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─学校─
[校庭の隅にある、ウサギ小屋の片隅で、白い小さなウサギが赤い目を開けた。
不思議そうに辺りを見回す。
白い耳の先端に付けられた黄緑色のタグが、ちりちりと揺れる]
(─…あれ?
ピョン吉は食べられたのか、な)
[みんなに「美味そう」と言われて居たことを思い出しつつ、かりかりと前脚で金網を引っかき]
(困った……えっ! わぁボクはニッキーだよ! 敵じゃないって!)
[いつの間にやら、茶色や黒ぶちのウサギたちに取り囲まれていた*]
─職員室横─
[命からがら逃げ出し、強い日差しを避け、人気のない校舎をさまよう。
木造の重そうなとびらの向こうから、大人の男たちの声が聞こえ、びくっと立ち止まる]
(駆け落ち ない? バク マシロ姉 真面目 神隠し 道に迷ってる……)
[漏れ聞こえる単語を拾い上げ、小さく呟く]
(えっ!? えええええっ!)
[混乱して駆け出した]
親父、これ出目金。
[抱えていた段ボールからビニール袋を取り出してみせると、箱ごと床に置く]
本当に今年もやるのかよ、送り火。
…まだ、連絡ないんだろ。
[父親の隣に腰かけると、流れた汗を拭う]
送り火は関係ないって…そりゃ、そうかもしれねぇけど。
2年、連続だぜ?もしかしたら今年も…。
[言葉を濁すもその先にある予想は明白]
ちょっと出かけてくる。
…瑠璃のことよく見とけよ。
[立ち上がると、父親に釘を刺した]
[ぽちゃん]
……あら。
[足先に感じる水の冷たさ。
見回せば川に足を浸している]
ここは。
[傍らにある岩に置いた本のページが、ぱらぱらと風でめくれていく]
[今年もまた、迎え火の季節がやってきた。
2年連続で迎え火の翌日に人が消えて、そのせいか今年は手伝い手も減っているようだ。
それでも黙々と準備をはじめる]
…
[昨年、消えたマシロと、迎え火の夜に話していた事を思い出す。
程なくして別れて、迎え火の炎の向こうに映った姿を見たのが、最後だった]
…そういえば、アンも最後に見たのは、炎の向こうに映った姿だったな。
[ぽつり、一昨年に消えたアンのことも思い出した]
迎え火の炎に消える神隠し…か…
そんな非現実的な話なんて、あるわけないさ…ないにきまってる…
[最後は消え入るような小さな言葉で呟いて、何かを忘れるように、準備に没頭をし始めた**]
ここは?
[つぶやいた自分の声を耳にして、瞬きを繰り返す。ぐるりと周りを見回して]
私は。
[広がる川は向こう岸が見えない。
かわりに見えるのは]
桃?
[首を傾げた]
―いくつかの桃のうちのひとつ―
灯篭流しならぬ、桃流しってか。
[桃に腰掛けて川を下っている。
すると人影が見えた]
おう、マシロ姉。
久しぶり。
[大きな桃、小さな桃、赤い桃、白い桃、どれもがほんのり光って見えた]
……マシロ。
[呼ばれた名を繰り返して、ああ、とつぶやいた]
ススムさん、お久しぶりです、ね。なんだかそんな気がするような、しないような。
迷子、ですか?
[ゆるりと首を傾げる]
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