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[炊事場に姿を表したエビコにまだ残っている事を告げようと口を開いたが、言葉は不意にエビコを呼ぶ声に遮られた]
[廊下の先を見遣るエビコの横顔を見ていると、声の主はグンジのようで]
あら、だったらまだあるって伝えてくれない?
[先生もお腹空いたのかねぇ、という言葉にに応えて微笑んだ]
あらあ、食べないんですか?
大きくなれませんよ。
[妙に急いた様子の相手に首を傾げると、その問いに少し考え込む。]
他愛無いことですよ。
恥ずかしくなるくらい他愛無い。
[困ったような顔で頬に手を当てた。]
[エビコの表情を見つめた後、視線を炊事場へと移動させる]
いただきますよ、食事。
[そして食器を受け取ろうと近づく]
そうですか。
他愛もない、――願い?
みんな、ずっと一緒にいれますようにって。
確か、高校卒業の頃に書いたんだったかなぁ。
[少しだけ顔を赤くして、答えると、あ、と訂正した。]
落書きじゃありません。
お願いごとです。
はい、先生。
[グンジに豚汁を入れたお椀を渡す]
[エビコの落書きの話を聞けば]
ああ、あたしも何か書いた覚えがあるわ。
お社の、後ろの柱に。
皆書いたもんだよ。
あたしなんて村を出ていく事が決まってたから、真っ先に
[昔を思い出すとからりと笑った]
そ、それは確かにそうかもしれませんけど……。
[意外にも的確な突っ込みに動揺したあと、あ!と小さく叫ぶ。]
その前のはまともですよ!
「おばあちゃんの足を治してください」ですから。
これは神様にお願いすることでしょう?
[どうだとばかりに胸を張った。]
ありがとう。
[ホズミから椀を受け取り、箸を手にする]
いや、だから、せめて絵馬に書いたらどうなんだ。
そういう風習なのか……?
[首を捻って、テーブル席へ向かう。
座るのは、恰幅のいい影の二つ隣]
[豚汁を食べ終え、ホズミに顔を拭いてもらうと、にこりと笑いかける。ややしんみりした雰囲気に、いつものように首を傾げて]
…みんな、とも、だち?
[ぐるりとみんなの顔を見渡す]
そ、そう言う風習です……。
[動揺を隠し、強引に肯定した。
とりあえず落ち着く為に豚汁をすする。
熱い汁をすすって、ふうと一息ついた。]
でも、どうして急にそんなことを?
先生も何か書きたくなったんですか?
いやだなあ、先生。
絵馬なんていずれ捨てられちゃうじゃない。
そんなものにお願い事は書いてられないよ。
[猫少年が顔をあげた隙に布巾で口の回りを拭いた。
ともだち…と言われれば]
ああ、そうだね。
ともだち、だよ
[と猫少年の頭を撫でる]
友達じゃあないな。
[鈴木の疑問符に否定の言。
エビこの問いに一瞥して]
ん?
物置に落書きがあったんで、思い出しただけです。
あいにく、願かけるようなものは持ち合わせてないですね。
ぇへー
[エビコとホズミに、目を糸のようにして笑う。グンジの否定する言葉には、目を瞬いて]
…ちがぅ?
[少し悲しそう。きょろきょろと辺りを見回して、]
いるぅ?
[何もない空中の一点を見つめて、手を上げて挨拶する。]
落書きですか?
相合傘とか……?
[そう言えば、神社の柱にもいっぱいあったなぁと思い出す。]
先生は願掛けないんですか?
ツチノコを見つけたい、とか書けばかなうかもしれませんよ。
願い事は燃やしちゃいけないのか?
[日本って広いなぁと思っている]
ああ、居るよ。
すぐそばに。
[鈴木の頭を一撫でしてから、椀に口をつける]
相合傘の二人、別れてたら気まずいだろうな。
[箸を持った手で口元を多い、くつくつ笑う。
ツチノコと言われると、ああと呟きはしたが首肯はせずに]
それは紙の人形を燃やしたときに願掛けしました。
おさかなに、食べられるの?
ずいぶん大きい魚なのね?
[震える少年に、何か上着はないかと見回した。
不意に、彼の衣装を用意していたマシロを思い出し、言葉に詰まる。
その服はいまもここにあるのに。]
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