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[聞こえるのは声だけというギンスイの説明を思い出し]
ヌイさん…!ヌイさん!
どこにいるの!声が聞こえたらあのね、セイジくんが危ない!タカハルは「疑え」とおんなじで、だから……ヌイさん!セイジくんを助けて……!
[大声でヌイの名を叫びながら村の通りを駆ける。
何度も何度も自分の知る事を繰り返し叫ぶ。例えそれが徒労に終わるかもしれなくても、叫びながら*走り続けるだろう*]
……だって……変、だよ。
なんで、そんなに楽しそう、なの?
皆、まだ見つかってないんだよね……?
[リコーダーを握り締める手も、雨で、滲む汗で、濡れていた。雨が体温を奪っていく。ただ、頭と胸の辺りだけが熱く感じられ]
……ねえ。タカハル君は……知ってる、の?
皆が、どこに行ったか……
何が、起こってるのか……
知ってる、んでしょう……?
[問い掛けの最後は、確認に近い調子だった]
[確かめるような、言葉。
『ああ、バレたか』
始まりからずっと、心の奥で笑っていたナニかが呟く。
もっとも、それと少年の境界線は、とっくに曖昧になっているのだけれど]
……知ってる、って言ったら?
ガム兄みたいに、駐在所にいけっていうん?
[くすり、笑う。回る、傘。ゆれる、てるてる]
[問いに否定は返らない。回る傘が、揺れるてるてる坊主が、雨の中で舞う蜻蛉のように見えた。
にじり寄るようにゆっくりと、タカハルの方に近付いていく。距離が縮む程に頭痛も声も酷くなるようだった。それでもなんとか、気を失わないようにして]
……駐在所に、行けなんて……言わない。
きっと、行っても、意味がないから。
タカハル君が知ってるなら……
……、皆を消した、犯人なら。
[少しの躊躇いの後にそう言い直し]
……皆を、消さないでって……
戻せるものなら、戻してって……
そう、頼むよ。
僕なら、消していいから……って。
他の国はどうだかしらねーが、日本では雨降ったら傘さすの!
[車を止めて雨の中出て行く。
荷台から取り出したコウモリ傘をヌイへと投げつけた]
……みえねーの?
[車に戻ろうとしたが、振り向いてヌイに聞いた]
[ゆっくりと近づきながら言い募るセイジの言葉に、掠めるのは苦笑い。
それは、『少年』の浮かべていたもの]
……セイちゃんはお人よしだよなぁ、ほんと。
けど。
[言葉が途切れるのと同時、表情は失せる]
……まだ、『還せ』ない。
足りないんだよ。
もっと、もっと、雨が降らなきゃ……『堰』はこえらんない。
……だから……セイちゃん。
ジャマ、すんな?
[そして声は一つとなり、笑みはたのしげなものへと変わり。
くるり、踵を返すや否や。
雨の奥へと*走り出す*]
堰……?
もっと、雨が降らなきゃって……
[どういう事なのか。
聞き返そうとしたところで、タカハルのものではない声が響いた。重なる二つの声。それらは頭の中でする声と入り混じり、しかし、酷くはっきりと聞こえて]
……あ、……待って……!
[一つに戻るタカハルの声にはっとし、走っていく姿を追おうとした。すぐには走り出せず、再びその場に蹲り]
アン …
[荷台のトランクでは、巣箱の蜂が最早わんわんと唸るほど。
「仏さん」の声を聞かぬふりの出来ない男は、悲痛に呼ぶ
声のほうへと呟く。そして軽トラから降りてきたンガムラから
投げつけられた傘を一旦胸板でトラップしてから受け取り]
…みえん の かもしれん。
[物体をすり抜ける存在となろうとも、
老婆の能力そのままに、遅れがちな歩みになる。
通りの看板の一つへ片足が触れても、
何の感触も返らない。
不意に、周波数の合わないラジオじみた感覚、
それから、少女の叫び。]
――わ ぷ !
[アンとぶつかった。]
……タカハル君は……
ボタンさんは……
あの声、は……一体、何なの……?
[タカハルが去ると程無くして頭痛が治まったが、立ち上がりはしないままに、呟いた]
ねえ。貴方は……
教えては、くれないんですか? ……
[問い掛けは自分に言葉を託す「声」に向け。それに返事はなく、ただ、雨の音が*続いていた*]
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