
やがて彼女のもとにたどり着けば、そっと彼女を抱き上げ]
貰ってくよ。
だってみんな…いらないでしょ?
ずっとそうやって―――殺しあってればいいよ。
[そう言って彼女を皆の亡骸のある車両に運べば、座席の上にそっと寝かせる。
生気の感じられない顔ににこやかな笑みを浮かべれば]
ナオちゃん、お疲れ様。
ほんとは俺…ああ、シンヤに殺させてあげたかったんだけど。
シンヤがやめろって言うからさぁ
綺麗に殺してくれる鬼に任せようって思ったんだぁ
ふふ、ほんとに綺麗だよ
シンヤさぁ、ナオちゃんの本読んでる横顔が好きだったんだってぇ
という事はさぁナオちゃんが黙ってた方がいいんだよねぇ
だから、これで良かったんだよ
ほんとはナオちゃんが泣いてくれるところ見たかったんだけどなぁ
所詮シンヤなんてその程度の存在だったってことだよね?
お前の片思いだったみたいだねぇ、あーおかしい。
俺は自由で、お前はこれからもずぅっと独り…
[櫻木のポケットからネックレスを取り出し彼女の手に握らせる。
そうして皆のいる車両戻ろうと足を進めた。]
ま、その独りはお前が望んだんだけどねぇ?
嫌われて死にたいとかお前も物好きだな。
あはは、俺は自由になれたからそれでいいけど。
結局お前は嫌われ損って感じだしー。
あーあぁ、今日俺の事殺しとけば先生死なずに済んだのになぁ。
みんなよっぽど殺し合いが好きなのかなぁ?
そんなんじゃない?じゃあ現状はなんなんだよ。
[まるで誰かと話しているかのように言葉を継いでゆく。
そこに長澤の笑い声が聞こえ]
お前の大切な人、みぃーんな壊れていっちゃってるよぉ?
死ねもせず、生きれもせず、お前は孤独に朽ちていくんだよ…俺の中で。
ああ、お星さまだけは見ててくれるかもなぁ?あはは。
[隣の車両を見つめながら何かを話している小鳥遊を後目に、反対の連結部近くまで移動する。
どうせこれからも誰にも相手にされないのだろうと鼻歌交じりで床一面に天体図を描き始めた。**]
[ここまで語り終わると、すっくと立ち上がり。
ころころと鈴を鳴らすような声で笑い出す。]
…なぁんて、ね。
信じた?信じちゃった?
うん。別に先生嘘は言ってないの。
少なくとも、わたし以外の皆にとってはさっきの話が真実ってことになるわ。
鬼の正体は黄泉還りだし、偽汽車は黄泉還りを創り出した諸悪の根源なの。
でも、わたしは気付いちゃったんだ。
[くすり、と愉しげな笑みで]
わたしたちがいるこの世界自体、ぜんぶ嘘なんだって、ね。
わたしたちが笑って怒って泣いてるのも、全部うそ。
偽汽車も、鬼火も、死んじゃったみんなも全部ニセモノ。
たぶん、わたし自身もニセモノじゃないのかな。
どうやって確かめようかしらね。
…偽汽車のどこかが書割りになってて、蹴り倒せるんじゃないかって思ってるんだけど。
誰か試してみない?
[車両の扉付近へ行き、とんとんとノックして見せながら]
先生はかよわいおねえさんだから、男の子がやるべきだと思うんだけどなぁ。
弓槻のロールが壮絶じゃな…
わし、次に吊られそうなら主体COするんだ。
でも、弓槻に憑いてるヤツみたく、わしがそのまま出て行ったらあかんのうwなんというカオスwwwww
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