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[浮かんだ思いは口に出されたのかどうか。]
[しばし後に面々と別れて歩き出し]
ぶわっ、
ちょ、なんだこりゃ?
[一瞬吹き付けた風に運ばれてきた紙切れに、顔面を直撃されてしまった。]
──んー?こいつは……。
[見ると、明らかに子供が書いた字に、赤ペンでいくつもの丸がつけられていて、]
「小父さんごめんなさーい」
[向こう側から、子供の謝る声がする。]
ああ、せっかく満点とったテストじゃないか。大事にランドセルに入れとかなきゃだめだろう。
[頭を下げてから走り寄ってくる男の子に自分も向かっていき、]
お母さんにちゃんと見せるんだぜ。
[改めて、ごめんなさいをいう子供に、ニヤリと笑って、「100点」と書かれたテスト用紙を手渡した。]
[礼を言って、走り去る少年を見送ると、再び歩き出す。]
100点満点か。俺は殆ど縁がなかったよなぁ。
いっぺんとった時は──
[一人ごちながらの足どりが、不意にゆっくりしたものになった。]
…。
……。
…………。
お前さんの見立ては正しかったねぇ、テンマさんよ。
[空き家探検がばれて、閉め出しを食らった日の遅い夕食。何故かいつになくごちそうが並んでいた。
悪童で、成績もあまり芳しくなかった自分が、偶に学校で誉められたりした時に並んでいたような品々。]
鼠小僧参上!って壁に書いていったようなものだったんだなあ、あの時は。
寄り道しないで真っ直ぐ帰りゃあよかったんだろうが……
[三度動き出した足は、雑貨屋を経て、和菓子屋に向かう。]
すまんが、これ一杯分の漉し餡を分けてもらえるかい?
[店の主に差し出したのは、雑貨屋で買い求めた、かなり大きめなタッパー。]
……。ああ、そうだな。成人病防止に、こいつを食べきるまでは、毎日ジョギングでもしようかね。
─ 横丁の一画 ─
むー、和菓子の作り方だけ載ってる本ってのは、ありそうでないもんだな。
[ぶつぶつ言いながら、本屋で求めたばかりのA4サイズくらいの薄い本を、路上でパラパラとめくる。]
……全部自力で思い出したかったがなあ。
……。そうか、蜂蜜も皮に入れるのか。
[開いたページには、「おうちで作れるどら焼き」の大きな文字と、こんがり焼けた素朴な菓子の写真。]
しかしあれだ。昔はこんな本なんかなかったのに、どうやって作り方を知ったんだろうな、おふくろ。
お。お前さんは確か……。
[声をかけられてそちらを見ると、レンという名の青年が、手に袋を持って立っていた。]
バク転芸人さんだったか?
[おかしな間違い方をしている。]
ああ、自家製どら焼きに、何日か前から挑戦してるんだ。
おふくろが生きてた時分によく作ってもらっててな。
[この数日、出来上がったものは、食えない事はないが、遺憾ながら記憶とは程遠い出来栄えである。]
お前さんの方は……チロルチョコの買い占めかい?
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