今年も、お祭りが始まったね。
[一年前のことを思い出す]
浴衣……作ってあげたかったな。
[親しく話した少女のことを考える度、寂しさが込み上げた。神様じゃなくて閻魔様に会いたいと言っていた彼女は、望みがかなったのか。それに]
去年は二人消えた……。
[遠いところを見るような眼差しをした少年も]
二人とも、神隠し?
[ムカイを見ていると、一年前の光景が甦る]
ヒトダマが……。
[チラチラゆらゆら揺れる焔のようなそれは、人込みを漂ってやがてムカイの肩にそっととまって]
やだ……。
[真っ黒く凶凶しく膨らんで、そして消えた]
[準備を手伝う彼の姿からは、少しも邪悪さを感じないのだけれど]
どうしてなのかな。
[焔が示した黒い光りを思い出すとぞっとして、何となく腕をさする]
[トモユキとニキに問われれば]
お祭りの夜になるとね、どこからか焔がゆらゆらとんでくるの。
一昨年は……、
[トモユキの肩口を指し]
そこにとまって、淡く白く光って消えた。一年前は……。
ロッカちゃんのお兄ちゃんの肩にとまって、
真っ黒く膨らんで消えたのよ。
それだけ。
信じる信じないは自由だけど、私には確かに見えた。
でも。あれが何の意味を持ってたのかわからないな……。
ごめんね。
[ニキの耳……ではなく、頭を撫でながら]
だけど。
真っ黒い焔は、とても怖かったよ。……ロッカちゃんのお兄ちゃん、ダイジョブなのかな。
[後の方は独りごつように口にした*]
[トモユキの問いにはコクリとうなづき]
うん、そう。
……トモユキくんは、神隠し、信じてないのかな。
もしもまだ、神様が満足していないなら、今年も誰かがいなくなるかもしれないよ?
[さすがに三人も消えた後では、冗談めかした響きはない。むしろ不安が滲んだ]
どう思う?ねぇ?
[問いは、トモユキと、ムカイに向けて*]
[ゆらり……と、また焔が見えた気がして、ぼうっとその先を眺めていたけれど、手の中からニキが飛び出したので我にかえった]
え!?ニッキー?
逃げてって……誰から?
[と、トモユキの声も聞こえて]
おかしいって?
[思わずムカイを見る]
[駆け出したけれど]
あぁ!!トモユキくん!ニッキーがっ。
[トモユキの手から転がり落ちたニキを見て、足を止めた]
ねぇ、捕まっちゃうよ!?
[思わず口走ったけれど、誰に捕まるのか?捕まってどうなるのか?自分でもわからなかった]
[やがて、ムカイに抱き上げられたニキが]
笑ってる……?
……ねぇ、帰るって、どこに帰るの?
どこに連れて行っちゃうつもりなの?
[二人の姿を見ていると、どうしてだか胸の奥がざわざわして目が離せずに……、立ちすくんでいた*]