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[人には相応しき生と死がある。
そんな事を、誰かが言っていた。
人一倍死に触れてきた若者は、そうだといいねと笑った。
患者の手術が上手くいかずに、死に至ったと連絡を受けた今日。
若者は、その患者が誰か聞かずに帰宅した。
聞けばきっと、とても悲しい気がしたから。
自分は未熟者であると、知っているから。
今日も今日とて、若者はコンビニ弁当を買った。
微糖を飲みながら、家路を急ぐ。
手袋越しに、珈琲の暖かさが伝わってきて。
吐く息は、とても白かった。]
星空、綺麗だなぁ
[高い空に、一筋の星が降った。
昔の人は、空をみて人の運命を占ったと言う。
あの流れ星は、どんな運命を暗示するのだろう。]
[占いなんて、医者のする事ではないな。
そう思って、小さく笑った。
運命だ、宿命だ。
そういう物のせいにしてはいけない。
全ては自分の、誰かの、選択の結果だ。
自分の力だけでは変えられない事を、人は運命だと言ってしまうけれど。
医者は、患者の未来を託される存在。
その医者が、運命なのだと逃げてはいけない。
だから、流れる星に願うなら。
皆が、最後の瞬間に笑っていられますように。]
ふふ
私にもこういう部分があったのだな
[そう思うと、少し可笑しくて。
肩をすくめると、前を歩く人影が見えた。
小さな子供と、若者と変わらぬくらいの年齢の母親が手をつないでいる。]
[何処かで違う選択をしていたら。
若者も、人の親になっていたのだろうか。
何処かで違う道を行けば、自分もああやって手をつないで歩いていたろうか。
そう思うと、少し寂しくて。
そして、その親子がとても微笑ましく見えた。
子供は、手に人形を握っている。
サンタには、そのお人形の友達を願うのかな?
それとも、別の何かが欲しいのかな?
少しだけ、歩く速度を速めて。
親子に追いついてみよう、なんて思う。]
ストーカーみたいで、やだけど
[勘違いされない程度には、距離をとっておこう。]
[この選択は、間違いだったのか。
ある意味では、正解だったのか。
子供は、人形を取り落とす。
母親の手を振り払い、それを拾いに車道に出て。
そこに、乗用車が走ってきた。
親子に近づいたのは、正解だった。
若者は反射で駆け出し、車にひかれる前の子供を捕まえることに成功した。
距離をとっていたのは、間違いだった。
子供を抱いて走り抜ける時間はなくて。
結果、子供を突き飛ばす形になった。
ほら、運命なんかじゃない。
ただ、選択を一つ、間違えただけだ。
いつだって、そこに死は転がっている。]
[運動、しておけばよかった。
学生時代なら、もう少し走るのが早かったろうに。
世界がくるくると回る中、浮かんだ苦笑い。
これで生きてたら、ジムに通おう。
そう考えられる程度には、若者は冷静だった。
不思議と、痛くはない。
ぐきりと嫌な音がしたけれど。
痛くもないし、苦しくもない。
背中が何かにぶつかって、回転がとまった。
空は、いつもより高い。
人が、あつまってきている。]
子供は無事ですか
[若者は、そう聞いたはずなのに。
自分の声は、聞こえなかった。
その代わりに、泣いている子供の声がする。
そうか、肺か首がやられて声が出ないのか。
5分以内に、救急車来るかなぁ。]
[無理だろうなぁ。
この場合、窒息になるのかな。
たぶん、そうだろうなぁ。
まぁ、いいさ。
選択を間違えた自分の責任だ。
若者は、小さく笑って。
眠くはなかったけれど、目を閉じた。
苦しそうに、見えるのかな。
血とか、出てるのかな。
子供が怖がらなければいいけれど。]
ただひたすらに生き、ただ死ぬだけ
それだけの事さ
[心残り、あるかな?
ああ、あの男の人にお礼を忘れていた。
ロッカさんにも、煙草のお礼してないや。
患者さんは、引き継いでくれるだろうし大丈夫。
父さんと母さんは、泣くだろうな。
孫、抱かせてやれなくてごめん。]
でも、まぁ
[心残りは、あるけれど。]
悪くない人生だった
[そう思って死ねるなら。]
幸せだろう
[自分は、まだ。]
[若者の意識が、いつ途切れたのか。
それは、誰にもわからないけれど。
最後に浮かべていた顔は、苦笑い。
星がもう一つ、流れた。
若者の部屋では、しまい忘れたアルバムが一つ。
桜並木、砂浜、紅葉、雪景色。
そんな写真がいくつか、テーブルに散蒔かれて。
半分ほど残った煙草がひと箱。
閉め忘れた窓から吹く風で、縫いぐるみとかかれたレシートが何処かへ飛んだ。]
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