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[男は、ただ。
ただひとつ、望みがあっただけだった。
覚えて居るのは
舌に熱を感じた、事。
その後、冷たい雪を背に感じて、
熱は首に 腹に 口元に 喉に
味と温度とを 視力無きが故に
熱く 熱く あつく――]
[女の罵声に、男が見せた表情は恍惚にも似て。
ただ 熱に浮かされて男は肉と骨に成りゆく自身を、
何時しか見下ろして居た。
――見 下ろして。]
…――――、やめろ……
[エンジン音に似た子犬の唸り声。
その子犬の毛の色が 久しぶりに「見た」もので
男は、喉を鳴らした――気がした]
…やめろ、やめろ…――
――っ、俺を、俺に、…――っ
[両手で耳を抑える。
物質では無いそれは 震える鼓膜等あるはずもなく
男の魂らしきは眼を見開いて 吠え
何処かへと――走る様に飛ぶように 姿を消した**]
― 村の随分と上空 ―
[身体無き今 地の重力は枷に成らない。
男は紅いオーロラに混ざるかのように
随分と上から、地上を見下ろして居た。
長い間 視る事の無かった世界。
村の遠く向こう、別なる村が町へと変貌を遂げる所、
鉄の棒の組まれた足場が小さく見える。
男は眼を細めて ふと足元へと視線を落とす。
足元に子犬が纏う事は無く
ふ と 吐く事無き息の音を立てた]
[男は上空から村を見下ろす。
他の魂らしき気配に言葉を添えず、ただ見下ろす――
その顔を覆う包帯は無く、
とても見目良いとは言い難い男の素顔が晒されている]
…今更、とも、なんとも詮無いが―
そう思えるのが義理だと確信無い程には、棲み良い村だったな…
[それからゆっくり下降する。
透ける自身の体も、それ以外も、視界そのものが久しい男に大した違和感を与える事は無く]
…ああ、だがやはり―
あながち間違いでも、無かったのだな。
[全員殺して終えば良いと思ったのは本気で。
大恩ある長老のこの村を護る事にすべてかける男に、残る「容疑者」達が映る*]
[狼の唸り声に目を細める。
今まさに崩れそうだった―最も男がその事実を知ったのは今だというのは皮肉でしかないけれど―レイヨの小屋から、崩れる音。
温度感じぬ冷たき雪の動き]
…――おこがましい、か…?
[自身に浮かんだ感情に、微に困惑した態で
行く末を、見つめて居る*]
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