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[それから誰が来たのか、手出ししたのかどうか。
背に手をついたまま、暫し呼吸を繰り返し、]
――どけ、
[右手にはナイフを持ったまま――書士に落とした最期の刃は喉。
びくりと跳ねたが最期、彼はもう動かない。]
……長老の所、行って来るわ。
[ナイフを抜いて、雪の上に落とし、こときれたビャルネを担ごうとしたところで一つ息を吐く。]
無理――今そんな力なかった。
[呟いて、ふらりと立ち上がると引き止めもされなければ長老のテントへと*向かう*]
[長老のテントへと向かう時、すれ違いざまに聴いたイェンニの声に息を吐くと、視線すら向けずに通過して。
その後現場で話されていることは知らず、テントに着いた時に見えたアルマウェルが問うような視線を向けると、長老へと併せて]
いましがた、ビャルネを殺してきた。
指示、待てなくて――すいません。
[右手と左手には見分けはつかぬだろうも自身とビャルネの血で染まり、喉を刺した時の返り血はまた、自身に赤を散らして。
何か問われることがあったなら、"音"と――書簡と彼の態度からまじない師ではないと思ったことだけ*告げる*]
[他に誰か居たか、自身がこの件に関して詫びたのは、長老の指示を待たなかったことと、勝手に長老宛の手紙を読んだことだけ。全てが長老宛。]
後悔は、してない――どうせいつか起こることだから。
[ぽたり、左手から垂れるひとしずく。
レイヨが近づいて来るのもただ気配だけで感じて、告げられた言葉に少しの思案――]
そう――…… 間違えたみたいだな。
[抑揚のない声で落とした言葉はソレ。
傍まで来たレイヨにしか聞こえないくらい小さな声。]
でも、ずっと気になってたから――
終わらない限り、いずれ殺してた、な。
[そこで漸く視線をおろし、レイヨを見つめて]
悪いな、厭な報告させちまって……
お前の立場も、今回の結果も……
[結果を告げるために、まじない師であることを明かさせたことへの詫び。それが嘘の可能性を今は想わない。]
後で、行ってもいいか?
レイヨが、怖くなければ――……。
[赦しを得られなければきっと向かうつもりもなく。
いずれにしても、血を纏ったままではどこへも行かない。]
――さっさと行動してしまう方がおかしいだけだ。
だから臆病とか、寄せ……。
[慰めではない。けれど今はそれしか言わない。
問いは今はゆるく頷いて、来訪の赦しを得たなら一度テントから出ようかと想ったところ掴まれた腕に]
―――っ、……、
……先に、血ぃ、何とかしてくるわ――……
[小さく息を飲む。
声は抑えても掴んだ当人にはビャルネの血でないことはわかっただろうけれど。]
何も、言うな、後で行くから――
[小さな声で添え置き、テントから出て行く]
― 自宅 ―
[ビャルネの血がついた上着は床に脱ぎ捨てたまま、包帯を解き、開いた左腕の傷にはアルコールをかけるだけの処置。
自分がつけたものより少し大きくなっているのには苦笑。]
詫びは入れない――今はまだ。
[止まりきらない血はまた少し包帯に染みを作るけど、巻き直せば滴るほどでもない。]
もつんかね、この調子で次にいって。
[時間は限られている――マティアスに使った呪はそろそろ効力を失う頃。]
尽きる前には、居ねぇかな、俺は――。
[疑われて当然の行動だ、と思い返しつつ、着替えて一度だけ大きく息を吐いてから外へ出た。]
[外へ出て、誰かとすれ違うことはあったか。
足はレイヨの家がある方へと向いて。
途中少しだけ、立ち止まって視線を投げた先には、見えずともビャルネを殺した現場の方向。
帽子をぐっと抑えて足を目的地へと進めて。]
――カウコだ。
戻ってるか?
[扉を叩き一応問いはすれ、中に灯りが点っているのならわかっていることのはず。]
――邪魔する。
[扉を開いて、中に入り一拍の間。
火の傍へと促されれば促されるまま。
茶を煎れに向けられた背を眺めやり、かける言葉]
先に、質問に返しておこうか。
[告げて、少し思案する間を置いて]
何もしなければ、長老から指示が出て――
誰かが死んでた、ことが前提か。
[事実、テントへと人が集まったのは沙汰を聞くため。]
長老の指示通りに誰か殺せば、間違っても後悔なしか?
元より、長老の言葉を免罪符にするつもりはなかった。
人一人殺すのに、
「命じられたから仕方なく」とは言いたくない。
[ほどなくすれば茶の香りが漂うだろうか。]
間違いでも、俺は自分でビャルネを疑って殺した。
そして、後悔するくらいなら最初から――しない。
が、答えでいいか? 納得しろとは言わない。
[後悔"出来ない"と同義にとられようと、自分の中では"しない"と定めて動いているから。]
問いが酷いんじゃなくて――俺が酷いんだよ。
[言葉はどこか自嘲めくも笑ってはいない。
茶を受け取れば礼を添え、一口含む。
返されるレイヨの声に耳傾け、ゆっくりと、嚥下して。]
……――そういうのを、見てから動くのも、
良かったかもしれんな。
[どこまでを理解してか、そう呟いて。
それでも早まったとは想わない様子ではあり。]
お前が、まじない師なら――死んだらダメだ。
俺のとは、"性質"が違う。
[差し出される傷薬に瞬き、レイヨを見やる。]
ウルスラにでも言わなきゃないかと想った。
……ありがたく、使わせてもらう。
[しかし傷薬をもらいにいけば怪我の理由を問われると。]
説得と言えば、マティアスが――狼と話せば
狼使いに声が届くかと、俺に聞いたことがあった。
――止めても行きそうだったから、狼だけからは
"守っていた"、――俺の血を以て。
ひとつ、教えてくれた礼だ。
ひとつ、情報かかえとけ。
正直、誰の真偽もわからんし、結局自分しか信じてない。
でも、それで滅びるのは俺らだから。
お前の言葉を最初に信じてみるのも一興だ。
味方同士で殺し合うのも滑稽ではあるけどな。
[お茶をもう一口すすり]
――こういう力だから。
誰かの盾になるのが俺の力だから――
俺が死ぬ代わりに誰かが死なないなら、それでもいい。
だから、迂闊な殺しも一番にやっちまったのかもな。
[そして付け足すように]
……本人の血なら少量で済むから、
守られてくれる気があるなら、
ちっとだけ分けてくれると助かる。
俺の血ばっかでやると、俺が勝手に死にそうだ。
[最後は軽口に似た言葉。]
俺が死んだら、俺は誰かを守れたと想うだけだから
俺が自分を守ることはない。
[守らないのか、守れないのか――真相は本人の*内*]
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