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(脈ありかしら?)
[窓の外。そっぽを向いたままのズイハラの言葉に、少し意外そうな表情。が、それも半瞬の間。むしろ先刻から感じていた視線の先、ナオを見遣って、不敵な笑み。]
(あら。そういうことなの。でも、お生憎様。)
千客万来よ?でも。あなたは…
あたしと飲んで、あたしとお話して、あたしの歌を聴くの。
飽きさせたりしないわ?
[と、図太い声。
合席、隙間と言える隙間もないような空間を更に埋めるように身を寄せて。]
だから。その先は、あなた次第よ。
[少々の気恥ずかしさは八つ当たりじみて発散された。
唇ヘの字。憮然な目つきは眼鏡の奥。
車内床へ置き去りのままだった鞄へ注がれる視線は、
どこかのボックス席で生まれた忍び笑いを見ることは出来ないが。
見えたら見えたで、
羞恥にいっそう唇がひん曲がるだろうから
良い方向に物事が転がった、そういうことだ。
一方的とはいえ、見知ってる相手であれば、なおさらのこと。]
[男子学生の所属する弓道部で、いつだったか、
他校で練習試合が行われた。
何を隠そう、試合に遅刻していったのがこの学生である。
家業手伝ってたら遅れました。
集合時間も集合場所もすっ飛ばして、
顧問に入れた連絡がそれだった。
今からでもいい、来い との言葉に一も二もなく頷いた。]
[とは言え他校での開催、
辿りついたはいいが肝心の場所が分からずに
たまたま通りかかった女子生徒に聞いた。
他にも数人いたというのに
わざわざ、その女子学生の袖を引いてしまったのは、]
『あの、 サー、すいません
弓道場ってどこですか!』
[その持ち運んだ楽器ケースと、
側面に綴られた英字に、どことなく見覚えがあったからだ。]
[全力疾走に上気し、眼鏡が曇るからと外していた彼は
その時流れる文字を読むことは出来なかった。
後日電車内で彼女を見、道理で見覚えがあるはずだと得心した。
それからは
時々、ほんとうに時々、
通学の電車で見かける度に
視線で文字をなぞって、今では
「あの時オセワになったハツネさん」の認識でいる。]
[もっとも、話しかけたことはない。
タイミングというものは難しいし、
大抵友人とつるみながら彼は帰るし、
「ハツネさん」は楽譜らしきと向き合っている様子だった。
なので遠くから、お世話になりました、と
見かける度に念を送るくらいだ。
貴方のおかげで試合にはでれました。負けたけど。]
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