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―自宅―
[日がだいぶ昇ってきた頃。寝床で目を覚ますと、ゆっくりと伸びをして]
ふぁー……
………
ね、寝坊したー!
[既に明るい外の景色に、慌てて支度をすませると、走って、それでも速度はゆっくりと畑へと向かう]
―翌朝・自宅―
[朝焼けの赤が空から消える頃、清治は目を覚ました。
大きく伸びをした後、布団を置き出し服を着替える。
学校の仕事は休みとはいえ、家で寝ている訳にもいかない]
ふー、今日もあっついなー。
あ、アンさん、おはよう。
[ガラリと引き戸を開け、目の前を横切っていった人影に声を駆ける。
女学生のような姿だが実際はもう少し年嵩で、あの服は単にお気に入りのようだ]
忙しいのかなあ。
……そういえば、アンさんちの隣の爺さん、寝込んでるんだっけ?
[しばらく娘の去った先を見詰めてから、本日の仕事のために歩き始めた]
[すん、と鼻をならして店に戻り、厨房をいつもより時間を掛けて片付ける。
一段落した頃に、何を作るかと、上がり框に腰掛けてぼんやりと考えていたが]
あ。久しぶりに母さんの料理でも作ろうかな。
[楽しそうに手を打つと、住まいに上がると押入れを開け、置くから古い箱を取り出す。
黄ばんだ紙に細かい字で連ねられているのは、見慣れた母親の字。
眼を眇めて読み進める]
塩きついなぁ。
[母に習った筈なのに、いつの間にか自分好みに変えた分量を確認して苦笑い]
やっぱり、野菜料理が多い。
[魚料理は干物程度、肉類はあっても添え物程度だ。
他にも何か無いかと箱を見ていたら、小さな帳面が出てきた]
なんだろう?
[早朝の患者でも時間を問わず診療をする小さな医師の姿を、扉の陰からじっとみつめる更に小さな人影。その手には昨日からずっと縦笛が握られていた。]
おはよー。
上手に吹けるようになった?
[影は首を横にふるふると振ってしょんぼりとした顔を見せた。]
[ページを開くと、先ほどよりさらに読みづらく小さな字で書かれている。
後ろのほうに進めば、見覚えのある名前がいくつか。読み進めるうちに眉を顰めた]
ばち当たりな。
[まじめな顔は長く続かず、ぷっと噴き出す]
『肉ばかり食べているとくさい』って酷い。
母さんが作るわけじゃないでしょうに。
あ。もしかして、だから野菜が多い?
[ページの最後で指を止める]
母さんの味ってどんなのだったっけ?
[しばらく考え込む。
さらりと母の名前だけを書いてゆるく首を振った。
帳面を閉じ、箱にしまい蓋をとじる]
―診療所前―
[井戸から水を汲んで、老人や女子供しかいない家へと運ぶ作業の途中。
診療所から駆け出して来る子供を見付けた]
あ、テンゴ。
おーい、あんまり走るとまた転ぶぞー。
[声を掛けるが、テンゴは『わかってるよー』と答えるだけで、振り向きもせずに行ってしまった]
やれやれ、あいつ一人でワカバさんの仕事増やしてそうだよな。
[呟いてから、桶を担ぎ直し]
こんにちはー。ワカバさん、水使います?
[診療所の中に向けて声を掛けた]
[清治の声に、縦笛を持った影はぴゅっと家の奥へと消えていった。おそらくそのまま食事を済ませて学校へと向かうのだろう。]
はぁーい。
今、行きまーす。
[ぱたぱたと扉の方へと出向けば開いて]
せーじくん、おはよ〜。
いつもありがとねー。
[ほにゃっとした笑みを向けた。]
[そのまま箱を押入れの奥に入れ、襖をとじる。
膝の上に残されたのは母の書いた調理法の帳面]
さて、何をつくろうかな。
[どこか上の空で、ぱらぱらとページを*眺めている*]
―畑―
ふぅ。今日も暑いなぁ…
[畑の草をむしりながら、落ちてくる汗を手ぬぐいで拭う]
おや、テンゴ君。元気だねぇ。
[途中、畑の横を通り過ぎたテンゴに声をかけたりしつつも、ゆっくりと作業は進む]
あ、おはようございます。
[現れた若葉に挨拶を返す。
彼女にも学校に通う年齢の子供が居たはずだが、既に見える所にはいなくなっていた]
いや……こっちが具合悪い時は、お世話になってますから。お互い様ですよ。
[柔らかな笑みを向けられて、少し戸惑ったような表情を浮かべる。
実年齢は彼女の方が年上のはずだが、顔だけ見るととてもそうは思えなくて、どうも接し方に迷ってしまうのだ]
そういえば、さっきテンゴが診療所から出て行ったでしょう。
あんなにしょっちゅう世話をしていたら、子供が二人居るようなものでは?
[冗談めかした表情で訊いてみる]
お水はそこの甕に入れておいてくれるかな。
無くなりそうだったから助かっちゃった。
[診療所と自宅の間に、子供がすっぽりと入る程度の甕が設置してあった。]
うん、デンゴくんは常連さんだね。
[続く言葉に、ふ、と眉を下げて]
――― あははっ
1人いれば2人いても3人いてもかわんないよぉ。
はい。……よいしょっと。
[桶の中身を甕へあけながら、若葉の笑う声を聞く]
う?
うーん、そういうものなんだ。すごいなあ……。
僕なんて、生徒が一人増えたらそれだけで随分と苦労するのに。
[自分の学校での経験を思い出し、頭を掻く]
[からり、からり。男はいつものように村の中を歩いていく。緩慢な歩調で、時折景色を眺めながら。人に会えば微笑んで挨拶をしつつ]
……ふう。
[降り注ぐ日光、熱を蓄えた空気。額に滲んだ汗を手の甲で拭った。日陰になっているところで少し休んでいてから、また歩き出し]
ダンケさん。
おはようございます。
[畑に作業をする姿が見えれば、そう声をかけた]
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