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―ロビー―
117違う……119…?
ひゃくとおばんだから、110だろ。
[受話器を持ち上げ、警察へダイヤルした]
もしもし?
[聞こえてきたのは『はぁいあたしリカちゃん。お電話ありがとー!』という陽気な声だった]
すみません間違えました。
−朝・居室−
[再び目覚めると、すっかり日が高くなっていた]
私としたことが。もうこんな時間じゃないの。
ここに来てから、何故だか良く眠れるわねぇ。
[暢気に呟きながら、食堂へと向かう。そこにはいつもの和やかな雰囲気はなく、酷く寒々しかった。
ルリが一人で座っているのに気付いて]
ルリちゃん?おはよう。
他のみんなはどうしたの?
[――自室。
薄汚れた小瓶から、変色した手紙を取り出した]
素敵です。
僕もそう思った。
[昨日の会話を思い出しながら呟き、紙片を灰皿の上に置く。
横にあったマッチをすって、そっと火をつけた]
あら?ゼンジさん、どちらへ!?
[出かけるゼンジに気付いて声をかけるが、軽く手を上げて行ってしまう。その表情は、軽口とは裏腹にどこか緊迫していた]
ルリちゃん、ゼンジさんどこへ行ったのかしら?
[問うが、少女も行く先は知らない様子だ]
え?外には出るなって?
……そう。
じゃあ、待つことにしましょうか。
[いたずらに不安を煽るまいと、にっこりルリに笑いかけながら**]
[それとは別の、窓辺に置いてある真新しい小瓶。
懐かしげにそれを撫で、静かに告げる]
また、いずれ。
遠い昔に会いましょう。
[儚く笑んで、上着を羽織り、外へ出た。
灰皿の上、古い手紙が燃え尽きた]
[食堂へ向かう途中、入り口でゼンジの後姿を見かけた。
呼び止める暇もない。足を止めてそれを見送る]
どこへ?
[呟いてから、何かに気づいたように、あらぬ方向を見た。
虚空を見つめる猫の視線に似ている]
さかなは空に小鳥は水に
タマゴがはねて鏡(かがみ)が歌う
まっくら森は不思議なところ
朝からずっと
まっくらクライクライ
[つと足を止めて見覚えのある建物に首をかしげる]
あら、ペンションじゃない。
あ──私と、アンちゃん──。
[樹の下に横たわる見るも無残な死体を悲しげに見下ろし、近くにアンが居ないか視線をさまよわせる]
居ない、か。アンちゃんは天国に行ったのかな?
……あれ。でも、私、何で死んだの?
[こめかみに指先を軽く当てて眉をひそめる]
覚えてない……やだ。熊とか、野犬?
[不安そうに立ちすくむ横をゼンジが通り過ぎていく、その視線は決して自分には止まらない]
ああ、やっぱり見えないのね。若旦那さん、どこに行くのかしら。
[寂しそうに微笑んで見送る]
気をつけて行ってらっしゃい。
―車中―
[あの場に漂っていた臭いを思い出し、時折顔をしかめた。
カーラジオは陽気な歌謡曲を流している]
あ……?
[急ブレーキを踏み、身を乗り出してプレートに書かれた文字を読んだ]
ペンションまであと5km
[いつの間にか、出発したはずの地が行き先になっていた。
ここまでは山道とはいえ、一本道だったにも関わらず]
[車の音に気が付いて、玄関へと向かう。何となく一人にしてはいけない気がして、ルリの手を引っ張って]
ゼンジさんかしら?でも。
まださっき出て行ったばかりなのに……。
あら。セイジくん!おはよう!
[外へ出ようとする、見覚えのある後姿に、声をかける]
[戻ってきた車とゼンジの様子に不安そうにみつめる]
若旦那さん、大丈夫?
いつもの余裕のある笑顔が消えてるわよ。
あら、セイジ君も来た。
熊や野犬の仕業なら、ゼンゼンとセイセイでコントしてる場合じゃなくて、ペンションに早く入った方がいいんじゃないかしら?
ゼンジさんも、おかえりなさい。
どこに行ってらしたの?
出て行ったと思ったら、すぐに戻って来たけれど?
[声をかけながら、何だかゼンジの様子がおかしいのに気付く]
おはようございます。ボタンさん。
僕は少し、ああ、どうでしょう。
[連れられたルリを見て、あからさまに逡巡して]
僕はこれからちょっとへぶ!
[ゼンジに右頬を叩かれる]
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