情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
『お電話有難うございます。
こちらは、T社お客さまサポートセンターです。
申し訳ございませんが、
只今のお時間は営業時間外となっております。
9時から21時の間におかけ直しいただくか、
この後にメッセージをお残しくださいませ。…』
…
『 ――ピー 』
…申し上げます、申し上げます
こちらは、
四辻村の【―ざざ―】です
【―ざ ざざ―】
四辻村に アンテナは 【―ざ―】りません
繰り返します
四辻村に アンテ【―ざ―】【―ざ―】せん
お願いします ぜったい
おねがい
【―ざ―】たくないから
『 ピー―― 』
…
[少年に携帯電話の使い方を
教えた者がいた「前回」の*話*]
[ピラニアとフグと鯨とシマウマを足して3で割ったようなイキモノの後を追う。
噛まれた左手からは血がとめどなくあふれる。
近所のドウゼン先生が歯磨きをしながらえずいているときのような音が聞こえた]
大正100年9月XX日、午前6時をお知らせします。
[地面には、数え切れないくらいの時計が散らばっている。
それを見て、適当な時を告げた]
―― →教誨所 ――
[落ちていたメガネ――それがオトハの物かは知らない――を拾い上げ、決めポーズする屍人アン]
18年間無遅刻無欠席だもんね。
[説教机をずらして、床の隠し扉を開いた。
闇の奥底から、びちゃびちゃという音と、秒針の音が*聞こえる*]
「 『助けて』 」
「 『殺すしかないの』 」
[何時の記憶。
微かに、赤涙と妖しく笑う少女のあどけない顔。
自らの指先は赤く、そして相手の持つバットは赤く滴っている。]
『―― 5時55分**秒を ――』
[大音量のラジオが]
[昭和86年8月 都内 某所]
生温い部屋の片隅、
机の上に無造作に広げられたノートが一冊。
申し訳程度に付けられた空調の微風に、
ゆらりと揺れている。]
[ノートの持ち主は、平家 直海。
数十年教鞭を執り、教育に従事してきただけの
ごく在り来たりな一介の教師である筈の彼女が、
何故此処まで熱心に、
村の謎へのめり込んでいるのか。
当の本人しか、知る由は無い。]
[ふと、動く空気にページが大きく捲れ、
新たな文字が夏の日差しに晒された。
「ツチノコ」「土着信仰」「受け継がれる民話」
「外部との接触を頑なに断ち」「独自の文化」
「三十五年前」「災害」「傷害事件」「眠り姫」]
[凡そ日常ではあまり目に触れることの無い単語が、
そのノートには、極当たり前のように*記載されていた*]
「 … 教誨所 ‥ あそこに 不朽体の… そして… ――が 」
[何時か、自らの口が語った言葉。]
「 『境界は教誨に通ずる』 」
[――…破かれた地図、繋がれた地図。
異界の中で、場所が繋がる。異界の裡同士の境界。そして…――]
―― オ知ラセシシシシ ――
[大音量のラジオが時報を繰り返す。
さっきから同じ時刻のような気さえした]
『繰り返してる』
[無意識の思いを見ないようにして歯を食いしばる。詔は導くことを己はよく知っている。撃たれた右腕、自分の体液でぬれた手を杭に添える。肌の焼ける様な音、熱]
いいから『そいつ』を寄こせ!
[有象無象の記憶たちを蹴散らすように叫び――
杭を中心に広がった光に突き飛ばされるように、地面を転がった]
[不浄を討つ――知らない。
杭の名前――知らない。
神の名?――知るもんか。
うるしにかぶれるだとか。
正しい時を刻むだとか。
神に捧げる体だとか。
ヴェールをかぶった眠り姫だとか!
“きょうかい”だとか!!]
……。
[地面をいくらか転がって]
―― 5時55分**秒をお知らせします ――
[その声を聞いた]
[サイレンの、音]
――っ!
[否、それは堕ちたる神の呼び声。
両手で耳を塞ぐことなど、まるで役に立たぬ大音量で脳に刺さる]
[絶叫、は――
警官の体を借りるように。ただその身を折って]
[はらり。手紙が地面に落ちる頃、ゆらりと身を起こした]
[昭和86年9月 都内 某所]
[残暑厳しくも、冷房はゆるくそよぐ風は変わらず。
一角に置かれた机に広げられたノートもまた、
持ち主不在のまま、同じ場所に居住まう]
[緩くうねる風に、ノートがまた一枚、
音も無く捲れる。
几帳面な性格が窺われる文字が、
無駄な隙間もなく列ねられた片隅にもまた、
奇妙な文字がいくつも並んでいた。]
『 銀水 』
[廻る記憶は…。
乃木は、胸に刺さる杭に両手をかけた。]
…を… ”これ” *、
[杭から溢れ出した浄化の光は、ズイハラの前に、まるで『手に取れ』とばかりに集まる。一方、乃木の身体は『魔切り』の影響でか、痙攣を繰り返しているようだ。]
[訴えかけるような光の集まりに、右の手を伸ばす]
――。
[小さな、声で、つぶやいた。
光は指に絡み、腕に絡み、弾痕から体内にしみて]
……ノギ警官。
[けいれんする体。何か紡ごうとする唇。
どさりと膝をついて、杭をつかむ手に、己の右手を重ねる]
俺に、その「想い」をよこせ。
俺は「よそ者」だから。
[だから、また]
そんな、気がする。
[なんども、なんどでも]
……?
[『うしろのしょうめん だあれ?』]
[ふと舞い上がる記憶の声につられて、後ろを振り返った]
[女は、生きていた。
謎の生き物に捕まり、肩と脚と腹部から血を流すことになってもなお]
……ふ、もっとあっけないものかと――――…。
[眼鏡を通さない眼で、白みゆく空を眺める。
銀の懐中時計は、片手に持ったまま。顔の前に持ってこようとして、力を失いつつある手から、ぽろり、滑り、落ちた]
…………。
[思い出す。いつかの]
[屍人としての身体は、周囲情景を恍惚とした物と感じさせる。
『他者にも』この楽しさや幸福を分け与えたいが故に、此方の世界に引き込もう《相手を殺そう》とする。]
”・・・ ・・・”
[これで。
赤涙の流れる双眸が、ズイハラを見る。]
『…任せ…』
[視界ジャック。ズイハラの後方から視える何かが。]
[乃木の身体が、蒼白い炎に包まれた。其の炎がズイハラを焼く事はない。]
[些細な出来事。
前に、相棒がこっそり、女の腕時計を3分遅らせていたことがあった。
これなら3分遅刻しても、女の時計上では待ち合わせ時間ちょうどを指しているから、遅れたことにはならないと屁理屈をこねて]
時計を遅らせれば、―――、なかったことに――る?
「ならないよ。」
[その時、女に応えた相棒の声が、「いつの」ものなのか、
知る術は、ない**]
[現れた女の姿に、男はゆらりと振り向いて、首を傾けた。身を撃ち抜かれる前に対峙していた、人外の存在。彼女に対して緊張や恐怖や嫌悪を抱く事は、最早ない。赤い涙を流しながら、笑むばかりで]
……ぁあ、……
記事。……書かないと……
[僅かに首を縦に振る。それが頷きだったのかどうかは、判然としなかっただろう。赤い水溜りを踏みながら、男は蹌踉と歩き出す。
ジャケットのポケットの内で、デジタルカメラが、死に掛けた蝉の鳴き声のような音を立てながら、稼働していた。水に浸かり切って、本来ならばけして動く事はないだろうそれが。静かに、煩く、]
……ぁ? ……
[幾らか歩いてから、男はその存在に気が付き、緩慢にポケットからそれを取り出して]
……
[ぼんやりと。真にぼんやりと、カメラの裏側の液晶を眺める。其処には男が撮った写真がスライドショーのように映し出されていっていた。
同僚である編集者とカメラマン――もといカメラウーマンの姿。四辻村へと至る山道。四辻村の入り口。立ち並ぶ民家。赤い川。上空から見た集落。バインダーに挟まれていた、何かが書かれた紙]
……?
[首を傾げる。その動きに呼応するように、写真の変移が止まった。紙に刻まれた、象形文字のようなもの――今ならば読める、屍人が用いる文字――を、男は読んでいく。ひゅうひゅうと、呼吸音を零しながら]
ゆあみ かみ
きょうかい ほのお
つちのこ うろぼろす
ふきゅうたい
いかい かみの ち なきごえ
かぶれて
もやす やいば うけしもの
しびと は まもる
うけしものは は
まわり まわり まわり
まわり まわり
[まとまりのない、ほとんどが単語で構成された文面。それを読んだ男の内に、ふっと、何かが過ぎる。変わり切った裡の片隅で、何かの断片が、浮かび上がる]
…… 記者として、
真実を、……暴、……かな、ければ……
[ぽつりと、言葉が漏れる。断片の、一欠けらが。――何処かに存在した、――]
……あ、……はぁ、はぁあ。
ふぅ……っひ、……?
……記事、……書いて……
[再び首を傾げ、暫し静止する。やはり緩慢な動きでカメラをしまい込み、男は再び歩き出した]
……
[視界が、流れ込んでくる。目の前をちらつくように流れていく。絶望の因果に囚われた者達の、それぞれの視界。ノイズが走る光景の群れに、更にノイズが生じていくように、何かが混じり込む。
サブリミナルのように。奥底から。断片が。意識し得ない、脳髄の何処にも有らぬ、だが確かに存在の端に沈み込んだ、何かが。
教誨所。その身を引き上げた。破壊した鍵。書き記す。携帯を囮に。赤い涙を流していない が銃口を向けて私はそれをひきいれてあげようと 変わっていない が変わって見えて私は変わって変わり切れなくてひとでないそれがひとにみえて わたしはなかまにするためにしてあげてそれをおって]
[光景が、言葉が、浮かんでは、消える。
無数の断片は鮮明に再現され、しかし消えた後には、浮かび上がった事すら思い出せずに、存在し得ない筈のもの、へと戻って。
――「記憶」は隠れ潜み続ける。
泡沫の幻燈の後に残るのは、ただ、得体の知れない居心地の悪さ]
……ああぁ、……あぁ……
[呻き声と荒い呼吸音とを漏らしながら、男は揺らぎ歩いていく。まわり、まわり、まわり――**]
[いつか―――…]
[今回が無理でも―――…]
[いつか―――…]
[この環のくびきから抜け出ることを―――…]
「 『ギンスイは』 」
[想いは、渦巻いて。]
[*過去へ、向かう。*]
― 何時かの繰り返し>>0:34>>0:49 ―
[灼かれ浄化された身は、辛うじて到着の瞬間も原型を保っていた。だがその姿が、他者にどのように映っていたのかまでは不明だ。
尤も、およそ見られない姿であった事だけは確かだろう。]
「 ぉ****…*! 」
[遠く、遠い海の彼方から聞こえてくるような音。それが何であるか定かではなく。やがて、身体に刺さった杭が、床に転がる。『魔切り』の樹の杭が。
そして更に空間と時空は歪み、乃木の身体は――交番の中から、消えた。僅かな浄化の光の片鱗が宙に浮かび、空間に溶けるように消える。]
「 杭? 」
[随分経ったのか、元より時間など関係なかったのか。
交番の鍵が開かれ>>0:69、駐在警官の声が室内に―――響いた。**]
[幽霊の指先が、胸に抱く地球儀の表面を辿る。
手探りで、北極から南極へ――――スライド。
開く地球の中身はからっぽ。
そっと、携帯電話を入れる。
ひとつ共にゆくたからもの。
「悔い」を「杭」に替えて
持っていく乃木氏のように。]
また、逢うよね
そのときは…、…
[怯えた声の少女が口にした『助けて』を
少年はひとり、また噛み潰し、呑み込む。]
そのときは、
俺にも 何か 任せて
[目を閉じる。誰かの視界へ飛ぶ。]
[――明ける間際を裂けゆく夜が、時を歪ませて。
イケニエの少年が完全なかたちで捧げられるか、
語り継がれ損ねた神が人に討ち果たされるまで。
ユメ
若しくは、或いは、誰かの妄想が 醒めるまで。
祟り神さえ囚えて繰り返す罪の黒幕は――*誰*]
もしもし。
[コール音。ひどいノイズ]
ズイハラです。
四辻村に アンテナは いりません。
繰り返します。
四辻村に アンテナは いりません。
だから、もう誰も よこさないでください。
お願いします 絶対に。
もう誰も 犠牲を出したくないから。
[無表情に。電話口に。これでいいと、心で繰り返しながら]
[老夫婦がどこか別の世界でどこかの家の扉を叩くころ、そこでの生贄は儀式を終えて神へ跪いている。
それを知ってか知らずか、奇妙なイキモノはここの世界で人々を飲み込んでいく。
世界というイレモノと、眠り姫という核以外、すべて飲み干す勢いで]
変な、手紙が来たの。
あたし怖くて。
だから……
[やがて。
完全に動きを止めた女の身体の横で、女と同じ姿をした霊体が、ひそりと立ち上がった]
ふふ、………生と死の境界を越えたみたいだけど、
結局何も変わらないのね。
[霊体は滑るように死体に手を伸ばす。
その顔に眼鏡がかかっていないことに気付くと顔をひそめたが、]
まあいいや、なくても“視えてる”みたいだし。
あの眼鏡は他の人にくれてやりましょ。
ソラはどうなったのかな。
もし私と同じになってたら、時計がなくても時間を正確に測れるようになってたりして。
[もしも同じになってなかったら? ――考えたくはない。
いっそ時間を戻せたらいいのに、と。血の気のない顔で想像を廻らせる。
死ぬ間際に聞いた声のことは、既に忘却の彼方]
……あ、
[近付いてくる足音に気が付き、反応する、それとほぼ同時に抱き付かれた。男はゆっくりと振り向く。少女の姿を視界に入れる。かくまって。かけられた言葉が耳の奥で淡く反響する。
――断片]
……ぅ、……
[変な手紙が。怖くて。あたし。続けられる言葉をじっと聞き入れる。目の前で震える姿を、見下ろす。
――断片]
……あ あ。
一緒に……行こう。……
……離れない、ように…… 気を付けて。
[助けて。響く少女の声に、男は軋んだ声で返す。その相貌からは、赤い涙が絶え間なく流れ落ちる。――断片、は、浮上し、沈殿し、変貌し、積載される。
廻る。繰り返す。
幾度でも。赤き無限の輪が折れ朽ちる*まで*]
[すぐ手に取れる場所にあるのは、堕ちたる神に挑んで、力尽きた記憶。
真に挑むべきは――誰だ]
今、何時だ。
[汗をぬぐい、鉱山から“きょうかい”へ、道を駆け下りる。
ラジオ、乃木警官と一緒に燃えてしまった]
時計、懐中時計があれば、正確に時間を計ることができるのに。
[脈拍で数えたらとっくに5分は過ぎている気がするが、まだ日は昇っていない]
[そうして。
霊体は彷徨うのだ。
相棒の姿を求めて。
異界の裡に覗く、さらなる異界との境界を“見る”ことだけを願って。
そうして、輪に囚われたる女の魂は。
永遠に、えいえんに、同じ時間を廻るのだ。
*境界を“操る”ことを願わぬ限り。*]
[さまよう女は答えたか否か。
その問いは、『正しい問い』であったのか]
真に望む結末はなんだ、眠り姫。
[虚空へと、問いかける。
未だ光を宿す己の右腕を、“きょうかい”の床にたたき付けた**]
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