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[すん、と鼻をならして店に戻り、厨房をいつもより時間を掛けて片付ける。
一段落した頃に、何を作るかと、上がり框に腰掛けてぼんやりと考えていたが]
あ。久しぶりに母さんの料理でも作ろうかな。
[楽しそうに手を打つと、住まいに上がると押入れを開け、置くから古い箱を取り出す。
黄ばんだ紙に細かい字で連ねられているのは、見慣れた母親の字。
眼を眇めて読み進める]
塩きついなぁ。
[母に習った筈なのに、いつの間にか自分好みに変えた分量を確認して苦笑い]
やっぱり、野菜料理が多い。
[魚料理は干物程度、肉類はあっても添え物程度だ。
他にも何か無いかと箱を見ていたら、小さな帳面が出てきた]
なんだろう?
[早朝の患者でも時間を問わず診療をする小さな医師の姿を、扉の陰からじっとみつめる更に小さな人影。その手には昨日からずっと縦笛が握られていた。]
おはよー。
上手に吹けるようになった?
[影は首を横にふるふると振ってしょんぼりとした顔を見せた。]
[ページを開くと、先ほどよりさらに読みづらく小さな字で書かれている。
後ろのほうに進めば、見覚えのある名前がいくつか。読み進めるうちに眉を顰めた]
ばち当たりな。
[まじめな顔は長く続かず、ぷっと噴き出す]
『肉ばかり食べているとくさい』って酷い。
母さんが作るわけじゃないでしょうに。
あ。もしかして、だから野菜が多い?
[ページの最後で指を止める]
母さんの味ってどんなのだったっけ?
[しばらく考え込む。
さらりと母の名前だけを書いてゆるく首を振った。
帳面を閉じ、箱にしまい蓋をとじる]
―診療所前―
[井戸から水を汲んで、老人や女子供しかいない家へと運ぶ作業の途中。
診療所から駆け出して来る子供を見付けた]
あ、テンゴ。
おーい、あんまり走るとまた転ぶぞー。
[声を掛けるが、テンゴは『わかってるよー』と答えるだけで、振り向きもせずに行ってしまった]
やれやれ、あいつ一人でワカバさんの仕事増やしてそうだよな。
[呟いてから、桶を担ぎ直し]
こんにちはー。ワカバさん、水使います?
[診療所の中に向けて声を掛けた]
[清治の声に、縦笛を持った影はぴゅっと家の奥へと消えていった。おそらくそのまま食事を済ませて学校へと向かうのだろう。]
はぁーい。
今、行きまーす。
[ぱたぱたと扉の方へと出向けば開いて]
せーじくん、おはよ〜。
いつもありがとねー。
[ほにゃっとした笑みを向けた。]
[そのまま箱を押入れの奥に入れ、襖をとじる。
膝の上に残されたのは母の書いた調理法の帳面]
さて、何をつくろうかな。
[どこか上の空で、ぱらぱらとページを*眺めている*]
―畑―
ふぅ。今日も暑いなぁ…
[畑の草をむしりながら、落ちてくる汗を手ぬぐいで拭う]
おや、テンゴ君。元気だねぇ。
[途中、畑の横を通り過ぎたテンゴに声をかけたりしつつも、ゆっくりと作業は進む]
あ、おはようございます。
[現れた若葉に挨拶を返す。
彼女にも学校に通う年齢の子供が居たはずだが、既に見える所にはいなくなっていた]
いや……こっちが具合悪い時は、お世話になってますから。お互い様ですよ。
[柔らかな笑みを向けられて、少し戸惑ったような表情を浮かべる。
実年齢は彼女の方が年上のはずだが、顔だけ見るととてもそうは思えなくて、どうも接し方に迷ってしまうのだ]
そういえば、さっきテンゴが診療所から出て行ったでしょう。
あんなにしょっちゅう世話をしていたら、子供が二人居るようなものでは?
[冗談めかした表情で訊いてみる]
お水はそこの甕に入れておいてくれるかな。
無くなりそうだったから助かっちゃった。
[診療所と自宅の間に、子供がすっぽりと入る程度の甕が設置してあった。]
うん、デンゴくんは常連さんだね。
[続く言葉に、ふ、と眉を下げて]
――― あははっ
1人いれば2人いても3人いてもかわんないよぉ。
はい。……よいしょっと。
[桶の中身を甕へあけながら、若葉の笑う声を聞く]
う?
うーん、そういうものなんだ。すごいなあ……。
僕なんて、生徒が一人増えたらそれだけで随分と苦労するのに。
[自分の学校での経験を思い出し、頭を掻く]
[からり、からり。男はいつものように村の中を歩いていく。緩慢な歩調で、時折景色を眺めながら。人に会えば微笑んで挨拶をしつつ]
……ふう。
[降り注ぐ日光、熱を蓄えた空気。額に滲んだ汗を手の甲で拭った。日陰になっているところで少し休んでいてから、また歩き出し]
ダンケさん。
おはようございます。
[畑に作業をする姿が見えれば、そう声をかけた]
せーじせんせーも、大変だね。
[笑い終えた顔でそう言い]
うちの子、昨日から縦笛お気に入りみたい。
がんばってね。
[軽くプレッシャーをかけるような口調だが
子をあやすように背伸びをして清治の頭へぽふり手を置いた。
そのまま、またほにゃっと笑みを向けてから手を放して、爪先立ちしていた足をすとんと元に戻した。]
でも実際のところ
もう1人くらい子供は産まなきゃね。
1人じゃ少ないって、よく回診にいく先のお爺さんにも言われてるんだ。
[童顔とはいえ自分の年齢は理解している故の思いはあって、今度は少しだけ困った顔をみせた。**]
ん?ああ、栂村さん。こんにちは。
今日も暑いですねぇ。
[草むしりの途中、声を掛けられると栂村に挨拶を返して]
そういえば、もうすぐ豊穣祈願の儀式がありましたね。語り、楽しみにしていますよ。
[もうすぐある儀式を思い出せば嬉しそうに言う]
え、あ……はい。
[頭の上に、小さな手が置かれるのを感じた。
子供に対するようなそれに、顔が赤くなるのを感じて視線を逸らす]
うん……でも、妊娠、とか、子育ても、いろいろ大変だと思うし。
無理して産む事も、ないんじゃないかな……。
[弟妹のいない自分には、女性の妊娠や出産は余り身近な出来事ではなく。
男の自分がどういう態度を取ればいいのかもわからなかった]
ああ、でも、子供が増えるのは良い事だよね、うん。
それじゃ、また明日来ます!
[若葉に向けて片手を上げると、診療所を出て行った]
ええ、今日も暑いですね。
こう毎日暑いと、体調を崩される方も多いでしょうから……少し心配です。
ダンケさんもお気を付けて。
[青く眩しい空を仰いでから、ダンケに向き直って言い]
そうですね、もうそろそろで……
直に準備も始まるでしょうね。
有難う御座います。へまをしないように頑張りますよ。
[儀式の話に、静かに笑んで頷いた。最後は冗談のように言って小さく首を傾け]
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