―庭―
…………、――――――。
[中庭で、草陰に落ちた髪飾りを見つけた。よく知ったものだった。拾い上げてじっと見つめる。虚ろな目で、見つめている]
[右目を閉じ、それを手で覆う。]
……なんだ、これ?
[覚えた違和感に呟く。
魔女を探せるかと試した事は、確かに、何かを捉えたのだ。]
……。
[しばし考え、顔から手を離す。
立ち上がり、牢から出ると法廷へと向かった。]**
― 外壁 門の前 ―
[夜が明けるまで待っていた。
外壁の、堅牢な門の前で。
裁判官が来たら、誰よりも先に告げようと思っていたのだ]
だらしねえ。
[自分が、魔女である、と]
[裁判官を伸せるものなら、本当にそうしてしまおうかとも思っていた。
けれど二人きりになったところで、あっさり組み敷かれるものだから]
痛い痛いッ!
[声をあげているのにも構わず、刃物を突きつけられる。選べと。男自身が魔女を名乗るか、それとも"他の誰か"の名を告げるか]
――――…だ、だれか、って。
[それは死の宣告に等しいのに。
急を迫られる状況で、頭がよく働かない]
魔女。
魔女は女の子、だから…
[だが結局口に出来たのは、自分の名ではなく]
――クレスト。
[どれほどそうしていたか。
ようやく庭を歩きだせば、呆然と立ちつくしているクレストの姿が見えた。
肩を叩こうとして、その手を下ろす。
名を呼ぶのが精一杯だった*]
……いたい。
[左の手首が赤く腫れていた。一応、裁判官とやりあってみたのは本当らしい。悲しすぎるほどあっさりといなされたが。
エリッキとイルマは死んだ。どちらも男の所為で死んだ。何をしているのだろう。
何をしているのだろうか、僕は]
ユノラフさん。
[声がかかり、伏し目がちに振り返る。虚ろな瞳を除けば、いつもとあまり変わりない淡々とした表情で]
ぼくは、――…ぼくは。
[けれど微かに声は震えていた]
ねえ。魔女と人殺しって、どちらが悪いんだろうね。
[口許に漸く浮かんだのは、歪な笑み**]
[振り返る青年の様子に、息を飲む。
もとより飄々ととらえどころの無いような相手ではあったが]
お前は魔女じゃねえし。
[震える声。
交わらずに抜けていく眼差し]
人殺しでも、ない。
[感情とは別の形に曲がった口元。
それらが容易に想像させる――]
言わせんな。
[唇を引き結んだ]
[牢屋を覗き、法廷も覗く。誰もいないのを確認すると更に足を進め――庭へと。
そこで二人の姿を見つけた。
声を掛けず、ゆっくりと近付く。
クレストが手に持った髪飾り>>1を見る。
ユノラフの言葉>>7は聞こえただろうか。]
[昔から人より少し勘が良かった。
店の客の失せものを探り当てたのも。
病を隠していた父の嘘を見抜いたのも。
店に悪意を持って近付くものが何となく分かるのも。
すべて勘がいいだけだと思っていた。
それを違うと言い、隠すようにと言ったのは母だった。]
[此処に魔女がいるのなら、“これ”で探し当てられるかと期待した。
が。
捉えたものは、言葉にはなりきらない違和感だけ。
その違和感が何か分からず、ただ、視線を向けた。]
……?
[ふと。
ミハイルの視線が自分に向けられないことに気づく。
視線を追ってたどり着いた先にあったのは、彼に一番近しいはずの存在で。なのにその視線に違和感を感じて、眉根を寄せて、ミハイルを見直す]