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[叫び疲れ、ぼんやりとした瞳で、少年は彼らを見ている。]
……僕の時は、泣いてなんかくれなかったのに。
…………師匠。
[悲しげな表情で呟いて。
自分の言葉が、何を意味しているかを理解する前に、少年は消えた。]
[恨み続けることが出来るほど、叫び続けることができるほど、少年の魂は強くはなく。
……そこには、彼がいつも持ち歩いていた、手品用のボールが一つ、転がっているだけ。**]
[ひとしきり泣いた後、町娘は立ち上がって、体の重さに俯く。
薄暗い廊下の隅に丸いものが落ちていた。]
種も仕掛けも、ございません。
[拾い上げたボールを手のひらで包み、持ち主のいる場所へ向かおうと歩きだした。]
―― 詰め所 ――
人狼は死にました。
[静かに告げた少女は、自警団詰め所裏手へ向かう。
掘っ建て小屋に安置されたラウリの遺体に近づいて、ボールを傍らに置いた。*]
ショーは終わったのでしょう?
―― 森の奥 ――
[寂れた小屋のある、さらに奥に佇む人影。
町娘が手にした茶色の瓶から注がれる黄金色の液体は、芳香を残して地面を湿らす。]
はぁい、ベルン。
今なにしてる?
[そこは遺体が埋まっているわけではなく、見上げれば楡の木が葉を生い茂らせているだけの場所。]
─先の時─
[木漏れ日のさす森の中、女はゆっくりと歩みを進める。
手には、数日前に届いた手紙。
差出人は、運び屋として各所を巡る想い人]
……ようやく、帰ってくる目処がたったとか。
ったく……。
[零れるのは、小さなため息。
それでも、瞳に宿る色は穏やかに]
……ま、いいか。
無事に、生きて戻ってくるんだから。
[『生きて』。
今の女にとって、それは何よりも大事な事。
他者の生を閉ざして命を繋ぐ身には、何よりも大切なもの]
……ま、帰って来たら、一日二日ですまないくらい、グチにつき合わせてやる。
だから、さっさと帰っておいでよ、ね。
[アル、と。
足を止めた女は梢を見上げつつ、小さく小さく名を紡いだ**]
[金色の狼がベルンハードなのだと説明したときの大人たちの反応も、それを否定しようとした宿屋の主人の表情も、葬式への参列を許してはくれなかったドロテアの父の言葉も、忘れられはしない。]
ウソでもいいから……ううん。
ウソなんだって、言ってよ。
[町娘は、あの日以来、涙を流さないようにしてきた。
見上げた木々の隙間には空が見え隠れする。]
[その場から離れて、村の方へと歩き出す。
一度振り返ってから、駆け出した。]
[遠くとおく、か細く聴こえる、狼の声から逃げ出すように。*]
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