部品部品…っと。
[棚を漁りながら露骨に目立つ柄の部品を手にした]
壱乃宮さーん、これでいいすか?
[純太の側に置いたのは原色の割合の多い柄に包まれた部品。
くるりと踵を返してキャタピラーを両手で抱える。
賑やか過ぎるその柄に、少しだけ心がイタくなった]
[ごくり。
純太の真剣な顔に思わず息を呑んだ]
でも、やっぱ…わかんねえっす。
[純太の表情と、やっている作業が露骨に合わない]
ちょ、ちょっと待った。
[思わず純太の手を止めて、顔をまじまじと見て首を振った]
やっぱ、おかしくない、すか?
柄もやっぱ変。
キャタピラも、よくわからないし、
…ウッホホも、おかしいよね?ね?
[純太の顔を見て問いかけた]
僕、間違ってるすか?
[同意を求めるように辺りを見まわした]
ちょ、ちょっと…
[さっきまでの自分の作業をこちらに擦り付けた純太に
口を尖らせて抗議の眼差し]
僕じゃないっすからね…まったく。
[困ったように横たわったままのアンを見てため息]
僕には研究員は向いていないのかもしれない…。
[ぽつり]
[不意にルリに問われてきょとんとした表情で見返した]
ウィルス?ワクチン…僕が?
[緩く首をふり掛けて、止めた。
ふう、と息をついてふわ、と笑みを見せて]
わかったよ。やってみる。
どこまでできるかわからないけどね。
[ルリの腹部とつながっているポケコンを受け取る。
ルリに座るように促して自分も椅子に座り、
コンソールが開いたままのポケコン画面にコマンドを入力していく]
[この解析が成功すれば、少なくとも3体のロボットを正常に戻すことができるかもしれないと思うと自然とポケコンを見る視線に熱が入る。
入力したコマンドによって解析が始まり、コンソールの横に別のウインドウが開いて赤いバーが上下に動き始めた。
動きが止まったところでバーが赤いままなら別の解析コマンドを入力していく。
『now analyzing・・・・・・・・・・・・』
時の流れと共に「・」が増えていく。それを、半ば睨みつけるようにして見つめていた]
[バーの色が黄色になって、止まった]
第一段階クリアか。次は第二層の解析…。
[ぶつぶつと独り言を言いながら別のコマンドを入力する。
さっきまでバーが上下に動いていたウインドウに赤い球体が現れて表面の色の濃淡を変えながら点滅を始めた]
ルリちゃん、身体に異常は出ていないかい?
何かおかしくなったらすぐに言ってくれよ。
[ポケコンが多少補助に入っているものの、解析のために動いているのはルリのいわば頭脳であるチップだ。かなりの負荷がかかっているのを察して声をかけた]
そうか。もうちょっとだから頑張ってくれよ。
[ポケコンに点滅している球体の色が赤から朱色へ、そしてオレンジへ変わっていく。
やがて黄色くなって点滅速度が上がって…停止した]
はは、大丈夫だよ。
こっちからは命令を送ってるだけだから、他のデータは見えてないよ。
…多分、ね。
[願わくはルリの大切な記憶が負荷で飛んだりすることがないように、と思いながらルリの悪戯っぽい笑みに言葉を返す。
そしてポケコンのコンソールへウイルスの最後の層を解析するためのコマンドを叩いた]
コレがうまく行けば、終わるからね。
[最後の層の解析は3種類のバーが伸び縮みしている。
すべて赤い色が徐々に黄色がかっていく]
緑色になれば解析は完了なんだ。
[ルリの機能を心配しつつ、黄色から緑になりつつあるバーを見つめる。
3本のバーの動きが伸び縮みしながらゆっくりと揃っていく。
最後に同じ長さで止まり、緑色に点灯した]
解析は終わり。データを元にしてバッチファイルを作るぞ。
[ポケコンから入力していくのはいままでのよりも長い命令文。
何度も入力キーを叩いてはコマンドを打ち込んでいく]
これで、最後だ。
[そう言って『make /autorun -ac /get > I:\batch』と打ち込んで実行キーを叩く。
コンソールに文字列がかなりの速さで流れていく]
うまくできるといいけど。
[数分後。
読み取る間もないくらいの文字の流れが、ぴたりと止まった。
一番下段に表示されているのは『complete make』の文字と、点滅するカーソル。
ポケコンの中に出来上がったワクチンプログラムを取り込んでから解析プログラムを終了させた]
じゃぁ、ワクチンを流すよ。準備できたら教えてくれるかい?
[ルリからGOサインが出たならポケコンからワクチンプログラムを送る。
ルリの中へ渡ったワクチンは自動でウィルスを見つけて駆除するはずだ]
たのむ、うまくいってくれ。
[作成に失敗したワクチンは、ウィルス以外のものを消したりすることがあると聞く。
感覚的に失敗はしていないと思うが、それでも一抹の不安は残る。
祈るように、ルリの様子を*見ていた*]
ああ。
ルリちゃんのウィルスの駆除がうまくいったらね。
[ハツネの後姿に返事を返す。
不完全なままウィルスが増殖したルリにはすぐ駆除を行ったが、
同期しているハツネとオトハには駆除をするか否かの選択は彼女たちに委ねるつもりだった]
ロボットはいつまでも人間が自由に扱っていいもの、ってわけには行かなくなると思うんだ。
…そんなこと言ってるから、研究者に向いてないんだよな。
[独り言を呟いて自嘲気味に笑った]
[目の前のルリを心配そうに見ながら、聞こえた微かな息遣いに顔を上げた。
音を漏らした張本人を見て軽く目で笑って、ポケコンを操作してメモリを取り出した]
壱乃宮さん、これ、ワクチン。
もし、ハツネちゃんに使うなら持ってって。
[読んでいた本すら閉じて所在なさげな姿。
その目の前へワクチンプログラムを移したメモリを投げた]
いってらっしゃーい。
[純太が出て行ったあとの扉を見てふふ、と笑う。
徐に椅子を立ち上がって鼻歌を歌いながら戸棚の前へ]
いぇーいいぇーい ぼーくは大好きさ〜っと…あったあった。
[歌詞を口にしながら戸棚の奥に手を伸ばし、包みを手にして笑う]
とっておきの塩豆大福。
数が足りないからなかなか出せなかったんだ。
[ルリの前に一つを置いて、もう一つをかじる。
手の包みには、あと一つ]
どうぞ。
[オトハに手の大福を差し出しながら]
とっておきだよ。
他の人にはヒミツだからね。
[いたずらっ子のように笑った]
どうやって…?
[大福を包んでいた包みをひっくり返して店の名前を眺めながら]
この店の味を再現できるなら…うん。夢のようだ。
ぜひ作って欲しいね!
そのときは僕にも是非。
[オトハを夢いっぱいの瞳で見つめた]
それは楽しみだなぁ。
僕は…どうかな?
案外ここに居座っているかもしれないし…
しばらくは隣の棟に居るからいつでも駆けつけられるよ
[笑いながら、大福の最後の一口をゆっくりかみ締めた。
窓の外、雪の向こうに自分の研究室がある建物があるはずだ]
ルリちゃん、大丈夫かな。
大福乾いちゃうよ…?
[ワクチンがまだ作用している様子のルリを見て
次にその前に置いた大福を見てポツリと言った]
…ふふ。こんな研究者も居ていいのかな?
甘いって怒られそうだけどね。
こちらこそ、ありがとう。
おかげでもう少し頑張ろうかなって思えたよ。
[ルリの頭にそっと手を置いて、撫でるようにした後でその手を離した]
そうだね。
なんだか、嬉しそうだ。
[目を瞑ったままのルリの表情をみて、少し微笑んだ]
ワクチンも失敗してないみたいだ……ん?
[ふと肩にかかるおもさに顔をそちらへ向けた]
おと、は…さん?
[ほんの少し、驚いたように小さな声を上げた。
しかしそのまま静かに口元だけに笑みを浮かべて、
預けられた重さを受け入れた]