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…わかった。
[囁くように落として、一人階段へと向かった。
気付けばポールを支えのように使って、ついている。
一段一段降りていったが、ついに途中の踊り場にへたり込んだ。
恨めしく階数表示を見れば、2階と3階の中間であるようだった。]
───…は。
[壁に背をつけて、座り込む。
首から後頭部をぶつけたあとは、打撲だろう。
鈍い痛みは頭痛のように変わりつつある。
脇腹は、じんじんと心臓と同じリズムで痛みを伝えてくる。
落ち着いて見てみれば、
シャツごと腹を裂くように鑿の刃が滑ったらしかった。
内臓に突き入れられなかっただけ良しとはいえ、痛む。
耳朶に、未来を告げる日記が響いた。
見上げてみれば、あとを追ってきたらしき姿がある。]
セイジ。
[自ら頼んだくせに軽く目を見開いて名を呼んで、
それから、嬉しいのか情けないのか分からないような顔で、]
ごめん。…ありがとう。
[礼を口にした。]
…そうか。
[ゼンジのこたえに、長い言葉は返さなかった。
返したのは、ごく短い了承の意のみ。
丁寧な礼に、同じく目を伏せて気持ちのみを表す。
それから暫く。
日記は、2ndの現状を伝えて来た。
”2ndは5thと合流した”
”2ndは4thと会談した”
それらを、端末は機械的に耳朶に転送して来る。]
サバイバル・ゲーム…、か。
[理不尽なゲームだ。
気持ちや肉体の強さによらず、
運や、少しの行動の差が生者と死者を分かっていく。]
悔いも何もなくせない。
そういうこと…、なのかな。
[独り言が零れた。
いつしか思考はゼンジとグリタに向けたものから、ソラのことへと向けられている。
深い、ため息が落ちた。*]
……酷いことをしたな。と、思って。
[なんでと言われれば、また眉が下がる。
傷口を看てくれるのには抗わず、目の前に揺れる髪を見ていた。]
俺はお前の気持ちに…酷いことをしたと、思ってさ。
だから、きちんと話がしたいと思って。
…、ああ。
[その通りだと思う。
瞼の裏には、先に見た冷たいグリタとソラの姿がある。
あの怪我は痛かっただろう、と思った。
ぐ。と、唇を引き結ぶ。今はその時じゃない。]
お前───、”も”?
[セイジと間近に視線が交わった。
疑問は、先に見たゼンジとの親しげな様子を思えばそうかとも思う。]
うん…。だからさ。
俺は、”仲間”を増やして勝とうと思っていた。
[言葉を継いだ。]
俺は鬼で、だから日記で繋がる仲間とあとは、
他の”仲間を”見つけようと考えた。
自分が生きながら最大に世界を救えるのはこの遣り方だけで、
だから俺は、仲間と呼べる人を探していた。
…こういうと綺麗そうだけれど、別に綺麗なものじゃない。
人数は多い方が勝ちやすい。
だから俺は、完全に俺の利害で動いていた。
クルミやソラと出会ったのは偶然で、
話してみたら2人とも裏がないっていうか──…
だから、これでいいと思ったんだ。
丁度いい味方を2人ゲットしたくらいに、思っていた。
心から信用出来るとは、最初は別に思っていなかった。
けどさ。
会話をして、行動をして……ソラが言ったらしいんだ。
俺やクルミが、鬼でも何でも関係なく守る、…って。
それは利害とかじゃなく、気持ちだと思う。
俺は利害を思って動いていたけれど、
結局、何だかこう──…自分で納得出来ないと、
満足出来ない気が、してきて、
[クルミに問いを掛けられ、グリタの願いを聞いた。
思いは少しずつ、この世界で変質してきた。]
…だからセイジが、
信頼で動きたいと言うのを聞いたときは嬉しくて、
そんな風に在りたいと──…そう思って、
鬼役とか関係なく手を結べたらいいと思って、
…──それも利害のうちでも、あったけれども。
やっぱり…嬉しくて、
だからあの時俺が言った言葉は、
半分くらいはきっと打算で、けれど半分は本当だ。
けど、その”半分”が、きっとお前を傷つけた。
…俺は、日記の仲間にも信用があまりないから、
大事な仲間だと言っても、要らないような顔をされてしまうけれども、
──…多分、大事だと思うのは返されるのが大事じゃないから、
[そしてひとつだけというものでもないと思うから]
俺からは大事な仲間だと言い続けようと思っていて、
だから──…お前も、
ソラも、クルミも大事だけれど、
あっちが。とかじゃなくて、お前とも大事だと言いたいと思う。
そんな風な関係になりたいと願う。
……我侭な言い草とは分かっているけど、
もし出来るなら、もう一度あの時の言葉を繰り返したい。
[口にするのは、あの時セイジの表情を見たから気付けたこと。
傷ついた金の瞳を見たから、気付けたこと。]
けれど、今度はすぐにとかじゃなくていい。
ゆっくりでいい。
そんな時間があるかは分からないけど、それでも。
お前と、利害じゃなく…気持ちで繋がりたいんだ。
俺はお前に、これを伝えたくて──…、…
なんか、ごめん。
[饒舌を恥じたように、口を閉じた。]
[傷口が、鼓動のリズムを伝えてくる。
当てられる手は布越しに、彼の体温を伝えてくる。]
…、ああ。
[彼が失望を重く語るのに、息を落とした。
返す言葉はなくて、それを受け止める。
言い訳は、ただ軽くなるだけだろう。]
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