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そんなことがあるわけがない。
[それだけ言うのがやっとで、部屋を出て行こうとする。
扉の方へ向かい、しゃがみ込んでいるホズミに気がつく]
座るなら椅子にした方がいい。
おまえらも、夜は寝ろ。
[室内に残る人々にそれだけ言って、手ぶらで*眠れる部屋へと*]
[返ってきた言葉に]
また意味の判らんことを言っちまったか。
[と自分に対して顔をしかめ]
わからん。
神社に行く銀坊がそういう風に見えたんだ。
とにかく、探しにいくのは結構だが、
あんたまで…
迷っちまったらしょうがねえだろうが。
[最後は少し言葉を選んだように]
大体がこんな島、迷うような所じゃあねえんだ。
明るければ。
[既に大方火が消えてわからない、
松明があっただろう場所を一瞬睨み]
明るくなるまでだ。
せめて、それまで。あっちは行くんじゃねえ。
戻って、とりあえず、みんなと一緒に寝ろ。
寝られなくても寝ろ。
それでもどうしても心配だってなら俺が行く。
[不安に任せてそこまで言うと、
語調が強くなったのに気がつき、一息おいて]
…帰るよ。
[顔をしかめる男に少しだけ頬が緩んだ。
緩んだ拍子に、涙が出そうになって目を見開く。]
だって……ギンちゃんが何かに飲み込まれそうなら……助けに行かないと。
[そう言って、困った顔で首を傾けると、より強い薬屋の言葉が返った。
俺が行くと言う言葉に首を振り俯く。]
……ごめんなさい。
[宿舎へと促す言葉に頷いて、ゆっくり足を*返した*。]
船はまだか。
[目覚めの一服をふかしながら、波打ち際を歩いていた]
……何をしている。
[人影に声をかけるが、それは薄ぼんやりと光ってすぐに消えた]
死亡届。
[宿舎のテーブル上にある用紙の一枚に、赤い文字が見えた]
死亡……。
[目眩を起こしかけテーブルに手を置いて、席に着いた。
急転した天候、崩れる足場、回る風景――]
[いつか見た景色は、消えた三人のいずれかの物のようにも思えた]
違う。
あの日俺は。
(あれは飲み込まれ"そう"なんじゃなくって、もう――)
[口には出せぬまま宿舎に戻り、まだ残っている人らに]
つかれただろう、もうおやすみ。
[そう言ってから寝所に向かい、床につく。
マシロが干したといっていた布団。
眠れる気がしなかったが、気がつくと目が覚めた。
目が覚めるということは、眠っていたということだ]
[窓辺からさす光に、ほっとするような、
なにか名残惜しいような顔をして]
とりあえず、ずうっと夜、なんてえ
詰まらんことにはならなかったらしいね…。
[そのまま、布団の上に座ってぼうっとしている]
―朝―
[気がついたら、窓から日の光が差し込んでいる。
穏やかな光に包まれていると、まるで昨日のことが夢のように感じられる。
身体を起こし、辺りをきょろきょろと見回しながら、名前を口に出す]
マシロちゃん…?
[少しずつ思い出す。お葬式でわんわん泣いた日のことを]
[ふらふらと立ち上がった。部屋の入り口に向かおうとして、足元の袋を蹴飛ばした。
中身が転がり出ていた]
…あ。藁人形…
[火にくべ損ねた藁人形が転がっている。背中に「スズキ」と書かれた人形。リボンつけたらかわいいかも?といわれて、ためしにつけてみた人形もある。
全部で8体。*袋にしまいこんだ*]
[いつの間にか眠ってしまったのだろうか。目を覚ますと夜が明けていて、空には幻月は見えず、]
かなしぃ?
[宿舎を取り巻く空気が悲しみに覆われている中、故人の記憶がない自分に仲間外れの感情。すぐ近くで眠る猫を抱き寄せて、ぎゅっと。]
[寝たのか寝ていないのか、自分でもよくわからないうちに宿舎に日が射した。
体を布団から起こし、ゆっくりと身支度を整える。
呆けたような顔のまま、大部屋へ。]
[封筒から取り出した書きかけていた手紙の隅、手近のボールペンを手にして文字を書き足す]
ナツへ
ママをよろしく。
ママへ
ナツをよろしく。
[その紙面を見て、苦笑を零した]
まるで遺書だな。おい。
おはよう、ございます。
[室内で腰掛け、疲れた顔で天を仰ぐ男に声をかけた。
その手元の紙を覗き込む。
新しく並ぶ二つの名前。]
ねえ、先生、船は本当は誰も置いていってないんじゃないでしょうか。
この島に取り残された人なんて、いないんじゃないでしょうか?
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