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…逃げないんだな。
[当たり前のことを口にした。
こっちは一人、向こうは二人。
いかに武器を手にしていても、数では不利だ。けれど、]
デッドエンドフラグは立った。
[手にしたポールで、5thを指し示す。]
そうだな。そっちの動きはすぐに分かるし。
[無駄との2ndの認識に同意を返し、5thを見遣る。
怪我の程度はさして重くもなさそうだ。
それよりは2ndの方が余程重傷なのだろう。]
鬼を聞いてどうする?
あまり意味がないだろう。
[答える気がないとばかりに肩を竦めて、]
それより戦う前に聞いておきたいことがある。
二人は、勝ち残って神になってやりたいことはあるか。
[望みのありようを聞いた。]
夢の国───…?
[神の日記が語ったのは、一人きりの折。
口は挟まないと思っていた。
語れないと言われたから。
けれど神の日記越しにデンゴは語っていて、
だからどうやら、耳を傾けることは許されたらしかった。
そうして、偽りも誤魔化しもないデンゴの長い話を聞く。
黙って暫く、聞いていた。]
…どう、なんだろうな。
このゲームのあと、世界がどうなるかなんて俺には分からないけど、
だから、ゼンジさんの予想が正しいのかも知らないけれど、
…───今も嫌いなら、
昔のデンゴのままなら、俺たちにこんな話はしなかったんだろう?
このサバイバル・ゲームの意味って何だと思う。
存続させる世界を選ぶ…?誰が?
誰が選べるんだ、そんなもの。
選べるのは自分自身じゃないのか。
他人にそんなものを選べるのか。
───存続も、変化も。
その世界の者にしか選べやしない。
けれど…、なあ。デンゴ。
…変化って、悪いものだと思うか?
[ぽつと問う。既に昔とは変わった彼へと。]
デンゴの世界はデンゴの世界のまま、あればいい。
けれど、その世界はそのままで良かったか?
何かおかしくなってはいなかったか?
…きっと、変わらなければ滅ぶんだ。
だからゲームが開始されてしまった。
デンゴが変化を受け入れて、
世界もまた緩やかに変わるなら、世界は続いていくんじゃないか。
…オトナを受け入れるとか、
世界が変質するとか、そんなんじゃなく。
世界を続けるやり方が、あるのだと思う。
そうじゃなければ、万能の神なんて名乗れないだろ。
───変化していくこと、受け入れること、見極めること。
俺は、このゲームの本質はこの辺りかと思い始めている。
だから、俺たちが共に残ったからといって、
デンゴの夢の国がただ失われるということはないんじゃないか。
失わせなければいいんじゃないか。
見切ることは可能性を失うこと、
諦めることは未来の記述を失ってしまうことだろう。
まあ、そうか。
…いや、ジャッジはしない。出来もしない。
別に神になりたくて戦っているわけでもないし。
ただ何を思っているのかを、聞いてみたかった。
どんな相手なのかと、会話出来るならしてみたくてな。
[2ndには肩を竦めて、5thには首を横に振る。
ただ知ろうと思った。
知ることから逃げるのではなく、
自分がどんな相手を手にかけようとしているのかを知ろうと思った。
けれど無理に促すつもりもなく、]
なら、戦おうか。
[躊躇わずにポールを竹刀のようにして構えた。
運動の一環レベルであるから、さして期待も出来まいが、
なんの心得のないよりマシだろう。]
[5thの返答が素直だったから、少し笑った。
憎いわけでもなく、悪いわけでもない相手だ。
それをエゴのために今、死なせようと自分はしている。]
そうか。見たまんまだな。
[皮肉ではなくそう返して、ふたりの動きに目を配る。
やはり2ndの動きが鈍いと見て、5thへと向き直った。
腰に下げているものは、まだ手にしない。]
[セイジの手当てのおかげで、脇腹の傷は押さえられている。
痛み止めは頭痛をおさめてくれていたし、
服を代えているから、一見すれば万全にも見えるだろう。
とはいえ、長くやりあう体力はない。]
……せあッ!!
[素早く足を踏み出し、モップを手にする5thへ向かう。
中段からモップにポールを打ちつける音が、辺りに鋭く響いた。]
怒鳴る?……ああ、
[少し目を見開いてから、思い出して頷く。
いや。と、小さく口にして、]
悪い。
[簡単な謝罪を告げた。
気遣うかの言葉には肩を竦めて答えることなく、
本気を問われれば、軽く目を眇める。]
───そっちもだろ?
[これ以上は必要ないとばかり、軽く返して唇の端を上げた。]
[数合の間、モップとポールが打ち合わされる。
横薙ぎを防がれ、掬い上げる動きを強引にやり過ごした。
激しく動けば、脇腹の傷が開く。
じわりと嫌な感覚が、身体の中央に広がっていく。]
────ッ!
[ガードが開いたと見えた。
それへ頭上から打ち込むようにポールを振るう。
身体が開いた、そこを蹴られた。
襲い来るモップの先を、ギリギリで身体を開き避ける。]
…っ、そ……
[距離をとれば、視界の端に2ndが映る。
それへ脇の棚からボールを手に取り、
纏ったビニールごと思い切り蹴りこんでやった。
その隙に再び来るかと思えば、5thの姿はまだ遠く、]
…───そっちも痛むか。
[言わずもがなとばかりに投げかけて、
左を狙って再びポールを打ち下ろした。]
[蹴られた脇腹の傷は、すっかり開いて、
白いシャツの上にじわじわと赤を滲ませていく。
羽織った上着の合間からでも、それと見えるほどに赤く。
荒く大きく息をついて、ポールを強く握り締めた。
───まだだ。]
じゃあ、勝ちだ。
[返答に返す言葉はごく短い。
覚悟負けぬと言い切らない相手に、負けるわけにいかない。]
そっち……先に、してやろうか。
[荒く息をつく2ndへと低く声を投げ遣る。
どうにか身体を起こしてみるが、
開いた傷はつけられた時よりも、なお痛い。
それでも、ポールを握った。精一杯握るが、血や汗で滑る。
拳銃を乱暴にポケットへと突っ込む。
そうして、2ndの頭上に金属の棒を振り下ろした。]
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