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[かしゃり。かしゃり。
祭りの日、賑わう人波から少し離れた、木々の陰になっている場所で、一人の青年がカメラを手に佇んでいた。不連続にあがるシャッター音は、蝉の合唱や人声に紛れるように]
……、
[青年は独り言の一つもなく、ひたすらに写真を撮り続けていた。青年は喋らない。一人の時は勿論、誰かと一緒である時にも。
極めて無口なのが、彼の性質だった**]
[病に伏せっている老婆ボタンから借りた、古文書や獣の毛で出来たブラシと格闘し山を越した。
集会所の入り口からこちらを覗く女学生に気づくと]
顔色が優れないようですが?
[アンの話す伝承には微笑みを返して、自分の化粧道具箱から取り出した紅を少女の唇に差す]
おまじないとでも思って下さい。
呪いの花なんて、面白いじゃないですか。
[人の出入りが落ち着くと、名刺を看板代わりに掲げてみる。
誰かがくれば、付け値で化粧を施すつもりだ*]
[しばらくは話に時間を費やして、その合間に周囲の様子も窺い見る]
さぁさ、盆踊りが始まってしまうわ。
櫓を囲ってちょうだい。
[盆踊りの準備が出来た頃を見計らい、周りに居た子供達に対して注意を引くように手を叩き、櫓の周りに向かうよう促した。
一緒に行こう、と袖を引く子も居たが、それには苦笑と共に首を横に振って]
ごめんなさい、私足を挫いてしまってるの。
今年は踊れないから、ここで皆が踊るのを見ているわ。
[袖を握っていた子供の手を自分の両手で包み、ぽん、と軽く子供の手を叩いて解放する。
子供は残念そうに返事をして盆踊りの輪の中へ。
モミジはその様子を楽しげに眺めていた*]
[祭りのメインは盆踊りだ。
辿り着いたころにはもう、太鼓が鳴り響いている。
自分の余興なんて謂わばお零れの、酔っぱらった大人向けのもの。
出番は、まだない。]
摘めば神隠しに遭うと、ねぇ。
[まだもの珍しいチューインガムを咀嚼し。
また噂話に、ふーん、と無関心な様子を見せる。]
ねぇ、あそこって何やっているの?
[詰まらなさそうに見渡した先。
集会場らしき場所から人の出入りを見つけたのなら。
誰かに問うだろうか。]
摘んだら願いの叶う花?
お花じゃないけど、こちらはいかが。
幸せの星の砂。彼とおそろいでおふたつどうぞ。
これなら彼が神隠しに遭うこともないでしょう?
そうかい、それじゃ一緒に探しに…あぁ、でも。晩にだけ咲くんだったら、今探しても花は見られないよ。
蕾くらいは見られるかもしれないけれど、それでもいいかい?
…そうか、それじゃ探すのは止めておこう。
いや、そんな顔をされても僕にはどうしようも…
あ、ほら。
ダンケお兄さんが負けそうだよ。
今のうちに皆の中に混ざっておいで。
そうだね。
嘘か真か解らぬ話より、屋台の食べ物の方が魅力的だと思うよ。
うん、いってらっしゃい。
僕はここでもう少し本を読んでいるよ。
ここは日差しが翳っていて、涼しいからね。
…おや?
この下駄の音は…あぁ、やはりケン君か。
君も涼みに来たのかい?**
[片足で立っているには限度がある。
怪談話などしていたら尚の事、後ろには気づかないもので」
あの世っていうのは、こことは違う場所だし、帰ってこられる場所じゃあな──
どうわっ!
[どーん、と後ろから体当たりの衝撃に、つんのめって転がる。
今まで神妙ににしていた子供らも、一瞬の沈黙を破って、やんややんやの大喝采だ]
[カラン コロンと響く下駄の音。
子どもたちが騒ぐ声と、よろける大人の姿を目の端で捉えては。]
いや、良いよ遠慮しておく。
それにああいうのは綺麗なお嬢さんに限るだろう?
[集会場のような場所で行われている事をきけば。
ふっと自嘲気味に笑みをひとつ。]
アタシ、屋台見てくる。
[ギターを片隅に置き、立ち上がっては――]
まぁありがとう。
…お酒では無いわよね?
[歩いて回れないモミジのためにと飲み物を運んでくれた人に礼を言う。
笑いながらの確認は自分の体質を知ってのこと。
貰ったお茶をありがたく口にして、モミジは小さく息を吐いた*]
引率?
あぁ、そういえば君、去年も頼まれていたっけ。
今年もとはお疲れ様だったね。
…おや?
実力行使とは中々侮れない子だ。
ふふ、しかしダンケ兄さんには悪いことをしたかな。**
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