壱乃宮せんせーって暢気だよね。
[>>2:110きらきらオーラには気付かない。
何故なら棚の方を向いているから]
ツッコミは女子高生の必須スキルだからって仕込まれたんだよー。
[棚を漁りながらルリ>>2:109に言って、振り向いたときにはルリは意気揚揚と部屋を飛び出す所で]
どこ行くの?
[一歩遅れて出て行った廊下は、しんと静まり返っていた]
ルリちゃんが消えた。
ネギヤさんも多分居なくなってる。
[検査室を振り返ってから、ユウキに顔を向け直した]
……ズイハラさんは?
壱乃宮せんせー。
イヴの最初の子どもはどこにいるの?
コピー1号は、どこ?
[最初のイヴは博士と姿を消したのだから、正確に言うのなら自分たちは「イヴの孫」のはずで]
『そっち』?
[珍しく真面目な顔に見えるジュンタに首を傾げた]
先生、何か知ってませんか?
[ユウキの声のトーンを不審に思う]
ズイハラさんかユウキ先生が、ルリちゃん連れて行ったんじゃないかって、考えてもおかしくないですよねこれ。
そう、ですか?
[ユウキには、そうとしか言えない]
見てきます。
[ズイハラの部屋がある廊下の途中で、既に事態は予測できた。
開きっぱなしの扉に溜め息混じりに近づいた]
[ふと振り向いたのは、何か音がした気がしたから]
またか。
[廊下を浮遊する蝶は静かに近付いて来て、差し出した左手に止まった]
レンなのか?
[蝶が指先から飛び立つと同時に、ブレスレットがバラバラと床に散らばる]
[拾い集めた石を数えて]
一個足りないよなぁ……
なんて、これじゃ、人間らしくない。
[はふ、と息を吐いてポケットに石を押し込んだ]
なんだよ。
[蝶が耳に止まるのを払いのけることもせず、そのまま検査室の前へ]
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
[検査室の扉を開くなり口にするのは、『ロボット工学三原則』]
壱乃宮せんせー。
イヴの初代コピーがもう居ないと言い張るなら、質問を変えよう。
イヴそのものはどこにいる?
それなら、私達は誰のコピーなんだ?
私が聞きたいのは、学校の七不思議じみた噂でもなければ、『そして二人は幸せに暮らしました』というおとぎ話でもない。
[室内を見渡して顔ぶれを確認する]
スパイは研究所に固執している。
ここにある物は何か。
イヴが欲しいのだと推察したよ。
知ってるよ。
[データの話にはそう答えて、しばし黙り込む。
ジュンタに一歩近づいた]
せんせー、スパイごっこの答え合わせをしよう。
私は先生がスパイなんだと思う。
何故か。イヴが目的であるなら、そのコピーに携わっているはずの助手先生を捕まえた方が早い。
それなのに、居なくなったのはズイハラさんとルリちゃんだ。
変な蝶なんだ。
追いかけると姿を消す。
[オトハに一瞬顔を向けて、世間話のように言った]
壱乃宮せんせー、暢気だね。
[いつかと同じことを繰り返して、ジュンタの顔を写すように微笑む]
でもそれだと不思議なことが一つある。
私かオトハさんを捕まえれば、二人一緒に追い出せるのに、何故ルリちゃんなのか。
なんかもうわからないから、直接訊いた方が早いかなって思った。
結婚式の新婦父みたいな顔すんな。
[笑顔は浮かべられずに、オトハとユウキに背を向けたままジュンタを見下ろす]
ロボットに『やりたいことは何』と訊くのは酷い話だね。
せんせーは、どうして欲しい?
私は、命令があればなんだってするよ。
せんせー、ちゃらんぽらんだと思ってたけど、本当に科学者だったんだね。
[驚いている]
人もロボットも変わんないじゃんとか、そういう話?
ああ、そうだ。今まで、誰にも話したことが無いことがあるんだ。
私の最古の記憶はなんだと思う?
[視線はジュンタに向けたままだが、オトハとユウキにも聞こえるような声量]
秋田犬に追いかけられて転んだ記憶なんだよね。
私はルリちゃんよりもっと小さかった。そうだな、幼稚園位だったのかもしれない。
犬の名前はゴロウ。
[一拍置いてから、先を続ける]
立花家にも同じ名前の犬がいた。
どういうことなんだろうね?
そのとき、私はわけもなく泣きたくなった。
わけもなく泣きたくなった。
だけど、涙は出なかった。
どうしてか?
[ポケットに手を入れて、元ブレスレットであった石達を握り締める]
私は、泣き方を教わっていなかったから。
知らないのに、泣きたくなるなんて、歪んでいると思わないか?