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[出来そこないの実験体と賞金稼ぎの女が息絶えた頃。
女は愛しそうに少女の生首を腕に抱いて、その頬を撫でていた。
見開いた眸は閉じさせて、だらりと飛び出した舌は口の中に収めさせる。
そうすればほら。腕の中に在るのは、生きていた頃と変わらない少女の姿]
やっと……手に入れた。
ドロテア……。
[するりと頬を撫で、温もり無くして久しい唇を、紅い舌でちろりと舐める。
舌先に伝わる濃い死の味に、くらりと強い酩酊感にとらわれる]
大丈夫よ。
すぐにまた、喋れるようになるわ。
……私があんたを産み直してあげる。
[ぎゅ、と。
素肌の腹部に押し当てる様に、ドロテアの首を抱く]
供儀は一度死んで蘇る。
救世主と同じように。これが本当の儀式――…。
私はリリスから聖母になるのよ。
[歌う様に囁くその顔は、まさに聖母のように慈悲深いそれ]
[強く強く。
腹部へと死した首を押し付ける。
肉がひしゃげ、皮膚が裂ける音と共に、ぐちゅりと粘性の音を響かせ別の個体であったはずの首は女の腹部へと溶けあい、混じり合い融合する。
そうして――……]
[――蝮の娘。
それは、施設がまだ少女の面影を残す頃に女に与えた名前。
幾度となく古き皮を捨てて新しく生まれ変わる蛇を不老不死の象徴だと盲信した者の手に寄り、人と蛇とを掛け合わせた融合体《キメラ》である事を知る者は少ない]
ああ……でも。
この子を産み直すには、足りないわ。
命が、足りない……。
[腹をさすりながら思うのは賞金稼ぎの女。
何度かの性交の合間に産み付けておいた蛇は、その身体の中でまだ生きているだろうか]
[意識を集中させれば、有翼人の発した大いなる光に照らされ、その表面を焼かれた賞金稼ぎの身体の内部で、蠢く分身の存在に気づく]
生きていたのね、良い子……。
[サーディがまだ生きている間に、蛇の中に蓄えさせていた命がまだ健在であることを知り、紅引く唇が口端をあげる]
戻っておいで、私の可愛い子供だち。
其の身に蓄えた命を、母に渡してちょうだい。
[その言葉を合図とするように、死したサーディの身体が一瞬震えると――]
[サーディの下腹を食い破り、飛び出す無数の蛇]
早く、はやく……。
戻ってきて、私に命を――……。
[歌う女に誘われるように、蛇たちは一斉に駆けだす。
寄生した宿主の命を女の元へと届けるために**]
[揺籃の歌は、彼の人にも届くだろうか。
命抱く事の出来ぬ、あの人に。
男が抱く灼熱よりも熱き血潮の鼓動の熱を身に孕む女の歌は]
ねむれ、ねむれ。
御母の胸に――……。
[膨れた腹を抱きながら、女は思う。
掠れた歌声を運ぶ風が、彼の人にも届けばいいのに、と**]
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