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………かえる心算がないなら…
もう一度だけお茶を振舞えれば幸いです。
わからなくともお話を伺いたいから…
[聞こえる咆哮にトゥーリッキから、冷気の流れ込む外へ向ける顔。何かはわからずも何事かが起こっている気配だけが感じられるから、前髪の奥で眉を顰める。
感じた死の片鱗には狼使いのものもあったと、それが誰かを確かめずとも伝えるべきと思う事。キィ…―――車椅子を進め、肩越しにウルスラを振り返った眼差しは流れ―――トゥーリッキに留まる]
…寝首をかかれても文句は言いません。
それなら安心ですから。
貴方に益がないならこの村に?
それとも狼に?
血のにおいが濃くなったわ。いい香り。
ねぇ、私にもそれを分けてくれるかしら。
[すらり。銀色は彼の喉元に微か、触れ]
私はこの村が食い尽くされてもかまわない。村の生欲より狼の食欲が勝っただけのこと。
私も同じことを言っていいのかしら。
皆、ほしいものを持っていってしまうから、イライラしてるの。
ねぇ?貴方、死ぬ気はなぁい?
守りたいのは貴方の「益」
私のほしい「益」じゃないわ。
[瞳をはっきりと見開いて。
彼には見えぬ、深い不快の色がひらめき]
……もしそうなら、此処は世界一平和だな。
[イェンニのような感性の人間が溢れた世界を少し想像して、眉間に皺を寄せた後、速攻で服を振る。]
手を汚す大義名分がありゃ、するだろ。
――たぶんな。
[吐き捨てるように呟くと、ふと空を見て]
結局、狼使いが何したかったのかが、わかんねーな。
滅びを望んでるようにも、見えなかった……
贔屓入って 見えなかっただけ、かもな――
[何を考えているのか、わからなかった。]
言わんこっちゃねぇ……
[イェンニとマティアスに息吐いて]
生きてても、これは守ってやれんな。
呪なんて、そんなもんだ――。
[目を逸らすつもりはない。
殺し合いなど、結果を見るまでわからないのだから。]
…ほしい「益」では無いなら、
「何故」問うた…?
[ひたりと 首元に触れる冷たいものは
雪でも手でも無い事は、知れる。
こくり 喉仏が一度動き 赤い血がぷつりと 浮いた]
…――死ぬ気、は。
…―お前が死んだ後なら、やぶさかでも、無い…
最終的には、村を丸ごと
狼に食らいつくさせるモンだとばっかり思ってたけどね。
でも、実際はああいう感じで
ただただ終わりのない殺戮を繰り返しているのかもねえ。
ここよりも平和な世界があることを祈るよ。
[そう言うとイェンニの方を示しながら]
……どうやら、大義名分なんてなくても
やる気だったみたいだよ。ほら。
あれが大義名分と言えるのかどうかも
私には分からないけどさ。
[そもそも 彼女が伏し眼がちな事も知らない。
彼女の見開いた瞳の色も、知らない。
それは幸か不幸かも、判る事は、無い。
知らぬ男は、彼女の手首を掴む手に力を入れ、
杖を持った手を前へと伸ばす――]
…欲しい物がもらえると思ったから。
綺麗ごとはまっぴら。失望も沢山。
守る、守らないではなくて。
どうして自分が生きたいからだと言わないの。
お飾りの言葉だけなら死んだ者が哀れだわ。
では貴方の命は私が予約。
[鉈を首から放すと、それを持ったままひそりと冷えた指をその喉元に滑らせて。指を染める赤を、びちゃりと音を立てて舐めとる]
…不味いわね。美味しくない。
[ますます力の入る腕に眉間を潜ませ。
その杖の行く末は瞳が追う]
…――…お飾り、きれいごと。
そう思うなら、…思うといい…
[僅かに言葉に含む色は、濃く低いもの。
ふ、とため息のようなものを、白く吐き]
…自分が生きたいからでないのに
自分が生きたいからだと言わなければ、
いけないのか…――?
…――嘘をつかねば哀れまれる、
死者もまた、哀しいものだな…?
[真っ直ぐに前へと差し出した杖。
飾り気の無い トナカイの蹄に覆われた先は
硬く 硬く 尖って居るのが見えるだろう。
そしてその手元もまた、同じように。
ぴちゃりと、舐める音に眉を顰めたまま、男はイェンニの手首を離さない]
…予約の前に、条件を言ったろう…
[杖の手元を、音から彼女の顔の位置を察知した上で
肩口へとあたりをつけて 振り降ろした]
そう思うからこそ私はこうなのよ。
その答え、虫唾が走る。
貴方、今日供犠の台に上られたら如何?
生きたがらぬ者が生きるとはね。
それこそ死者が哀れだわ。
生きたがらぬ者に殺されるものこそ、悲しすぎるわ。
ああ――…… あー、 やめた。
世界平和とか、俺が願う顔してねーだろ。
[何か気恥ずかしくなって帽子を深く被る。]
守る――ってのは、生きるだけじゃなくて
"生かす"意味があるのにゃ気付かないんだろーな。
…イェンニは。
……―――。
[過る顔はあったがそれも帽子の下。]
[開いた扉から聞こえた咆哮は、同じひとの耳持つ
レイヨに聞こえたか否か。感慨を浮かべて外を一度
見遣ったが――告げられる詫びへと緩く振り返る。]
詫びも聞きたくはないが、
耳に入ってしまったものは仕方がないな?
[彼の小屋へ招かれたときのように、
戸口の覆いを捲り上げて、レイヨの車椅子を通す。]
うむ、あたしに奪わせたくないなら――
【 ――がつん―― 】
時間を差し出せ、歩まぬレイヨ。
[蛇遣いの脚が、車椅子の背後から…
ティッピングレバーを思い切り蹴り下ろした。]
[跳ね上がった車体が戻る衝撃は、青年を
戸口の雪上へ投げ出すに充分な衝撃だろう。
レイヨが起き上がろうとするのを、力でなく
動作のみで制するように。彼の薄い胸板を踏む]
歩めるのだとしても――やめておけ。
そして、今宵は永らえろ。
[見下ろす瞳は、虎の如きいろをしている。]
これで… 安心だろう。
───っ!!
[肩に走るしびれるような熱に、
悲鳴は喉元で止まり溢れない]
あたしは、
殺されると約束した人が、いるのよ。
あんた なんか、に……
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