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[ぽつりと]
菊お婆さんが「狐の仕業」と言ってた、とサヨちゃんは言ってたけど、それじゃあその狐というのはただの妖怪類、というか畏れるものを表す言葉か…。
[アンの事件から数日、いまだに失踪が後を絶たない。またも姿を消した人間の話で話題は持ちきりだった。ポルテが行方不明になったという話は、すぐナオの耳にも入ってきた]
……。
やっぱり、あそこに名前の書いてある人が……。
[またあの自由帳を確かめようと、喫茶店へ向かう]
[喫茶店のドアを開けると、ベルがカランと乾いた音を立てる。注文もそこそこに自由帳を覗き込んだ]
[水に消されていたことから、やはり噂は真実だったと知る]
……。
―ポルテの家―
[昨日と同じように郵便受けに近づいた]
ない……。
[謎の手紙がそこにはなかった。
ないのは手紙だけではなく、若い女もなのだろう]
いつまでこんなのが続くのかな。
[独り言が口に出る。誰が、何のために、こんなことをしているのかと、怒りのような悲しみのような感情がこみ上げる]
……こんなときでも、怖くないっていうのかな。
[これ以上誰かが消えるよりも、自分が消える方が怖くないと言うのなら、まだ理解はできるのだけど]
―喫茶店へ続く道―
暑い。
[恨めしい思いをこめて呟く。
この道をまっすぐ進めば、やがて左手に喫茶店が見える。
そこから更に進むと、坂道の途中によろず屋。
そして、突き当たるのは高校の敷地]
毎日毎日。
[同じ道を歩き、学んできた。
この道の景色を覚えているのと同じような明確さで、自分の未来は思い描くことが出来た]
将来の夢は、学校の先生になることです。
[初めて作文に書いたのは、小学校三年生の頃。
“けんけんぱー”の動きで飛び跳ねながら二メートル程進む]
ゆめ?
[自嘲に顔が歪むが、きゅっと口を引き結んで真っ直ぐ歩き出した]
[ドアの音に気づき、そちらを振り向く。そこにはすっかり不可解な存在となってしまった友人の姿があった]
……サヨ。
ポルテさん、消えたよ。
[ちらりと自由帳に視線を移しながら呟く]
うん、そうみたいだね。
お巡りさんがウロウロしてた。
[店内を見渡す。
マスターはここ数日で五歳は老け込んだように見える]
昨日何話してたんだろう。
[ポルテとモミジが並んでいた席を見やった]
[サヨは相変わらずだったが、もうその話はしない。彼女は彼女で考えてることもあるのだろう、そう考えることにした]
確かに、ここ数日は必ず見るよね。
ここまで人が消えてたら、当然だろうけど。
[サヨの視線の先にあるのが、前にポルテとモミジが2人で話していた席だと気づき]
モミジさんに聞いてみたんだけど、ポルテさんの手紙のことだって。
……詳しいことまでは分からないけど。
ふぅん。
[蚊の鳴くような声で言って、はたと動きを止めた]
待って。
いつの、何の手紙?
フユキさんが否で、リウ子ちゃんも否人攫い。
毎日手紙が来るなら、ひとつ足りなくない?
手紙が足りないってのは、気になってたんだけど。
[いろいろなことがありすぎて、混乱気味の記憶を探る]
……確か、リウがいなくなる前の話。
フユキさんがいなくなって、その次……かな?
ただ「手紙のこと」ってしか言われなかったから、誰が、どんな風に言われたかまでは……。
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