[ソソラソドシ――場にそぐわない明るい調子の音律に立ち止まり髭を捻る。口元がもぞと動いたが声にはならない。
絵画セクションに足を向けかけたが人の気配を察して*踵を返した*]
[男はルネッサンスの間にするりと身をすべりこませた。手にしたバイオリンケースを天蓋つきのベッドの上に乗せると袖を肘まで捲り上げ、ゆっくりとケースを開く。
ケースの蓋に手をかけたまま周囲を伺う。人影がないことを確かめると、かびくさい羽毛布団をまくった。そして、マットレスとの間に手を差し入れるとその何もない空間を掴み引きずり出した。
男は手を握ったまま引き寄せると無表情にバイオリンケースに押し込んだ。
乱暴にケースの蓋を閉じるとパチリと留め金をかける。
これらの一連の動作の間、男は一切表情を崩さず息ひとつしなかった。
全てが済むと、男は淡々とベッドを元の通りに整えると、服についた埃を軽く払い、バイオリンケースを提げて*部屋を出て行った*]