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ただの観光客よ。
この村にはツチノコを探しに……――
[答えかけてから相手を改めてまじまじと見ると、赤い涙を流し、金属バットを装備していた]
……物騒ね。
[率直な感想を述べる声に張りはない。
少女から距離をとりながら、早足で教誨所へ向かおうとする]
[見ぃつけた、の声はかけず。
少年の幽霊は倒れ伏す美津保嬢のそばに在る。
弾痕を一度摩る仕草をして、立ち上がった。]
…教えてくれるなら、子守唄がいい
[トリスウイスキーの瓶にも似た生き物の影が、
草むらに蠢いて去る頃には、幽霊の姿も消える*]
[赤い闇に沈みゆく民家の片隅、
視線が一枚の広報紙へと落ちる]
『幻の珍獣 ツチノコが発見される』
[大々的に躍る文字を背負い、
モノクロ写真が見開き二ページに渡り、
掲載されていた]
[それから視線は、集会所の片隅へと落ちる。
ひとのざわめき越しに中心部を覗くと、
祝言の準備だろうか。
慎ましくも華やかな色彩が、
村の女達の手で飾られていた。]
[――ぱん。
銃声が、聞こえた。異形の女を撃った音の残響、ではない。もう一つの音が、響いた。何だ、と思う。一瞬、時が止まったように思えた。緩慢に思考を巡らせる間が、あった。――その空白は、弾けるように終わった]
…… っ あ、
[長身が、駆けていた勢いのまま、ぐらりと傾いだ。膝が地面に付き、そのまま全身が崩れ込んだ]
……っい、……ぐ……
[日もとっぷりと暮れた頃、
女は自分の存在に漸く気付く。]
あたしという人間はね、
そもそも何処にも存在しないんだよ。
そう、どこにもね?
人の何かを"知りたい"と思う気持ちが形作った、
ただの思念に過ぎないんだ。
[女は誰に語りかける訳でもなく、
言葉を紡ぐ]
知ってるかい?
この村には二つの時間が存在する事を。
それらが微妙にすれ違い、混ざり合い、
交し合い、奇妙な歴史を積み上げていくんだよ。
同じ時間軸で平行に進む二つの世界ってのも、
有るかもしれないねえ?
[赤涙は溢れ流れるまま。口元に刻まれているのは笑み。その下顎部は半ば昆虫頭部が如くに変貌している。翅根が震え…やがて、羽ばたき、乃木の身体を地上から持ち上げる。無造作に銃をぶら下げ構えれば、ズイハラの斜め上空より事も無げに身体へ撃つ。
翅根屍人、そして武器の優位性。
辺りへ、羽ばたく音が低音に響く。]
[自らに視線を戻すと、
視線と同じ高さに、赤い水面が揺らめいている。]
――携帯電話の電波塔、ね。
[仕舞って置いた名刺を取り出し一瞥。
ふっと息を吐くと、何も無かったかのように
名前も紙も消え去った。]
[望まず伏せた地面は、冷たかった。だが、それを消す程に、熱かった。――弾丸で貫かれた、胸が。――視界が、ちらつく。何処かから、遠く此方を見下ろしている、銃を構えた屍人の、視界。
己は、撃たれたのだ。気付かぬうちに、射程範囲に入ってしまっていた。心臓の鼓動に併せて襲う熱さと痛みを覚えながら、ゆっくりと、その事を理解した]
……は、……
[心臓からは外れているらしい。肺を貫かれたのかもしれない。苦しい。血液がどくどくと溢れ出る。寒い。熱い、のに。やられた。死。死ぬ? 死ぬ、のか。私は。こんなところで。化け物にやられて。
嫌だ。助けてくれ。駄目だ。痛い。私は――]
[苦痛と恐怖と絶望の意識が、遠ざかっていく。いつしか流れてきていた赤い水が、己が血と混じり合っていくのを、男は、「最期」に見た]
[「ツチノコを探しに」というのは口からでまかせだから、向こうが干からびた何かをツチノコと呼称しても、さして興味を抱かずに進んでいく]
…………。
[ふと――
思いを馳せるのは“きょうかい”の向こう側]
……キャー!
おまわりさーん、大変です、あの人捕まえてくださーい!
[ネクタイごとバッドをぶんぶんふりまわすと、物騒度三割り増し。
大きな水音に気づいて動きを止めると、『ゴッ』という音とともに後頭部にぶつかった。自分の]
痛い……
[頭をさすりながら四つんばいで川に近づく]
ずいぶんと、大きいね。
[白んできた空。
赤い水の川を逆流する、大きな何かが浮かび上がる]
お食べ?
[差し出した、ツチノコかもしれないしそうではないかもしれない何かを、そのいきものはアンの腕ごと口に含んだ**]
あたしはおいしくないよ。
あっちのおねえさんの方が、きっとおいしい。
がっ
[銃声。右腕から赤いしぶき。
走る自分と飛ぶノギでは、結果は火を見るより明らかだが]
ち、くしょー 泣くか笑うか! どっちかにしやがれ!
[鞄を抱いた左腕でなくて良かったと思う。
バリケードめがけて走る、鉱山の出口へ――否、途中で見つけた、横道へ姿を隠す]
こなくそ。
[大音量放送中のラジオを前方に放り投げ、自らは物陰に隠れる。鞄から取り出すのは、魔よけの、杭。
一瞬でいい。ラジオに気をとられてくれれば。もし背後を見せれば――]
[それから、幾らかの時間が、経って。
――男は、閉じた目を再び開いた]
……
……あ、……ああ。……
[軋んだような声を零しながら、男は体を起こした。少しずつ、少しずつ。ゆらりと立ち上がる。とぷり。水が揺れ、僅かに跳ねる、音がした]
……
[きょとんとしたように、辺りを見回す。空を仰ぎ見る。その双眸から、赤い涙が零れ落ちた]
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