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[宿に着いた作家は、玄関先へ
荷物を置いて大きく伸びをする。
空港から市内までの道のりは慣れぬ景色を
眺めながらでも幾分か遠いように感じて、
シャトルバスの中では居眠りをしていた。
こわばった身体をほぐしながら
見上げる南国の空はひどく青い。]
[作家が宿の女将の丁寧な出迎えに
やや愛想なく受け答えをしている折、
―― ずん。と低く空気が響いた。
振り返ると、海を挟んだ対岸の火山から
真っ白な噴煙が昇りはじめるのが見える。]
[旅慣れしすぎた作家の、
どこか物足りなかった旅情がそそられて、]
祭りの準備も見たいので。
少し休んだら、出歩いてみます。
[眼鏡の奥に僅かばかりの笑みが*浮かんだ*。]
……すごいな、いつ見ても。
[足を止め、微かに響いた鈍い音の方に目を向ける。視線の遥か先には、煙を吐き出す山。思わず感嘆の言葉が口をついた。]
ええっと、さっきのバス停から南にしばらく行くんだよな。
[予約してある若者向けの宿に向かうべく、真昼の太陽のある方へ再び足を運ぶ。]
[──少しだけ感じる違和感。高校の部活の合宿の度に目に入った火の山は、日の沈む方角にあったのだ。**]
[塊のようだった噴煙はやがて形を変え、
午後の風に流されて降灰の予兆を伝える。
広い坂道を降りてきた作家は、
眼鏡を一度はずして確かめる。
――まだ、灰らしき埃はついていない。]
[下る坂道の先には ゆらり 陽炎が立つ。
眼鏡は外したまま、視界はぼやけたまま。
バス停のほうから歩いてきた若者が、
途中の道を南に向かって折れていく。]
そういえば、あちらにも
確か宿泊施設があったか。
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