[1] 絞り込み / 発言欄へ
[夜半に吹くのは風一陣]
[それを起こすは、真白狐の覡]
[手にした鈴がしゃん、と鳴る]
[手にした扇がふわりと動いて、風を呼ぶ]
……遠い空のみちしるべ。
道を繋げて誘いましょう。
[ふわり、ひらり]
[巻き起こる風は、選んだものをあちら側へと誘って]
……今年も無事に、あちらへ送れましたわねぇ。
[そう、と呼びかける]
……あなたはこのまま、こちらに住まう?
[ゆるりと問う、声は酷く穏やかに]
[如何様な返事が返るとも、覡はただ、微笑むのみ、だけれども。*]
[歩くに合わせて鈴が鳴る]
[下駄ではなくてサンダルだから、音の協奏は軽いもの]
…………。
[立ち止まり、見上げる空には雲ひとつなく]
[白い帽子の下で、目を細める]
……ゆくもかえるも、おもうまま……かぁ。
[ぽつり、と零れた言葉は風に散り]
[空へと向けて消えてゆく]
[濃紅の朝顔纏う真白狐の覡は]
[ある日、舞う蛍火の如くふわりと消えた]
[どこへ行ったか、どこへ消えたか]
[いずれにしろ、夏に朝顔纏う娘の姿はいつの間にかどこにもなく]
[神社の一画に、日の出待たずに花開く]
[濃紅の朝顔が揺れるのみ]
─ 2015年8月14日 ─
[忙しなく目当ての屋台を探す動きに合わせて、ちりん、と微かな音が鳴る。
音の源は、ディパックに括りつけた古い鈴。
その横には、朝顔の花を模った布のストラップ]
……それにしても、今年も賑やかだよなぁ……。
[周囲の人だかりを見やって呟く口調はどこか少年のよう。
遠い昔にここにいた、同じ名前の少女とは真逆──では、あるけれど]
…………。
[ふと、駆ける足を止めて、空を見る。
上に見えるのは──]
……狐雲、か。
[呟く刹那、浮かんだ笑みは、遠い昔の。
真白狐の覡のそれと良く似たもの。
けれど、それはすぐさま掻き消えて]
……みっけ!
おじさーん、ラムネちょーだい、暑くて死ぬっ!
[目当ての屋台に駆けよれば、そんな恰好でくるからだ、とからかわれ]
えー、だって、浴衣とか出すの面倒だし。
『……面倒って、お前なあ。
俺がガキの頃は、祭りの度に色っぽい浴衣姿になるねぇちゃんがいてなぁ……』
はいはいストップ、おじさんのコイバナとかきょーみない。
『そんなんじゃねーよ!
……ま、なにはなくとも楽しんできな』
ん、わかってるよー、まったねー。
[軽いやり取りの後、冷たく冷えた瓶を片手にまた駆け出した]
『そんじゃ、オイラは行くよ。あっちでまた遊ぼうぜ!』
[思い返すのは、いつか聞いた声]
[真白狐はそれに笑って]
[短く『またねぇ』とだけ返していた]
……あいっ変わらず、元気ねぇ。
[零れるのは呆れたような呟きと。
くす、と楽しげな笑み、ひとつ。
ちりん、と鳴る鈴の音が。
祭りの風に、とけて、消える]
[1] 絞り込み / 発言欄へ