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去年は結局着れなかったしさ、今年こそ着たいんだってば。
友達も着て来るって言ってるしさ。
[鞄は居間の床に投げ出したまま、ソファの背もたれにだらりと顎を乗せると強請った。]
この村のお祭りなんて、大した楽しみも無いしさー。
せめて着るものくらいは特別なのが着たいじゃん。
あ、帯もひらひらじゃなくてちゃんとしたやつね。
―自宅の居間―
[制服のままソファに寝転がったことを母親から咎められ、勢いつけて身を起こした。]
はいはい。
着替えますよ!
え、お使い?
外暑そうだし嫌だなぁ。
あ、なんでも無いです。はい。
[母親の言葉に頷いて、二階の自室へと上がる。
Tシャツとショートパンツに着替えてから、まだ日の射し込む玄関でサンダルに爪先を滑らせた。]
行ってくるからねー。
浴衣出しておいてよー!
[最後にそう一言かけて、外の熱気の籠もった空気へと泳ぎ出す。
頭には麦藁帽子。
右手には回覧板と、神社で祭りの準備を進める人への差し入れ。]
あっつ……。
[回覧板を団扇代わりに神社への道をだらりと歩く。
道の先に、夏の日差しを反射して白く輝く白衣が見えた。
この村でそんなものを着て歩き回る人間に、心当たりは多くない。]
先生ー!
こんなあっついのに長袖?
[背後から声を張り上げる。]
長袖着てても充分若々しいよ、せんせ。
お母さんが言ってた。
[相手の見た目故か、自分の口調も友達に対するようなもの。
冗談ともつかない言葉を返す目上の男に、小走りで追いついた。]
ん、神社への差し入れだって。
[言って右手の風呂敷包みを軽く持ち上げた。
相手の視線がそちらではなく回覧板に向いていたの気づいて言い直す。]
あ、回覧板はニキちゃんとこに回す分だけど。
髭……。
[何やら逡巡している様子の村医者に、思わず彼が髭を生やしている様子を想像する。
想像がつかなかった為か、脳裏に浮かんだのはパーティーアイテムの付け髭と鼻眼鏡使用の姿。]
……先生には似合わないと思うよ。
[吹き出しそうになった表情を隠すように、医者の前に立って三樹の家へと向かう。]
萩原のおじーちゃんとこかぁ。
お仕事中なんだね、先生。
ね、さっき色々って言ってたけど、今年はお祭りでなにかあるの?
あっ!
ニキちゃーん!
[幼なじみの同級生が、それで自分を認識しているとは知らぬまま、回覧板を持った手を掲げてぶんぶんと振る。]
回覧板だよー!
冬眠してるとか。
……無いな。
[とりあえず浮かんだ言葉を口にしてから、頭上の太陽を見上げて遠い目になった。]
夏バテとか…?
ご飯も食べないの?
[問診?する医者の後ろから控え目に尋ねた。]
亀ってバナナ食べるんだっけ……?
って言うか、ペットの餌を飼い主が横撮りすんな!
[マイペースな答えに思わず半眼になって突っ込む。]
虫かぁ……。
テンゴとかに言えば取って来てくれそうだけどね。
[医者の言葉にうーんと考え込み、近所の小学生の名前を出す。]
普段、バナナとかニンジンを食べてる子が食べれるものなのかなぁ。
ドウゼン先生のところに行くなら付き合うけど……。
[言って、三樹と医者のやりとりにしばらく耳を*傾ける*。]
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