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[横丁の路地裏に佇む古い焼き鳥屋の壁には、
「ニッカウヰスキー」「イカリソース」等、
赤錆たブリキの看板が打ち付けられている。
現代に似つかわしくない街並み。]
…。
[狭い空を見上げ、白い息を吐く。
黒い鞄を重そうに抱え直す、背広姿。]
それは、…ご心痛なことで。
[背広姿は、辺りを見回す素振りをする。
視界にはいくらか人の姿も入るけれど、
彼の言う鮮やかなみどりは映らない――
路地を歩み来る眼鏡男の、
鮮やかな緑のネクタイは見なかったことにした。]
[上着の隠しから、
かさりと紙片を取り出す背広姿。
傍のお社でひいた神籤には、
『失せ物:出ず』と書いてある。]
探されたがっておいでだと、いいですね。
…常盤緑の、そのひとが。
[相手の雰囲気に何を想ってか、深く問わず。
そう言い添えて――会釈と共に歩き出す。]
では、お相子です。
僕も余所見をしていました。
[世慣れていない雰囲気の娘が見上げ来る
その視線を受けながら、背広姿は返答する。
彼女が何か拾うらしきを
一拍待って、首を傾げた。]
…「詳しかった」んですけどね。
今は、うろ覚えです。
行き先はどちらで?
[瞬きも少なく、相手の逡巡を容れる。
視線は、娘が口を開けば其処へと戻り]
ええ、知っています。
[言いながら、背広姿は辻の中央へ進み出る。]
床屋さん、
荒物屋さん、
牛乳屋さん、の順に辿っていけば
大通りに出られますよ。
辿れればですが。
[手にした黒い鞄は、重いまま。]
焼き鳥屋で、
砂肝を7連続で注文すると
[やがて横丁を抜け、雑踏に紛れる間際。]
「思い出屋」の裏メニューが…
というのは、ハズレ。
[まるでビジネスマンという
記号のような男が口にする、そんな*ひとりごと*]
[横丁の端には、円筒形の厳めしいポスト。
少女に呼び止められた背広姿は立ち止まる。]
テンマ、と申します。
[捻りない返答は、相手のまなざしゆえに。
ひとつ、会釈より少しだけ深い辞儀をする。]
[――ふと、背広姿は懐に手をやる。
取り出した紙片は、一葉のハガキ。]
…
[すこし見詰めたのちに、傍らの古ポストへ。
手首を翻す折は、少女にも短い文面が見える。
『今日は、貴方のお誕生日ですね。』
真白いハガキにたったそれだけの、文面が。]
うん。
[ポストの底が乾いた音を立てると、
テンマと名乗った男はひとつ頷いて]
…
僕の名前を知ったばかりのあなたを、
なんとお呼びすればよいでしょう?
[尋ねる。――他愛もない、会話の続き。
地下鉄に乗る気は、失せたよう*だった*]
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