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俺は、愛の安売りはしないのー。
[笑う声には笑って返す。
こうして交わす軽口が、神社で感じた苛立ちを多少なリとも鎮めてくれていた]
ん、それがいいかも。
……そーいやあの子、ここに引き込まれた後、しばらく具合悪そうだったんだよな……そこらもなんか、関わりあるかも知れん。
[引き込まれた後の状態も告げておく。
状況的に、個人差もでそうな所だが、それが異変に関わる、とは思っていなかったのだが]
行く先……帰る、って言ってたから……ああ、風音荘に下宿してるらしいから、そっちで会えるんじゃないか?
でなきゃ、駅前広場……さっき、海近くで集まってた連中で、後で広場で、って話しになってたから。
[行く先を問われると、先の話を思い出してこう告げた。**]
― →風音荘―
〜♪
[片耳にさしたイヤホンから繰り返し流れる音楽。
いつしか覚えてしまったメロディが鼻歌となって、無意識に零れていた。
そう何度も聴いていれば飽きてしまいそうなものだが、柔らかな音色と優しい声は不思議とそのまま聴いていられた]
…… あ。いた。
[そのうちに見えてきた風音荘の入り口。
探していた先輩の姿を見つけて、小走りになる]
[通学路を通り、娘が通っていた小学校へ。その途中、誰かに出会ったかもしれない。]
そう、そういえば、耐震工事があったのは、もうちょと後だったわね・・・
[敷地外から、コンクリート製の3階建ての建物を見上げる。]
みーちゃんは・・・
[まだ授業中だろうか。思いながら校門から一歩くぐったその瞬間]
―っ!
[いきなり、目の前に情景が広がる。
いくつか建っている簡易テント、トラックをぐるりと取り囲んで縄がはられ、その外側には様々な色や模様のビニールシートと、その上に座ったり立ったりしている人、人、人。そのほぼすべての視線が、トラックの中に注がれている。
トラックの中では、体操服姿の子供たちがリレーを行っていて、辺りに応援の声が響いている。]
・・・運動会・・・
[そう。確か、自分たちの子供のころには10月に行われていたその行事が、ここでは5月に行われていて、それを新鮮に、奇妙に思ったものだった。]
「みーちゃん!いけー!がんばれ!」
[唐突に。周りの喧騒の中から、「自分」の声が浮き上がる。
他の人や景色が微妙にセピア色がかっている中、背伸びをして手のひらサイズのカメラを構える自分と、その周囲だけが現実味のある、鮮やかな色彩を放っている。
と、]
「持とうか?俺の方が身長あるし。」
[紙の袋を持った男性が一人、近づいてくる。]
「結構よ。みーちゃんの姿は、私が残しておきたいの。」
[「自分」はそちらを見ようともせず、すげなく断る。
「やったー!」
トラックの中、同じように一人だけ色彩の鮮やかな、小学生の「娘」が一人を抜き去り、次の人にバトンを渡した。]
「お。さすが、みーちゃん。運動神経の良さは、母親譲り?」
[断られ、少し寂しそうな顔をした男性は、ビニールシートの外から、トラックを見ながら言う。]
「そうね。あの人は運動はからっきしだったから。で、なに?」
[用事が済んだのなら、早く帰って。そういう空気を隠すことなく、振り返らず告げる。]
「いや、頑張ってるみーちゃんにって、買ってきたんだ。よかったら、食べて。」
[そういって紙袋を差し出される。「自分」はそこでようやく振り返って受け取り、]
「雷電堂の柏餅じゃない!
ありがとう。昨日買いに行こうとしたんだけど、売りきれちゃってたのよねー。」
[いくら?財布を出しながら、尋ねる。が、]
「いや。お金はいいよ。本当に。それより、これが俺からって、みーちゃんには言わないでいてくれたら嬉しい。俺からって知ったら、みーちゃん食べてくれないから・・・」
[情けなく笑い、「じゃあ」と手を挙げて去ってゆく。]
「あ・・・」
[物言いたげに、しかし引き留めずただ見送る自分、そして、]
あー・・・相変わらず、控えめで後ろ向き過ぎるんだよなー・・・
[二人の様子を見ながらつぶやいて、そして、ふとトラックの方に視線を転じて、]
―!!!
[こちらの方に射るような視線を向ける「娘」の姿をとらえた。
しかし、過去の「自分」は、去ってゆく「彼」の方しか見ておらず、気付いていない。]
[草の生える石段をゆっくりと降りていく。
その時、あれこれと考え事に耽っていたから──それに気づくのは、一瞬、遅れた]
……っ!?
[息を切らして駆け上がってくる少年。
誰か、は見た瞬間にわかって、歩みが止まる。
立ち止まった自分をすり抜けて、少年は神社の境内へと駆け上がって行った]
いや、ま。
可能性は、考えてなかった……とは、言わんけど。
[くるり、今降りてきた境内を振り返る。
スケブを抱えた少年──『10年前の自分』の姿は、もう見えない]
実際に見るとなんつーか……。
[なんとも言い難いものを感じて、ひとつ、息を吐く。
この時代の自分。
話ができるなら、もしかしたら『ワスレモノ』が何か、知る事ができるかもしれない──とは、思えども]
……他に、なんかあるかも知れねぇし。
[ぽつり、と零れた呟きは言い訳めいた響きを帯びて。
ふる、と頭を一度横に振ると、石段を降りて歩き出した。**]
― 青海亭 ―
[海の方は気になったのだけれど、やっぱり家に帰って見れば洗濯ものがあったりするんだろうかなんて、小さな事が気になってしまって、海には戻らずに自宅へと足を向けた。]
ただいまー。
[其処にいたのは、今よりも少しだけ若い母親と―――… ]
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