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[キィキィキィキィ…―――ラウリの脇を通りテントで長老と対面を果たせば、確証に欠けるながらも生前のマティアスの言であったカウコの死も、それがヘイノやラウリとは違うかたちであった事も聞けるだろう。狼の気配が村の中にまで息巻きはじめる重苦しい空気の中で、長老の語る声は遠のき、ほんの一瞬とはいえ呼吸すら忘れた]
………そうですか…
[ビャルネとカウコの異変にすら気づいたマティアスの言を疑う理由は薄弱で、掠れた声でなんとかそれだけを長老に返し項垂れる。曇る眼鏡を拭いもせず俯き、きつく瞼を伏せ、息を押し留め、かみ殺すも、隠し切れずに肩が震えた]
…………っ
………、…―――
[やがてヘイノの死や、人がトナカイに病を伝染すらしき事や、それを聞いたトゥーリッキの事、推察は交えず事実だけを簡潔に伝える。最後に場を辞すむねを口にして、長老に目礼を添えた]
[アルマウェルの姿はテントにあったか、あるいはまだマティアスの傍にあっただろうか。マティアスの傍に渡した膝掛けがあったなら、彼と子犬へ血に濡れたそれをかけて、アルマウェルへ向き直る]
………戻ります。
あの人にお茶を振舞う約束をしたんです。
報せの必要はありません。
でもアルマウェルが望まれるなら…
貴方にもお茶を。
[これからの事を考えれば隣人の手招く姿すら浮かびそうな今、忘却の術を持たぬアルマウェルに「使者」の役割を求めず、彼の意思だけを確認する声は静か。キィキィキィキィ…―――彼の返答がどんなものであれ、車椅子に座す求道者は自身の住まう朽ちかけた小屋へ戻る。
吹雪の向こうに見える住まいには明かりが灯り、既にトゥーリッキの姿はいつか招いた折と同じく火の傍にあるのだろうかと考え、眼鏡の奥の眼差しを細める。キィキィキィキィ…―――車椅子の音がやめば、断りを置く事はなく立て付けの悪い*扉を開いた*]
[逡巡も僅かに同行を示すアルマウェルの返事に、念を押すような再度の問いかけはせず、躊躇いがちな瞬きだけの頷きを添える。彼と小屋へ戻る道々には獣の息遣いが村の中にまで押し寄せていたが、口を開いて彼に何か言う事はなかった]
………きこえる…
[牙を向けられる事はなくも、恐怖に慄き扉を締め切る家々の周囲を闊歩する狼の姿も見えただろう。マティアスのように獣の気配を知る事の叶わぬ求道者は幽かに呟き、どことも取れぬ方を向き眼鏡の奥で眼差しを細めた]
………おかえりなさい。
生憎とその方たちに振舞えるお茶はありませんが。
[部屋に居座る狼の姿に注意を奪われ、半拍ほど遅れて場にそぐわぬ言葉を返す。部屋には慣れぬ獣の臭いが漂い、自らの寝台すら占拠されるらしきに、前髪に隠れる眉を下げた。
不在の間に火にかけられてたらしき鍋、トゥーリッキが腸詰を放り込むのに、更に下がる眉―――口で指摘をせずも隠さない面持ち。向けられるもう一つの視線―――白い蛇も眼差しはなぞり、冬に起きる蛇におはようございますと添えた]
はい…―――カウコも殺したんですね。
[キィ…―――茶を煎れようと身じろぎ軋んだ車椅子はトゥーリッキの言葉に止まり、長老から聞いた言葉を伝えるとも確かめるともなく、かみ締めるように呟く。キィキィ…―――容器の並ぶ棚から茶を選ぶ折、胸元にしまっていた容器を棚に戻した。
カウコへ差し出すために自らが歯を立てた指の傷と共に、子犬に牙を立てられた手の傷も今は薄く塞がる。カタリカタリ、一本だけ脚の短い机に空のカップを置くたび、小さな音がすれば狼は耳を動かすだろうか]
僕はあまり肉を口にしないんですが何の肉ですか?
[まじないのために狼の毛を飲んだ求道者は、それ以外の事で獣の身体を口にせず、普段は植物からの恵みで生きる。遅れて指摘する鍋に放り込まれた腸詰は、火にかかり温められて、徐々に香りを漂わせ出すか。
そのころには湯も沸き茶を煎れて、先の言葉通りに狼を従える以外はあまり普段と変わらず寛いで見える火の傍のトゥーリッキと、反対にとても警戒して見えるアルマウェルと、距離ある双方へ腕を広げるように両手を伸ばして、湯気のあがる*カップを差し出した*]
ひとまず、お茶でもどうぞ。
貴方だけでなく彼にも約束しましたし。
それに眠る間のツケが貯まった僕に出来る事は…
そう多くありませんから。
[カウコへの言及へ短く返されるトゥーリッキの言葉に、茶を煎れる間の耳を傾けても視線を向ける事はなかった。差し出す双方に受け取られぬ茶、二つのカップを膝上に引き寄せ、鎌首をもたげる白い蛇の所作に眼差しを細める]
………彼女にあえたんですね…
[腸詰の中身が血である事と同時に語られた言葉、いつの間にか姿を消したイェンニの面持ちを思い返す。トゥーリッキの口振りからも、口にせずも薄らと考えた道り腸詰の中身は彼女なのだろう。
自ら群れの頭と名乗り腸詰を齧るトゥーリッキの言葉に、前髪に隠れる眉を顰めるも、隠れぬ面持ちに浮かぶのは嫌悪ではなく思案。両手にカップを持っていなければ、眼鏡をはずしつるに歯を立てただろう]
…―――
………僕に人を癒せと仰るんですか。
[―――若先生―――呼ばわりに対する問いは語尾をあげずも、狼でも蛇でもなくトゥーリッキを捉える眼差しは細まる。アルマウェルへと向けられた言葉に、閉まらない扉の向こうへ顔を向け―――…]
…っ?!
[キィ…―――アルマウェルへ飛び掛らんと身を沈めた狼の姿に、眼鏡の奥の瞳を見開き声を上げるより息を呑んで、咄嗟に身を乗り出すと車椅子が軋みトンと片足が床を踏んでしまった。ギヂギヂ…ザザァァア…―――非難の声をあげるように崩れかけた小屋の軋む音と同時に、崩れかけた屋根の破片ごと積もった雪が入り口へ*降り注ぐ*]
[なぎ払うごとき刃を振るうアルマウェルへと、鋭い爪を立てる狼が雪と瓦礫の下敷きになっていくのに、咄嗟に踏み出しかけた足を慌てて床から離す。ギヂギヂギギギィ…―――崩れかけの小屋は恨みがましく軋む音を緩めるも、ぱらぱらと天井から砂埃が降った]
…すみません。
[下敷きになる狼へか諸共倒れたアルマウェルへなのか、小言を口にするトゥーリッキへか。誰に対してなのか小さく侘びを零すも、眼差しは雪煙の収まりはじめた入り口から離れない。
キィ…―――入り口へ向かう歩みはなく、車椅子が軋む音を立て寄れば、身を乗り出し雪に埋もれるアルマウェルの腕を掴んだ。力を入れて引けども踏ん張りの利かぬ車椅子の上では、彼の身を引きずり出すには至らない]
言ったじゃないですか。
僕に出来る事は、少ないんです。
ここにある薬で今すぐ僕に出来るのは時間稼ぎだけでしょう。
…でも文明の波が何ですか。
どんなに残酷だろうと時は流れます。
それでも…―――
どういきるか選ぶのは自分です。
[車椅子から身を乗り出し、力を籠めてぐいぐいとアルマウェルの腕を引くも、地に足をつける事はしない。茶の入ったカップはいつしか床に転がり、薄汚れた床を更に黒ずませて、彼の腕を掴んだまま勢いよく振り返りトゥーリッキを顧みた]
…―――、…手伝ってください。
病に冒された人を癒すなら彼の力が必要です。
…彼女なら何かしてくれたかも知れません。
貴方が狼に村を襲わせる理由が病なら…
望みと評する彼女だけでも全て告げればよかったんだ。
確かに彼女はここにいる彼に殺されました。
でもそれは貴方が…
口を開かなかったからでもあると思います。
その術を僕よりずっと貴方は握っていた。
[窓の外に見える焔の揺らめきは松明だけでないけれど、寒さを凌ぐのにやっと用を足すだけの崩れかけの小屋は、人の力に抗う術を持たない。獣の滅びを想えど眼差しは狼にも白蛇にも移らず、眼前にある群れの頭角を捉えるまま]
飼い馴らされるのと…
獣にはどちらがマシなんでしょう。
[煽動される狼に対してだけでなくぽつり呟いて、零した呼気は隠し切れぬ想いに微か震える。トゥーリッキの言葉に面持ちを違える事はなく、引き出せぬアルマウェルの腕をまた引いた]
…どう受け取られるも受け手次第です。
僕はその前言を訂正はしません。
[トゥーリッキの言葉を前面から否定せずも、容れず答える声は静か。軋む床は抜けず、引く腕に添えられる手はあるだろうか]
………結局は、貴方から奪わせてしまう…
…―――律儀ですね。
[切られる話へ返した言葉は短く、前髪に隠れぬ面持ちは酷く…―――続いた言葉へ引き結ぶ口元は笑まず、眼鏡の奥の眼差しだけが細まった]
望まれぬ言葉なら求めるのは気が引けますが…
お聞きできれば幸いです。
[寄り来るひときわ大きな狼の開く口―――覗く鋭い牙はアルマウェルへ深々と刺さるも、前髪に隠れる眉が痛みを思い潜まれど苦言を呈する事はない。引かれる力に助けられ、彼は雪より引きずり出されるだろう]
[ずるり、引き出されるアルマウェルの肩の傷口からは、紅い血が流れ続けていく。独力で起き上がる事もかなわぬらしき彼の身を引き寄せ肩を抑えて、トゥーリッキと助力をくれた狼へ浅い礼を向けた。
車椅子の背に隠し置いたナイフで服を裂き、出血の酷そうな肩の傷を裂いた服で縛る。車椅子から身を乗り出し、傷だらけのアルマウェルに手を伸ばして引きずり上げ、無防備な背をトゥーリッキや狼や蛇へと向ける間]
…付き合い方を覚えてからでも遅くないはずです。
[忘却の術を持たぬアルマウェルへ、奮い立たせる強さはなくも回復を願う態で静かに囁く。大雑把な応急手当を済ませると、手を離せど彼の身は車椅子に座す膝元に寄りかからせるまま]
いきますよ。
[アルマウェルのわきの下に腕を差しいれ、ぐ、と彼の身を持ち上げ地に立つ。ギヂギヂギヂギヂ…―――非難の音は一気に高まり、ばらばらと天井は崩れ始めた]
僕は彼らの毛を呑みました。
…ツケの支払いの一部は彼らに求められるかと。
早く遠くへ逃がした方がいいと思います。
[車椅子から立ち上がった求道者は訥々と変わらぬ口調で語り、差し出すものを受け取ると言うトゥーリッキを振り返らない。ガタッガタン―――崩れ落ちる柱は寝台の上へも、つつかれていた鍋の上にも降り注ぐ]
…―――トゥーリッキ…
僕はもう奪われました。
[笑まぬ口が嘯いた冗談めかぬ言葉は崩れ落ちる小屋の悲鳴にかき消され、崩れる小屋の外へ杖先の迫るアルマウェルを力いっぱいに放る。村人は崩れる屋根の上から慌てて飛び降りるだろうか、何人かは倒壊に巻き込まれたかも知れないけれど、確かめもせず杖に突かれ倒れる視界には紅いマントが*揺らめいた*]
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