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[少女の心臓には爆弾がついている。
勿論それは比喩なのだけど、少女はその言葉を信じていた。
その爆弾を取り除くには、手術をしなければいけないらしい。
成功率は<54>%だと大人は言っていたけれど、少女にとってはそんなもの、実感が湧かないただの数字に過ぎなかった]
[夢を見ていた。
暗い中に、ぽっかりと明るい場所があり、その空間で老人が生い茂る草木に水をあげていた。
ああ、これもよくある夢だ。でも、いつも同じことをしてしまう]
おじいさん、おじいさん
もう私も十分生きましたよ
そろそろお迎えにきてくださいな
[老人に声をかけながらゆっくり明るい空間へ向かう。
老人が水遣りの手をとめて、こちらを見た。
そして首を振った]
― 朝 ―
[目を覚ますと、部屋に明るい光が差し込んでいた。この部屋の、朝日の当たりがとてもよいのが好きだ]
…よっこいしょ
[朝ごはんを食べに食堂へ行かないと。と洗面台に向かって身支度を始める]
豪勢な部屋だよ
トイレもあるし、鍵もかかるしね
わたしをこんなところに入れるなんて、もったいないさ
[家にいたってよかったのに。
ぱしゃぱしゃ顔を洗いながら呟いた]
さてと…
[朝食を終えるとふらりと病院棟へと足を向けた。
ここの食事は成年から見れば粗食も粗食だが、正直老いた自分にはそのそっけなさがちょうどいいくらいだった]
自分で作らなくていいなんて、豪勢だねぇ
[また呟きながらゆっくり渡り廊下を歩いていく。
昼間は介護棟でもレクリエーション的なことをやっているのだが、自分は散歩によるリハビリと称して病院棟や、庭に出るのが好きだった。
というか、レクリエーションに出るのが嫌だった]
[ここに来たばかりの頃、レクリエーションによるリハビリを職員に勧められ、目を留めたのが歌のレクリエーションだった。
これでもずっと若い頃には、満州のカフェで歌を歌ったこともあるのだ。あの頃歌ったような曲は演奏するのだろうか。
どんな人がいるのかというのもわくわくして、少し身なりを整えて会場に行き、椅子に座って開始を待った。他にも10人近くの老人が職員に連れられて集まっていた。
レクリエーションの時間になると、若い男の職員が2人やって来た。1人はギターを持っている。
『じゃーレクリエーションやりまーす。分かる人は歌ってくださーい』
やる気のない声に隣の職員がくすくす笑った。
ほかの集まった老人は、椅子に座ってぼんやりと2人を見ていた。
ギターを持った職員はその後、なにかよくわからないテンポの早い曲を弾いた。合いの手を入れるにしても早すぎてどうしようもない。
『あなにお前それ弾けんの?じゃああれ弾けねぇ?あのCMのさあ』
『お弾ける弾ける、ていうかお前もあれ好きなんだー』
[雑談しながら曲を弾きつづける2人を自分もぼうっと見ているだけだった]
ここの景色は綺麗だね…
[ふと渡り廊下から外を眺める。立つ木々は寒々しいが、ぽかぽかとした太陽が庭を照らし、遠くには漣立つ海が見えた]
― 病院棟 ―
おっとっと
[子供が走ってきたのをすっと避ける。
立ち止まってぺこりと頭を下げる子供に、いいよいいよ、と笑って声をかけた]
子供なんて見飽きるくらい見てきたのにね
[なんでやっぱり子供は可愛いのだろう。
にこにこしながらロビーのほうへ向かい、日当たりのいい場所にちょこんと腰掛けた。
雑誌がある。
ああ、虫眼鏡を借りなければ…**]
ロビー
[リハビリは嫌い。
私の足が役に立たない事を
嫌という程に思い知らされるから。
屋上へ連れて行ってと頼んだのに、
看護師は急な呼び出しに応じて
私をぽつんと残して行ってしまった。
何度も謝っていたから
許してあげる。
ひとりで行く病室への復路。
明るいロビーに響く子供の声。
小さな足音。
動かない足を見下ろして。
移動が億劫になってしまって、
そこで、車椅子を停めた。]
[外来患者で少し賑やかなロビー。
その中にあって静かな陽だまりに
ちょんと座るお婆さんの姿を見つけた。
祖母の優しくて乾いた手を思い出す。
私が入院している間に
死んでしまったお祖母ちゃんの手を。
からから…と車輪を回して近付いて。]
…お手玉を作れる?
[不躾に、声を、かけた。]
[整髪料もつけず乱れた前髪がわずらわしい。
腕から伸びた点滴も、2週間もすれば無意識にひきずることが出来るようになってきた。
外来棟から入院棟に戻り、病室へ向かう途中。椅子のすぐ傍で、立ったまま、壁に凭れ深く息をついた]
……は、疲れるなんて
情けない
[体調に不安を感じたのは、最初はいつだったか――去年のことだったように、思う。正月、実家に帰るべきかと頭を痛めていたことを、覚えている。
気のせいだと、時間がないと
自らをだまし続けたつけが、今の自分だ]
…あずきが入っていて。
ちりめんの布がさらさらしていて
懐かしい匂いがするの。
[戻ってくる声があってもなくても、
私は車椅子に座ったままで話をする。
海の音は
あずきを揺する音と
少し似ているなって考えてみたり。
お手玉があったら
少なくとも両手は退屈しないと
少し期待をしてみたり。]
あのころ
[女房と出会ったのは飲み屋だった。
とある離島から集団就職で上京した兄に呼ばれ
母と妹、弟と慣れ親しんだ島を離れたのは
中学を卒業する前だった。
もちろん、学校へ通う金などなく
兄の塗装の仕事を渋々手伝って成人を迎えた。
飲み屋で出会った女は、人妻だった。]
[結婚した瞬間に、父親になった。
三歳になる女の子は俺を「お兄ちゃん」と呼んだ。
「パパのところにかえりたい」と言うので
「パパはお仕事だから、
お兄ちゃんが「お父さん」になってあげるよ」と言ったら
にこにこと喜んで飛び跳ねていた。
実際、「パパ」は仕事と女遊びで
家庭を顧みなかった男らしい。
娘はすぐに懐いて「お父さん」と呼んでくれた。
女房は「ママ」のままだった。]
[それから二年後、血の繋がった娘ができた。
赤ん坊を抱いた瞬間の幸福感を
忘れることはないだろう。
兄と仲違いし、塗装屋を独立させたのもこの頃だ。
家族を養うことの喜びに溢れていた。
それと同じくらい家族に触れ
絵を描くのが好きだった。
だから一件塗り替えの仕事を終えると
その金が無くなるまで、仕事をしないサイクルだった。
生まれたばかりの赤ん坊と女房を、写真へ収める。
現像した写真を見ながら、油絵を描くためだ。
「お父さん、あたしも撮って」と
駆け寄る義娘が煩わしくなって
蹴り飛ばした。
血の繋がりが、愛おしい頃だった。]
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