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─夜中─
[昨夜のミハイルやクレストの様子から、今夜、マティアスが連れて行かれることは無いだろうと、男は自分の部屋で浅い眠りについていた]
………ん
[男は緩く目を覚ます。
何かを叩きつけるような、外の音の、うるささに]
[しゅるりと、籠の中のビャクダが動く気配を感じて、男は寝台から出た。
この寒空に、動けるはずなど無いのに…いや]
…寒さが、和らいだ?
[ナッキは去ったのだろうか。
しかし、妙な胸騒ぎがする。この音は何だ? この音はまるで、暴風雨の――]
………。
[息を殺して、廊下に出る。
雨と風の、酷い音だ。薄明るい外が時折ぴかりと光り、思わず肩が跳ねる。
――男は、雷が苦手だった。
両親は、雷雨の日に死んだ。幼い男を心配させまいと、無理をして馬を出した結果、落盤に遭った。それでも魂だけでもと、自分を案じて戻ってきてくれたのだと――マティアスを通じて知った>>3:196、あの日から――、
誰か親しい人を連れて行ってしまいそうで、雷が怖い]
………
…イェンニ?
[ふわりと、視界に何か光るものが写る>>3:278。
しかし、何かに誘われるように廊下を歩く彼女の姿を見たのは一瞬で、すぐに稲光に紛れて見えなくなった*]
─朝─
[バタバタバタ]
[バタバタバタ]
[結局、あれきり眠りにつくことは出来ず、激しく屋根を壁を窓を打ち付ける雨音は、激しさを増す一方。
昨夜までの寒さはどこに行ったのか――暖かさが戻ってはいるものの、異常気象は続く。
ビャクダも、籠の中で落ちつきなく動き回っている。
もしトゥーリッキが生きていたら『タイフーンのようだ』と、遠い異国で見た暴風雨の事を口にしたかもしれない]
雪は止んだが、こりゃあ外には出られそうにないな。
[視線は自然と下を向く。…まだ、ナッキはいると言うことなのだろうか。
夜中に見たあれ>>1は、何だったのだろう。一瞬の事でよく判らなかったが…イェンニのように見えた]
[もしまだナッキがいるのだとしたら、マティアスからあまり目を離す訳にもいくまい。
個室か、大部屋か、彼のいる方へと戻ろうとして――]
ああ、イェンニ。
[階段でイェンニと顔を合わせ、普段と変わらないように見える姿に、ほう、と胸を撫で下ろす。
やはり夕べのあれは、何かの見間違いだったのだと]
すごい雨だな。…まだ、ナッキがいるのかね、これ。
まあ、あの極寒よりは凍えずに済む分いくらかマシだが、こんな暴風雨見たこともないからな…。
そういえば昨日、ニルスとやりあってたようだが…大丈夫か?
所々、声は聞こえていた。加勢してやればよかったん…
[ぴかり]
[ぴしゃん]
[言葉を遮るように轟く雷鳴に、男が青ざめ凍りつく。
格好のいい事を言いかけたまま顔を引きつらせるその様は、イェンニには滑稽に見えたかもしれない**]
[大量に降り注ぐ雨の中、司書はそこにいた。
大粒の雨が肌を叩けばさぞかし痛かろう。
されど雨は司書の肌を叩くことなく、
地面へと、強く叩きつけられていく。]
………ミハイル?
[雨の冷たさも感じない。
寒さだって、感じない。
己が死んだというのなら、ミハイルは?
傍にいないその人の名を、不安そうに呼んで。]
[たったひとり、大切なその人を探して、
司書はふらりふらりと、
ぼんやりと浮かぶコテージの明かりを目指す。
あそこに、居るだろうか。
否、居てほしいと。]
おいて、いくな………。
[か細い声は、今にも泣き出しそうな**]
[雷雨は凍てついた湖面も地表の雪も
溶かしに溶かして、はげしく打つ。
雪へ埋めていたトゥーリッキやドロテア、
イルマのしかばねは――野晒しとなった。
裏口の戸端から、埋めた男が
其れを長い間*見詰めていた*。]
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