[彼らの死は切欠。
あまりに唐突過ぎて、知らせを聞いても。
帰路、擦違いに掛けられた声。
それは一見、気遣いの。
その人達が、自分を好ましく思っていないことは知っていた。
けれど、それなのにいつも繕って。
何を言ったらいいのか判らないのに。
何が何だか、解らなかったのに。
それでも、精一杯繕って。
微笑んだのは、気遣いに対しての。
何処かでまだ、好かれようとして。]
…ごめん。
[あの時、横たえられた両親の前で流した涙はただ。
自分を憐れんでいただけ。
霧雨の夜。
騒がしい家を抜け出し、辿り着いた先、
哀しげに揺れる花鈴、闇に浮かぶ藤色はなぜか。
滲んで、見えて。]
あ、れ。
[ここは何処だろう。
何故か兎が、立って話をしている。**]
そう、時計の鍵と螺子を―――…
[耳の奥。
微かに響く鐘の音を聞きながら。
いつのまに現れたのだろうか。
眼前の兎の言葉に調子を合わせるように頷く。
頷いてはいた、が。]
(柔らかそうな耳…)
[完全に上の空。
一方的ではあるが、その、あっけらかんとした物言いが。
その可愛らしい出で立ちが、戀から深刻さを遠ざけていた。
それだけではないかもしれないが。
夢現。]
[じーっと、時折動くふわふわのそれを見つめて。
触ったら怒るだろうか、などと考えていると、一通り話終えた兎が何やら頼んだよと言う。]
え?
あ、ごめ…、聞いてなかった。
[告げるも、返事はなく。
言うだけ言って、走っていく後姿を見送った。*]
…何を頼まれたんだろう。
[兎が溶けて行った先を眺めて呟くも、話を思い出そうとするでもない。
大事なことなら、そのうちまた、現れるだろう。
というより。]
すごい…
[改めて、辺りを見回して。
その一面の藤色にほうっと息を吐く。
なんとなく手を伸ばしかけて聞こえた、いくつかの声。
遠く呼びかけるそれに、そっと腕を下ろせば。]
…
[どうしよう、とまた藤色を眺めて。
返される声を聞く。
ここに居ると、わざわざ存在を伝えるなんて。
――――――出来ない。]
(…私に出来ることなんて何も。
だから、いい。
これで、このままで。)
[聞こえない。とそっと。
そっと声達から後ずさる。
せっかくだから、散策でもしようと。
気持ちを切り替えて。*]