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[色とりどりの液体を詰めた、風変わりな球体。
蛇使いの視線は、ビャルネの杖へ螺旋状に施された
その飾りを示していた。]
何処かで、見たことがある気がしていたんだ。
アレの中身なんだな。
[気温変化で体積変化し易い液体を浮かべることで
気温を計る温度計は、総てが凍てつくこの地では
筒ごと固まって殆ど使い物にならない代物だが――
見覚えを指摘する蛇遣いは、そこまでは知らない。]
使いかたに縛られぬ発想か、面白いな。
どうなることやら。その通りだな。
だが、『必ず滅ぼさねばならぬ』。
長老さまとて仰っていらしたろう。
…何故、とみな諸々へ呟くが、
そこを尋ねたものとなるとどうもいないらしい。
[然し蛇使いの声音は、ビャルネがそれを長老に
尋ねることを勧めてはいない。杖飾りを見上げ]
元居た土地の、バザールで見たよ。
時代の遺物扱い、ということなのだろうな。
だから、あたしみたいな流れ者にも縁があった。
――…
書士のビャルネは、外で
不謹慎な笑みを慎む分別のある男だ。
違ったかね?
[ふと話の途中で挟んで、厚い毛皮に顎を埋める。
そのあとはまた興の波を消さぬままにひとつ頷く]
ああ。そのままだとさすがに、
それだけ鳴らしていれば割れそうだ。
[然し模されたものを想って――彼の杖が示すのは
いったい何度くらいなのだろうかと指先が尋ね。]
…そこへ、禁忌はないか?
["やるべきこと"。杖持ちの書士が口にした題目へか
蛇使いは視線を下ろしてビャルネのそれと重ねる。
今度は杖飾りがじゃらと鳴っても眼差しは逸れない]
――買いかぶられているのかね。
買いかぶらせているのだとしたら、
足を踏み外したときが恐ろしそうだな。
…好い向きへ転がるといい。
[先刻の言を今一度繰り返すと、
蛇遣いは杖飾りのひとつを吐息であわく曇らせ…
ひどく寒そうにその場でちいさく足踏みをした。]
落ちて芽が出る種でもなければ、
落ちぬがよいのだろうさ――…
冬の女王とやらに、あやかれるといい。
禁忌を感じて居ては出来ぬ―― か。
[幾らか意を交わしたビャルネと別れて、蛇遣いは
靴のなかでかじかむ足先をきゅきゅと少し動かす。
イェンニが戻るまでの間を過ごす方策を想うに…]
…酒だろうかな。
[そんなことを呟いて、自らの住まいを振り返り、
然程遠くないカウコの小屋を見遣りと思案する。
視線を動かす途中へと、そぞろ歩く態の人影を見]
… 何だ、当の本人が居るじゃないか。
わからなくは――為らんよ。
影響を及ぼし合いはするけれど。
[しろい呼気が流れる間を置いて、応えを昇らせる。
外気につめたい耳奥へ聴く相手の声をなぞりながら]
意思を押さえつけて操ること。
意志を抑えつけて操ること。
…すこし、違う。あたしがするのは前者だけかな。
わからないのが、厭になることがあるのかな。
[語尾を持ち上げない問い。
柔くはないが、乾いてもいない声音。]
…昨夜…
あたしは、お前を見てはいなかったけれど。
聴いていたよ。息遣いを*
[あまりの厳寒に声を常より大きくするも億劫で、
蛇遣いはカウコのほうへさくりと歩を踏み出す。]
…
[村内で見知る、人慣れしたトナカイを呼ぶらしき
彼の姿が珍しく――歩を寄せる間、その所作は概ね
意識に入って。…ぐず、と鼻先に濡れた音が立つ。]
…
厭なところに来合わせてしまったらしいか。
[詮無い声をかけるのは、彼がトナカイを放した後。]
少し、見えたのでな。
[とだけ蛇遣いは語尾上げるカウコへ言う。
カウコの様子を眺める間、別段身は隠さなかった。
ひとの遠目に、当然乍書簡の内容は読み取れない。
香の名残も、冷えて濡れた鼻腔には言わずもがな。]
むしろ熱でも出ればいいんだが。
…ああ、邪魔させてくれるといい。
[とん、と喉へ指を置いてみせるのは酒の強請りで]
…
顔に見合った所業、ということにしておくか。
[強いて問い詰めることなく、カウコへ真顔で言う。]
あたしにわかるのは、お前が読んだものを
すり替えなかったらしいこと、くらいだな。
ん… 熱は、分けるぶんが、入用だからな。
[ほと、と片手は首へ巻く冬眠中の大蛇へと触れる。
相手の小屋で落ち着く頃には寒さに縮こまっていた
とぐろもやや心地良さそうに緩むもあるようで――]
[どうもね、と礼だかあいさつだか定かで無い声で
毛布を受け取り、端を胸元で合わせぐるりと被る。]
…どう"在る"か、…だな。
[見えた変化は些細とも言えず…渡されたグラスを
一度膝元で落ち着かせる。死した者を悼むために。
――思案の間は暫し。]
…情が入らない自信は、ないな。
つい先刻だってイェンニを探していた。
だが、"やらない"はもう無い話だ。そうだろう。
……うん。居るぞ
[戯れへの応えも、他愛無く。
必要かもしれない問いを省くことへは、
こちらから大まかなところを添える。]
あたしのことを、狼遣いじゃないと
言ってくれた者がいるらしいんだが…
まじないだか評価の一環なんだかもよく判らん。
そんなこともあってな。確実な情報を待ちたい。
[カウコが口をつけるグラスへ、
微かにこちらのそれを触れさせて揺らす。
振動の余韻ごと含む酒は、容赦なく澄んだ熱。]
「狼」に語りかければ、か。
"49"が、な。
…試してみるに越したことはないんじゃないか。
近づければの話だとは思うがさ。
ああそう言えば――
その話、ウルスラ先生にも
一度してみたほうがいいかもしれんぞ。
[耳傾ける間、知己は時に笑み、蛇使いは飄然とか。
やがて窓からイェンニの姿が見えて、カウコに
旨かった、と添えてグラスを卓へと置く頃には、
蛇使いの頬と首周りに巻く白蛇とのいろの差が
傍目にもわかるほどにくっきりしているはずで*]
[酒杯と共に、時を傾けながら交わした会話。
カウコの宣言めく態に>>105、蛇遣いが応じたのは
室内をあたためる火が爆ぜるのを見計らった後で。]
その類の話は、
この前にしたものとばかり思っていた。
[籠められた思いを一蹴するのではなく――
とうに容れたことだとばかり、グラスの縁を舐め]
"そうじゃないかもしれない"でも"果たす"のか?
今日すべき話は、そちらだろ。
…お前は躊躇ってるか、躊躇ってほしいか、だ。
気づいていないのなら、教えておくよ。
[定かでない話へは、聴いておく、といずれ
公に齎される折を待つ態でみじかく口にした。]
"手伝う"と"大丈夫"なのだな。了解した。
お前がそういう気持ちなら、
…お前もきっと"大丈夫"さ。
[借りた毛布へと、体温残すままに畳んで――
椅子の上へ置く。ちらと見遣るは、同じ鏡。]
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